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52号 巻頭言

反レイシズムの連帯を拡げよう

米国において、白人警官による黒人への暴力・殺人事件はこれまでも繰り返されてきたが、2020年5月のジョージ・フロイド殺害事件を機に端を発し、全米に巻き起こった直接行動運動であるBML(Black Lives Matter)運動は世界へと拡がりをみせ、今なお世界で人種差別/レイシズムの暴力が跋扈する現実を眼前に突き付けた。

このBML運動は、日本のメディアでも大きく取り上げられたが、あたかも日本には人種差別/レイシズムが存在しないかのように、それらの多くは日本における人種差別/レイシズムを省みるものではなかった。

実際はどうか。日本政府は、歴史的に在日朝鮮人に対する差別・弾圧政策をとり続けてきたが、在日朝鮮人差別のみならず、アイヌ差別、琉球・沖縄人差別はすべて人種差別/レイシズムといえる。国連人種差別撤廃委員会から、これらの差別が人種差別撤廃条約上の人種差別にあたるとして、日本政府は繰り返しその是正を求める勧告を受け、実効的な差別禁止の立法措置が求められている。それにもかかわらず、前述のように日本に人種差別が存在しないかのような認識が支配的である原因について、梁英聖氏は「日本社会に人種差別は存在する。見えない。なぜだろうか。わかりやすい原因の一つは日本政府によって人種差別が隠されていることだ。国内で頻発している人種差別について、日本政府は調査もせず、統計もとっていない。もし交通事故や犯罪が、調査もされず統計も取られない場合、交通事故や犯罪は存在じたいが政府によって隠されてしまう。ちょうどこれと同じことが人種差別では長年にわたり続けられている。これは政府がヘイトクライム統計を公表する米国や英国の場合、政府がレイシズムを隠すことができないことと対照的である」(ちくま新書『レイシズムとは何か』)と述べる。

これに加え、日本政府は朝鮮高校・朝鮮幼稚園を「無償化」制度から除外し、コロナ禍における学生支援制度から朝鮮大学校学生を排除するなど、自ら率先して在日朝鮮人に対する差別政策をとり続けている。

このような日本政府の姿勢は地方政府にも波及し、朝鮮学校への補助金を削除する自治体が増加、昨年にはさいたま市がコロナ感染防止対策の一環として市内の幼稚園、保育園に備蓄用マスクを配布した際、同市内の朝鮮幼稚園を配布対象外とするなど(大きな批判の声があがり、その後配布が決定された)、日本において在日朝鮮人差別は構造化され、繰り返されてきた。

さらに、こうした政府による差別政策は、日本社会における在日朝鮮人に対する差別のハードルを下げてきた。たとえば80・90年代にはチマ・チョゴリ切り裂き事件など、朝鮮学校を標的にしたレイシズム犯罪が頻発、2000年代には「在特会」など過激化した排外主義者たちが日常的にヘイトスピーチを繰り返し、京都朝鮮第一初級学校(当時)を児童がいる中で襲撃(2009年)するなど、在日朝鮮人社会に大きな衝撃を与えた。昨今では、大企業であるDHCが公式サイトにおいて、代表取締役自ら「サントリーのCMに起用されているタレントはどういうわけかほぼ全員がコリアン系の日本人です。そのためネットではチョントリーと揶揄されているようです。DHCは起用タレントをはじめ、すべてが純粋な日本人です。」(2020年11月)といった露骨な民族差別発言を繰り返し、これらの発言を掲示し続けた。これについて社会的に大きな批判があがる中、同社と協定関係にある複数の自治体や関係企業からも批判を受け、同社は今年5月末にようやく同発言を削除したが、6月4日現在、公式サイトにおける経緯説明や謝罪は一切ない。近年、反差別運動の具体的成果として「ヘイトスピーチ解消法」(2016年)が施行されたが、限界も多く、未だ日本社会において反レイシズム、反差別の社会的規範が定着しているとはいえない。

梁英聖氏は、こうも述べる。「レイシズムとは、人種化して、殺す(死なせる)、権力である」(前掲書)。在日朝鮮人集住地区である大阪の鶴橋駅前では、中学生が在日朝鮮人に向け「南京大虐殺ではなく鶴橋大虐殺を実行しますよ!」と叫ぶヘイト街宣が行われたが(2013年)、「ヘイト暴力のピラミッド」の有名な図が指し示すように、偏見や先入観はやがて差別行為や暴力にいきつき、最終的にはジェノサイドへと道をひらいていく。反レイシズムは、わたしたち在日朝鮮人の命にかかわるきわめて具体的な課題である。

グローバルな反レイシズム運動に学びながら、日本における反レイシズムの連帯を拡げ、差別と暴力の根絶に向けて、進んでいきたい。

人権と生活52号 目次

‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 52号 (2021年6月11日発売)∴‥∵‥∴∴‥∵‥

◆主張:反レイシズムの連帯を拡げよう

【特集】レイシズムとしての在日朝鮮人差別

◇レイシズムとしての在日コリアン差別をどのように分析するか──「在日特権」を生み出すレイシズム法制としての1952年体制を再論する……梁英聖

◇インターネット上のヘイトスピーチ……趙學植

◇「日本にも人種差別はある!」 ── 闘うNGOからの報告……小森恵

◇在日朝鮮人と日本の社会保障制度 ── 国籍条項を問う……金静寅

■インタビュー 

◇前田朗さん/自覚なきレイシストの国で ── 四半世紀にわたる国際人権活動の経験から

■民族教育

◇朝鮮幼稚園が子ども子育て新制度の支援の枠内に ── 幼保無償化からの朝鮮幼稚園除外問題、あらたな局面を迎える……宋恵淑

■寄稿

◇マイクロアグレッションの視点から考える在日朝鮮人差別……朴利明

◇「敵認定」の制度化とその帰結 ── 朝鮮学校と日本のレイシズム……ハン・トンヒョン

◇「14歳に満たない外国人」の起源をたどる ── 外国人登録の年令的免除者に関する覚書……鄭栄桓

■会員エッセイ

◇在日コリアン女性のハラスメント事例集を発刊して……河庚希

■会員の事務所訪問

◇SHIN司法書士事務所 辛彰男さん/同胞の目線で仕事ができる同胞社会の「かかりつけ司法書士に」

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■ニュースTOPICS 

■人権協会活動ファイル

■資料

51号 巻頭言

歴史を捻じ曲げようとする動きに抗して

 2012年12月から7年8カ月にも及んだ安倍政権。「悪夢のような民主党政権」と前の政権をこき下ろしてきた彼だが、朝鮮学校関係者にとって彼が首相に在位した7年8カ月は、就任直後に決定した「高校無償化」からの朝鮮学校排除に始まり、「幼保無償化」からの排除を経て、「学生支援緊急給付金」からの朝鮮大学校生排除に終わるまさに「悪夢」の歳月であった。

 また「新しい時代の日本に求められるのは、多様性であります」(昨年10月、国会における所信表明での発言)とも彼は言うが、彼の就任後まもなく、新大久保や鶴橋をはじめ各地でヘイトデモは激増、「ヘイトスピーチ」は2013年の流行語対象にノミネートされるに至った。

 さらに1923年の関東大震災時の朝鮮人虐殺事件について、東京都では2013年1月、高校生向けの副読本『江戸から東京へ』の「数多くの朝鮮人が虐殺された」という記述が、「碑には、大震災の混乱のなかで、『朝鮮人の尊い命が奪われました』と記されている」に差し替えられた。また、横浜市では、中学生向けの副読本『わかるヨコハマ』2012年度版において「殺害」という表現を「虐殺」に変え、その犯行に自警団のみならず軍隊や警察も関与していたことを明記したことに対し産経新聞が攻撃を加え、自民党市議が市を突き上げた。これを受けて同市はそれをすべて回収、明くる2013年度版では「虐殺」は「殺害」に戻され、軍や警察の関与についての記述も削除されるということが起きた。

 安倍政権の出帆を契機にこういった動きが、あたかもセット商品のごとく溢れだし、そして今日まで続いてきたのである。

 ヘイトをはばからない者は政党までも作り、政治活動と称して差別的言辞をまき散らし、歴史を捻じ曲げ美化しようとする者は、「群馬の森」にある強制連行犠牲者追悼碑の撤去を県をして判断させるに至り、続いて関東大震災時の虐殺による朝鮮人犠牲者の追悼碑に目を付け、これを撤去させることを画策し、行動している。

 2017年には、朝鮮人虐殺を検証し「関東大震災時には横浜などで略奪事件が生じたほか、朝鮮人が武装蜂起し、あるいは放火するといった流言を背景に、住民の自警団や軍隊、警察の一部による殺傷事件が生じた」、「特に3日までは軍や警察による朝鮮人殺傷が発生していた」などと記した内閣府中央防災会議の報告が内閣府のサイトから一時的に閲覧できなくなるという事件まで起こった(その事実が朝日新聞に載り、国会でも追及される中、再び閲覧は可能となる)。なお、こういった記述を攻撃してきた某国会議員が、朝鮮学校の「高校無償化」排除や補助金停止などを主張する急先鋒でもあることは象徴的である。歴史を糊塗しようとする者の目には、民族としての歴史的記憶を言葉や文化ともども継承することを可能にする民族教育は、邪魔なものとしか映らないのである。

 まさに目を覆いたくなるような状況だが、そのような中でも、それに異を唱え、屈せず立ち向かう人たちはこの社会にも確実に存在している。

 県の(設置期間の更新申請)不許可処分は社会通念に照らし著しく妥当性を欠く、とした「群馬の森」の追悼碑裁判おける前橋地裁判決(2018年2月14日)。職場で「在日は死ねよ」などのヘイトスピーチを含む文書を配布され、就業時間中に教科書展示会に動員され、「新しい歴史教科書をつくる会」の元幹部らが編集した育鵬社の中学教科書に好意的なアンケート回答を書くことまで求められるという精神的苦痛を味わった在日三世の女性の訴えを認め、これらを違法とし、会社と会長への損害賠償を認めた大阪地裁堺支部判決(2020年7月2日)。東京都の関東大震災時の朝鮮人犠牲者への追悼式典への誓約書提出要求撤回。2021年度から使用される中学校の教科書採択における育鵬社の歴史・公民教科書採択自治体の激減(「歴史」6.4%→1%、「公民」5.8%→0.4%)。刑事罰を盛り込んだ川崎市のヘイト禁止条例の成立・施行。

 これらの闘いの成果が、それを証明している。

 そして、その成果は、決して十分なものとは言えないまでも、私たちに一筋の光明をさし示してくれている。

 これからも、そういった人々と連なり、闘いの一翼を担い続けていきたい。

人権と生活51号 目次

‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 51号 (2020年11月11日発売)∴‥∵‥∴∴‥∵‥

◆主張:歴史を捻じ曲げようとする動きに抗して

【特集】公論化する歴史修正主義

◇日韓における『反日種族主義』現象……加藤 圭木

◇「つくる会」系教科書の“終焉”と残された課題……鈴木 敏夫

◇日本軍性奴隷制犯罪の責任を問うための一視点―解放直後の朝鮮女性運動史から考える……李玲実

◇関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式をめぐる昨今の動きについて―「追悼辞送付中止」と「誓約書提出要請」問題を中心に……金哲秀

■インタビュー

◇康成銀さん/歴史を学び、記憶することの意味―脱植民地主義・脱冷戦に向けた歴史研究と在日朝鮮人

■民族教育

◇ここまで巻き返した朝鮮幼稚園「幼保無償化」適用問題―2020年度に行われる「調査事業」と来年度からの「支援策」への取り組み……宋恵淑

◇幼保無償化から外国人学校幼稚園を除外する日本政府に「あかんやろ」の声を!……田中 ひろみ

◇コロナ禍における朝鮮学校差別……金東鶴

■寄稿

◇フジ住宅ヘイトハラスメント裁判・第一審判決の報告……安原 邦博

■連載

◇差別とヘイトのない社会をめざして(11)/人種差別撤廃条約第四条の解釈(2)―パトリック・ソンベリーの注釈……前田 朗

■会員の事務所訪問

◇西天満法律事務所 金京美さん(弁護士)/知識と経験を生かして、同胞の権利の向上のために尽力していきたい

■最近の同胞相談事情

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■ニュースTOPICS 

■人権協会活動ファイル

■資料

『人権と生活』50号・目次

‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 50号 (2020年6月10日発売)∴‥∵‥∴∴‥∵‥

◆主張:どのような状況にあっても、あらゆる人の権利が保障される社会を

【特集】日本の入管行政と在日外国人の人権

◇急増する外国人労働者とその人権―ローテーション政策の限界……旗手 明

◇2012年からの「新たな在留管理制度」によって発生した諸問題の解決に向けて―16歳時の更新問題、更新通知問題、身分関係証明問題を中心に……金東鶴

◇長期収容を通じて入管がくわだててきたこと……永井 伸和

◇日本の留学生政策の歴史的背景とそのビジネス化……瀬戸 徐 映里奈

◇在留特別許可の厳格化―「みそぎ帰国」を求められたフィリピン人の事例から……金銘愛

■民族教育

◇外国人学校幼稚園の子どもたちを仲間外れにしないで!―「幼保無償化」からの各種学校幼児教育施設除外問題……宋恵淑

◇外国人の子どもの教育にかかわる今日的課題……小島 祥美

■連載

◇差別とヘイトのない社会をめざして(10)/人種差別撤廃条約第四条の解釈(1)―パトリック・ソンベリーの注釈……前田 朗

■会員の事務所訪問

◇黄公認会計士・税理士事務所 黄聖銖さん/若い世代へつないでいくケジュボンに

■最近の同胞相談事情

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■ニュースTOPICS 【レポート】さいたま市が備蓄マスク配布対象から朝鮮幼稚園を除外(3月6日)

■人権協会活動ファイル

■資料

50号 巻頭言

どのような状況にあっても、あらゆる人の権利が保障される社会を

「(マスク)1箱が欲しいのではない。子どもの命を平等に扱ってほしい」

2020年3月、新型コロナウイルスの感染防止策として市内の幼稚園や保育所への備蓄マスクの配布を開始したさいたま市は、当初、同市内にある埼玉朝鮮初中級学校幼稚部をマスクの配布対象から除外していた。この問題を受けて、同幼稚部の園長は冒頭のように語った。

市は、朝鮮学校関係者や本協会など多数の個人・団体による抗議の声を受け、結果的には朝鮮学校も配布対象に含めた。しかし、市はあくまで差別的な意図はなかったと主張し、当初の除外措置に対する謝罪を求める多くの市民の声にも応じなかった。

このときに市が自らの措置を正当化する根拠として持ち出したのは、朝鮮学校は「幼保無償化」制度の対象ともなっておらず、市が指導監督や指導監査を行う対象施設ではないという、マスク配布の目的であるウイルスの感染拡大防止とはなんら関係のないものだった。

市によるこのたびの措置は、平常時における行政による差別が、いとも簡単に緊急時における「命の差別」へと繋がるという恐ろしい現実を私たちに示している。

振り返れば2013年、東京・町田市の教育委員会が、市内の学校に通う児童への防犯ブザーの配布対象から朝鮮学校を排除する決定を行ったのも(抗議の声を受けて後に撤回されたが学校への正式な謝罪はなされなかった)、「高校無償化」制度からの朝鮮学校除外という日本政府による差別に便乗したものだったといえる。

言うまでもなく、特定の集団に属する人びとの健康や生命を、平常時の差別と結びつけて軽視することは、人権と人道の観点から絶対に許されてはならないことだ。にもかかわらず、とりわけ行政がそのような措置をとることは、市井の人びとに「朝鮮人には何をしてもよい」といわんばかりの強力なメッセージを発し、朝鮮学校や在日朝鮮人への差別を煽動することになる。

実際、さいたま市の問題に際しては「文句があるならお帰り頂ければ」「マスクが欲しいなら拉致被害者と交換しろ」「朝鮮保育園にマスクを支給すると本国へ送り軍事転用されるから支給反対」などのヘイトスピーチやデマがネット上に溢れた。

このような事態を引き起こしておきながら、「命の差別」を行った事実を頑なに認めず、当事者への謝罪すらまともに行っていないさいたま市、またこうした差別や草の根のヘイトスピーチを傍観・放置し、朝鮮学校への制度的差別を改めない日本政府の態度を改めて強く批判したい。

◇   ◇   ◇

このたびの新型コロナウイルスの脅威は、朝鮮学校や在日朝鮮人のみならず、社会的に周縁化されている人びとの権利が平常時から十全に保障されていない状況を改めて鮮明にあぶり出している。

例えば入管施設に収容されている外国人住民は、普段から劣悪な居住環境や医療状況に置かれているため、ウイルス感染のハイリスクにさらされている。仮に収容を免れたとしても、制度的に就労が認められていないがゆえの生活困窮や当局による摘発への恐れから、健康に不安があっても医療機関へのアクセスが叶わない人びとも多いだろう。

また、安価な労働力確保策として利用されている技能実習制度のもとで働く外国人技能実習生の多くも、多額の借金や長時間労働、賃金未払い、ハラスメントなどの過酷な労働環境ゆえに日常的に健康を保ちにくく、感染のリスクが高いといえる。そのうえ、多くはコロナ禍の影響で真っ先に解雇の対象となり、生活の見通しがつかない状況に追いやられている。

こうした状況から見えてくるのは、ウイルスはその人の国籍や民族などの属性を問わず平等に感染するが、ウイルスに感染するリスクやウイルスの弊害は、その人の属性によって不平等にもたらされるという現実だ。「ウイルスとの戦い」が声高に叫ばれる今、私たちが真に立ち向かうべきは、こうした不平等な状況をつくり出している公権力や、そのような社会を構成する私たち一人ひとりの心に潜む他者への偏見や差別ではないだろうか。

どのような状況にあっても、あらゆる人の権利が保障される社会を目指し、今後も声を上げていきたい。

抗議文

さいたま市長 清水勇人 さま

この度、さいたま市は、新型コロナウィルスの感染防止措置として、①放課後児童クラブ②認可保育所③認定こども園④私立幼稚園⑤小規模保育事業所⑥事業所内保育事業所⑦認可外保育施設⑧障害児通所支援所、以上8区分のこども関連施設について、職員用マスクの配布を始めました。

しかし、ここには大宮にある埼玉朝鮮初中級学校(幼稚部も併設)が含まれていません。

感染病対策の一環として同校にも休校を促す「新型コロナウイルス感染症対策のための外国人学校等における対応について(事務連絡)」が届いています。これに関連して、厚生労働省では休校措置に伴う施策として「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」を実施することとしましたが、この助成制度においては学校教育法上の「各種学校」である朝鮮学校などもその対象に含むこととなりました。

奇しくも本日は、9年前に東日本大震災があった日です。当時、仙台にある朝鮮学校で行われた炊き出しには多くの日本の市民も参加し国籍や民族の区別なく分かち合いました。  

同様に1995年の阪神淡路大震災の折には兵庫県下の朝鮮学校の炊き出しに多くの日本の市民が参加しました。

困ったときに垣根を越えて共に助け合う、この当然のことをさいたま市ができない理由が果たしてあるのでしょうか?

さいたま市は、2014年3月に発表した『国際化推進基本計画』で、「外国人市民もくらしやすいまちづくりを目指し、互いの文化や習慣のちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の一員として共に生活し環境を共有する多文化共生の社会づくりを推進します」と宣言していますが、朝鮮学校排除はこの精神に明らかに反します。

私たちは、この度のマスク配布措置の対象に、朝鮮学校が含まれていないことについて、これを人権上、また人道上も、到底看過できない、許し難い行為として断固抗議するとともに、早急にその対象に同校を含むことを強く求めます。

2020年3月11日

在日本朝鮮人人権協会

東京都台東区台東3-41-10-3F 

会長 金奉吉

49号 巻頭言

反ヘイトの取り組みのさらなる深化を

 日本におけるヘイトスピーチは、インターネット上で跋扈するのみならず、官民一体の「北朝鮮バッシング」、「嫌韓」ムードに下支えされる形で、2000年代に「行動する保守運動」を標榜する排外主義政治団体などが中心となり日本各地で頻繁に展開されてきた。その者らは「直接行動」を標榜し、在日朝鮮人集住地区において朝鮮民族を直接的に侮蔑・攻撃するヘイト街宣を行ったり、民族団体・民族学校を標的にするなど、およそ看過容認できないものであった。

 中でも、2009年の在特会メンバーなどによる「京都朝鮮学校襲撃事件」は、在日朝鮮人社会に大きな衝撃をもたらした。当メンバーらは在日朝鮮人児童が校舎内にいる平日日中に、校門前で「北朝鮮のスパイ学校」など、聞くに耐えない罵詈雑言を「抗議行動」として行ったが、事件当時、警察はなんら具体的な対応をとらず、ヘイト行動は「野放し」にされた。しかし、こうした状況を座視せず、京都朝鮮学校の当事者は裁判闘争を闘いぬき、画期的な勝訴判決を勝ち取った。

 このように、跋扈するヘイトスピーチに対抗するため、当事者・弁護士などによる地道な活動が展開され、ヘイトに対する法規制の議論も重ねられてきた。その結実の一つとして、2016年に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(ヘイトスピーチ解消法)」が成立した。同法は罰則規定のない理念法であり、また「本邦外出身者」に対象を限るなど問題点のある法律ではありつつも、日本において「反ヘイト」の環境をつくる画期となるものであった。

 各自治体においても「反ヘイト条例」策定の取り組みが進んでいる。中でも川崎市は、ヘイトスピーチを三回繰り返した場合50万円以下の罰金を科すなど、全国で初めてとなる刑事罰を規定した条例素案を示し、パブリックコメントで大多数の支持を受け、市議会に提出される方向で進んでいる。

 しかし、ヘイトスピーチはより「巧妙化」し、新たな場に広がりつつある。2019年春の統一地方選挙において、排外主義政治団体が擁立した候補が、公職選挙法上認められた選挙活動の自由をタテに、「政治演説」を装い「日本を批判するなら朝鮮半島に帰れ。在日も帰れ」(2019年3月30日、神奈川県相模原駅前)といったヘイトスピーチを各地で繰り広げた。とりわけ、在特会の初代代表であり日本第一党代表である桜井誠が、朝鮮学校が隣接する北九州の折尾駅前において行った同党・桑鶴和則候補の「応援演説」(同年3月11日)は、明確に在日朝鮮人および朝鮮学校を攻撃する内容であった。

 こうした事態を受けて、法務省は「選挙運動等に藉口した不当な差別的言動その他の言動により人権を侵害されたとする被害申告等があった場合には、その言動が選挙運動等として行われていることのみをもって安易に人権侵犯性を否定することなく[…]その内容、態様等を十分吟味して、人権侵犯性の有無を総合的かつ適切に判断の上、対応されるよう願います」(2019年3月12日付・法務省人権擁護局調査救済課補佐官事務連絡)と各法務局に通知したものの、政府の姿勢は消極的なものであり、いまなお反ヘイトの取り組みは、当事者たちの地道な運動によるところが大きい。

 東京都は、2019年10月16日、練馬区内での「街頭宣伝」における「朝鮮人を東京湾に叩き込め」「朝鮮人を日本から叩き出せ、叩き殺せ」の言動(2019年5月)、東京都台東区内でのデモ行進における「朝鮮人を叩き出せ」の言動(同年6月)を、「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例(オリンピック条例)」に基づき初めてヘイトスピーチとして認定し、その発言内容を含めて公表したが、これも都民の粘り強い申し入れを受けてのものである。

 地方自治体における実効的な条例の策定など、いまだ跋扈するヘイトに対する取り組みのための理論的・実践的課題は多い。しかし、だからこそ私たち人権協会は、法律家、研究者、活動家などの力を結集し、差別とヘイトのない社会を構築していくための取り組みをより深化させていきたい。

『人権と生活』49号・目次

‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 49号 (2019年11月18日発売)∴‥∵‥∴∴‥∵‥

◆主張:反ヘイトの取り組みのさらなる深化を

【特集】拡がる反ヘイトの取り組み

◇各地域における人種差別禁止条例制定の必要性と課題ー東京弁護士会「人種差別撤廃モデル条例案」の活用ー……金哲敏

◇十条駅前のヘイトデモ禁止の仮処分について……李世燦

◇折尾駅前民族差別演説事件に関する取り組み……朴憲浩

◇京都における反ヘイトの取り組み……玄政和

◇川崎の差別禁止条例の意義と制定までの過程……宋惠燕

■民族教育

◇兵庫県による朝鮮学校に対する補助金減額の不当性……李洪章

■寄稿

◇朝連強制解散、財産接収に対する在日朝鮮人の取消・反対運動(下)……金誠明

◇「徴用工問題は解決済み」ではない―植民地支配責任に向き合わない日本……高井弘之

◇カナダでの「歴史戦」をふり返って……乗松聡子

◇在日朝鮮人と「精神障害」をめぐる問題―朝鮮近現代史・在日朝鮮人史の視点から……鄭永寿

■連載

◇差別とヘイトのない社会をめざして(9)/人種差別撤廃条約とマイノリティ―ジョシュア・カステリーノ論文の紹介……前田朗

■会員の事務所訪問

◇許壮栄さん(司法書士)/在日朝鮮人である自分だからこそできる業務がある

■最近の同胞相談事情

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■ニュースTOPICS 

■人権協会活動ファイル

■資料

「幼保無償化」制度からの朝鮮幼稚園排除に対する在日本朝鮮人人権協会抗議談話

今年5月10日に「改正子ども・子育て支援法」が国会で成立し、10月の消費税増税と同時にいわゆる「幼保無償化」制度が実施されることになったが、法律上、各種学校の運営する幼児教育施設のみが制度の対象外とされた。

制度の対象には、認可施設である幼稚園、保育園、認定こども園に限定されず、広く認可外の施設も含まれているにも関わらず、全体の約0.16%に過ぎない各種学校認可の外国人学校の施設についてのみ制度の適用外としたことは、意図的な排除と断じざるを得ない。

朝鮮学校をふくむ各種学校の施設を制度の対象外とした理由につき、政府は「各種学校は、同法(学校教育法)1条の学校とは異なり、幼児教育を含む個別の教育に関する基準はなく、多種多様な教育を行っており、また児童福祉法上、認可外保育施設にも該当しないため、無償化の対象とならない」としたが、これはなんの説明にもなっていない。「多種多様な教育」は積極的に推進されるものでありこそすれ、排除の理由になるはずがない。

日本も加盟する国連教育科学文化機関(ユネスコ)の31回総会で採択された「文化的多様性に関する世界宣言」(2001.11.2)第2条には、「地球上の社会がますます多様性を増している今日、多元的であり多様で活力に満ちた文化的アイデンティティーを個々に持つ民族や集団同士が、互いに共生しようという意志を持つとともに、調和の取れた形で相互に影響を与え合う環境を確保することは、必要不可欠である。すべての市民が網羅され、すべての市民が参加できる政策は、社会的結束、市民社会の活力、そして平和を保障するものである。」とあるが、政府の説明は、この世界の潮流である精神と根本的に対立するものであり、排除ありきの後付けの理屈としか言いようがない。

これまでも日本政府は、たとえば国連の場で朝鮮学校への補助金不支給問題につき追及を受けたところ、「朝鮮籍を含め外国人の子供については、公立の義務教育諸学校について日本人児童生徒と同様に無償で教育を受けることができ、就学の機会の確保を図っている」、したがって差別などしていない、朝鮮人児童、外国人児童は日本の学校に行けばいいと居直るように繰り返している。このような政府のスタンスは、多様性を否定し、かつ子どもたちの肯定的な民族的アイデンティティ形成に欠かせない民族教育を否定する極めて暴力的なものである。

私たちは、あらためて「幼保無償化」制度からの外国人学校施設排除、そして在日朝鮮人の民族教育の場を切り崩していく政府当局の姿勢に対し強く抗議するとともに、「子ども・子育て支援の内容及び水準について、全ての子供が健やかに成長するように支援する」という法律の趣旨に立ち返り、朝鮮学校を含む外国人学校が運営する施設についても公平に制度を適用することを求める。

2019年9月11日
在日本朝鮮人人権協会
会長 金奉吉