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『人権と生活』41号 巻頭言

日本の帝国主義と植民地主義を問う歴史的存在として

「日本はいま、経済大国でもあり、軍事大国でもあります。そういう大きな国が今度派兵するというのは、どういうことでしょうか。今度は何をするために派兵をするのでしょうか。過去にやったことを明らかにもせず隠したままで、今度は出かけていって誰かを殺すことになるのでしょうか。

過去において不幸にした人びとに対して何らかの謝罪があってしかるべきです。過去に起こったことを、ちゃんと謝罪すべきではないでしょうか。そこから新しい関係が始まるのではないでしょうか。私のように従軍慰安婦にされた人に対して謝ることすらせず、いま派兵する日本が怖いのです」

日本軍性奴隷制による被害に対する日本政府の謝罪と賠償を求め、韓国で初めてサバイバーとして名乗り出た金学順さんが、一九九一年、日本で行った証言である。同年の湾岸戦争をはじめとする自衛隊の海外派遣本格化という日本の軍国主義再現への恐怖の感情が、かつて自身を日本軍の性奴隷とし残虐の限りを尽くしたばかりか、その事実に対して真相究明も謝罪もせず、むしろ「業者が連れ歩いた」と国家責任を否定して憚らない日本の植民地主義への憤怒の感情と共に吐露されている。

日本政府による真の謝罪を求める日本軍性奴隷制サバイバーの呼びかけに対し、日本は一貫して自国の法的責任否定をもって応答してきた。いまや日本軍性奴隷制のみならず、関東大震災時の朝鮮人虐殺、朝鮮人強制連行・強制労働など、植民地支配下で日本の国家権力が朝鮮民族に対して行った数々の反人道的な加害の歴史を否定する言説が、もはや聞き慣れたものとなった状況である。

金学順さんが初めて自身の名前と顔を明らかにして被害の証言をした日から二四年目にあたる二〇一五年八月一四日、日本の安倍晋三首相は「戦後七〇年」に際した内閣総理大臣談話を発表した。談話は、日本が朝鮮を侵略する過程で朝鮮の民衆を大量虐殺した日清戦争には触れず、朝鮮の主権を侵奪した日露戦争を「植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけ」たものとして評価した。義兵戦争や抗日闘争の徹底弾圧を通じた朝鮮植民地化と、併合条約を不法に強制することで朝鮮を植民地とした歴史は抹消し、アジア太平洋戦争に関しても「三百万余の同胞」や「戦火を交えた国々」についてのみ言及し、その生を奪った無数の民の存在は排除することで、自国の植民地支配責任を徹底して無視・否定してのけた。談話は、日本帝国主義による侵略戦争と植民地支配に対する加害責任を果たすことを敗戦後も免がれ、積極的に怠るどころか、加害の事実を隠ぺいし、自国の加害責任を一貫して否定し無化しようとしてきた「戦後日本」の総決算ともいえるものであった。

そして私たち在日朝鮮人は、侵略戦争と植民地支配の歴史の否定という土台の上に新たに形づくられようとしている「戦後日本=平和国家」という「戦後史」の歪曲も看過するわけにはいかない。談話では、日本の「七十年間に及ぶ平和国家としての歩み」が「静かな誇りを抱」くものとして語られ、「世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献」する日本を「終戦八十年、九十年、さらには百年に向けて(中略)国民の皆様と共に創り上げていく」決意が語られた。

私たちは今、思い起こす。日本と米占領軍による民族教育弾圧に抗するたたかいの中で、日本の警察の銃弾に倒れた朝鮮人青年を。獄中での拷問によって息絶えた朝鮮人活動家を。糊口をしのぐための酒造りの場を日本の警察に襲撃され、射殺された朝鮮人労働者を。日本人高校生に集団暴行され、殺傷された朝鮮人高校生を。朝鮮民主主義人民共和国への偏執的なバッシングの中で、見ず知らずの日本人に制服を切り裂かれ、身体を傷つけられた朝鮮人女子学生を。「スパイの子ども」「不逞鮮人」という排外主義者らの言葉の刃で精神を深く傷つけられ、今も恐怖のただ中で生きていかざるをえない朝鮮人児童を。このような「戦後七〇年」を一体全体、誰が「平和」と呼べようか?

加害の歴史の歪曲は、次なる加害への踏み台となる。日本の朝鮮侵略と植民地支配、さらには「戦後」の加害史まで隠ぺいし礼賛した談話発表の後、ついに「安全保障」法制が成立したことは偶然ではない。「積極的平和主義」という欺瞞のもと、自衛隊の軍靴が踏み入れられる舞台としてまず想定されているのは、他でもない朝鮮半島である。過去の侵略及び植民地支配の責任すら果たしていない日本の朝鮮再侵略企図を、私たちは断じて許さない。

私たち在日朝鮮人こそは、日本の帝国主義および植民地主義が一世紀半にもわたり朝鮮民族へ犯した未曾有の罪過が、どれだけ隠され、無きものにされようとしても、決して消え得ないことを体現する歴史的存在である。朝鮮民族の尊厳をかけて、全力で抵抗していきたい。

『人権と生活』41号・目次

∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 41号 (2015年12月)∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴

■主張:日本の帝国主義と植民地主義を問う歴史的存在として

【特集】「戦後日本=平和国家」観を問う

◇朝鮮から見た日本の戦争観・植民地認識の問題―朝鮮の「150年の非平和」と植民地支配責任論の源流…………慎蒼宇

◇「戦後史」の歴史修正主義に抗する在日朝鮮人史―<歴史改竄体制>克服のための歴史認識を求めて…………鄭栄桓

◇日韓条約50年、課題と展望…………文泰勝

◇日本の戦後体制の形成と解放後在日朝鮮人の地位問題の行方―1949年「田中意見書」の位置付け…………鄭祐宗

■対談

◇土井敏邦×金優綺 ”記憶”と生きる―日本軍性奴隷制サバイバーと在日朝鮮人

民族教育

◇神奈川朝鮮学校の公立分校から自主校移管への経緯―日本側資料から探る…………大石 忠雄

◇朝鮮学校に保健室を!―ヘイトクライム事件を乗り越え、民族教育の地平をめざす…………さとう 大

寄稿

◇聖戦大碑と「平和国家日本」の欺瞞性…………田村 光彰

◇濁酒と解放―内部から腐る平和を問う…………李杏理

連載

◇人種差別撤廃施策推進法案について…………前田 朗

■会員訪問

韓東賢さん(日本映画大学准教授・社会学)”排外主義的な風潮、教育者としてできることはないか”

■エッセイ

◇人権活動と相談活動をライフワークに!…………姜潤華

■最近の同胞相談事情

■人権協会活動ファイル

12・5 国連・人権勧告の実現を! 集会・デモ

「12・5 国連・人権勧告の実現を! 集会・デモ」のお知らせです。

*詳細は、以下のURLよりご覧ください。

http://jinkenkankokujitsugen.blogspot.jp/2015/10/blog-post.html

◆日時:2015年12月5日(土)

13:15 集会スタート、15:00 デモ出発

◆会場:代々木公園野外ステージ

◆集会での発言:師岡康子さん(弁護士)

        伊藤和子さん(弁護士)

        寺中誠さん(大学教員)

        賛同団体からの発言

◆主催:国連・人権勧告の実現を!実行委員会

◆連絡先 電話:090-9804-4196(長谷川)

    メール:jinkenkankokujitsugen@gmail.com

    ブログ:http://jinkenkankokujitsugen.blogspot.jp/

    フェイスブック:https://ja-jp.facebook.com/jinkenkankokujitsugen

    ツイッター:https://twitter.com/unjinken

◇外登証の切替(更新)期限の超過にご注意ください!!◇

法務省入国管理局の話では、今年7月8日が外国人登録証明書から「特別永住者証明書」あるいは「在留カード」への切り替え期限となっていた人の中で、期限経過時において「特別永住者」で約1万人、「永住者」で約1万5千人が未だ切り替えを行っていないということです。

最近は、ある程度弾力的な運用がなされてはいますが、切り替え期限を過ぎると法定義務違反となり、刑事罰の対象となってしまいます。申請期限を過ぎているにもかかわらず、まだ切り替えをしていない人は速やかに切り替えに赴かれることをお勧めします。

法務省入国管理局のWEBサイト  特別永住者の方へ   永住者の方へ

『人権と生活』40号 巻頭言

日本の歴史歪曲を許してはならない

日本の植民地支配からの解放70周年を迎えたいま、日本では歴史修正の嵐が吹き荒れている。
昨年、朝日新聞の吉田清治証言をもとにした日本軍「慰安婦」記事の取消しと謝罪を契機に、日本軍「慰安婦」=日本軍性奴隷の歴史そのものを塗り消そうとする動きは、政府とマスコミが一体となってすさまじい勢いで展開されている。
安倍首相は、朝日新聞の記事取消しをうけ、「国ぐるみで性奴隷にしたとの、いわれなき中傷が世界で行われている。誤報によって、そういう状況が生み出された」(2014年10月3日衆院予算委員会)と述べたが、数多の証言、資料で証明されている歴史的事実を、吉田証言の否定のみをもって「いわれなき中傷」と位置づけ、「政府としては客観的な事実に基づく、正しい歴史認識が形成され、正当な評価を受けるよう戦略的な対外発信を強化する」と強調した。文部科学省による中学校教科書検定(2015年4月結果公表)では、関東大震災時の朝鮮人虐殺や南京大虐殺の記述において加害の事実を相対化させる表現に記述を修正し、唯一日本軍「慰安婦」問題について記述した「学び舎」の教科書に対してはその記述を大幅に削除して「日本軍や官憲による強制連行を直接示す資料は発見されていない」という政府見解を追加するなど、政府が率先して教育の現場で露骨な歴史修正を展開している。
また、日本各地では、日本の朝鮮人支配の歴史をいまに伝える史跡から侵略や強制連行の事実を消そうとする動きが広がっている。2004年、群馬県立公園内に建てられた、朝鮮人強制連行犠牲者のための「記憶 反省 そして友好」の追悼碑は、10年の設置期間の更新を県が許可せず、さらには撤去まで求め、それに反対する市民たちは行政訴訟を提起した。その他、北海道猿払村(朝鮮人徴用追悼碑設置中止)、長野県松代町(松代大本営説明板内容修正)、奈良県天理市(柳本飛行場跡強制連行説明版撤去)、大阪市(ピース大阪展示から「侵略」の表現消去)大阪府茨木市(朝鮮人強制連行銘板撤去要請)、福岡県飯塚市(飯塚霊園朝鮮人追悼碑撤去・碑文改訂要請)など、枚挙にいとまがない。
こうした動きは、第二次安倍政権以降特に顕著であるが、これらの現象を安倍首相個人の保守的政治思想の問題に還元してはならない。戦後冷戦と朝鮮半島分断を奇貨として過去清算を積極的にサボタージュし続け、その結果、克服されることなく温存されてきた日本の植民地主義が、いま、からを破って表出してきたといえる。歴史修正と改憲、軍事大国化への道筋は、70年をかけて着々と地ならしされてきたのである。
街頭を跋扈する「ヘイト・スピーチ」に対する関心は高まり、一定の批判的雰囲気は醸成されつつあるが、その一方、このような日本の歴史修正の動きに対しては、メディアも真正面から取り上げることはほとんどなく、その批判的論調は弱まる。また、朝鮮民主主義人民共和国に対する「制裁」の文脈においては、むしろ政府とメディアが一体となり、率先して「反朝鮮感情」を扇動してきた。公権力自ら意図的に作り出してきたこの「国民感情」をたてにして、在日朝鮮人、とりわけ朝鮮総聯や朝鮮学校への差別・弾圧政策を展開してきたのであり、こうした「上からの」排外主義こそが、草の根の排外主義が出現する土壌を形成してきたといえる。したがって、この総体としての差別・排外主義の歴史的・社会的構造に対する批判的視座なくして、現代の問題を根本的に解決していくことは不可能だろう。
最近では、在特会などの排外主義者のみならず政治家が、在日朝鮮人の諸権利、なかでも「特別永住資格」を標的として議論の俎上に載せようとしているが、これは在日朝鮮人の歴史性を消していく動きと一体になったものであるといえる。
日本の歴史修正の動きに屈することなく、存在をかけて、同胞と共に声をあげていきたい。

『人権と生活』40号・目次

∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権生活 40 (2015年6月)∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴

■主張:日本の歴史歪曲を許してはならない 

【特集】シンポジウム:現代日本の排外主義にどう立ち向かうか―ヘイト・スピーチ、歴史修正主義、民族教育を考える

パネラー:金尚均(龍谷大学教授)、鄭栄桓(明治学院大学准教授)、板垣竜太(同志社大学教授)
コーディネーター:李春熙(弁護士)

■インタビュー:鄭敬謨さん 

「解放」70年に思うこと

民族教育

◇多文化共生の神奈川を!補助金支給を求めるとりくみ…………園部 守

◇子どもたちにより良い環境を!東京で実現した朝鮮学校周辺の交通安全対策…………宋恵淑

寄稿

◇群馬の森追悼碑訴訟について~歴史修正主義との闘い~…………下山 順

◇ヘイトスピーチをめぐる運動における右傾化について…………朴利明

■会員の事務所訪問/金昌坤税理士事務所・金昌坤さん

有志で知恵を持ち寄り、地域同胞に貢献したい

■エッセイ

◇「자매(姉妹)」たちへの思い―<日本軍性奴隷制の否定を許さない4.23アクション~裵奉奇ハルモニを追憶して~>を終えて―…………李イスル

■最近の同胞相談事情

■人権協会活動ファイル

資料

改定入管法(「新たな在留管理制度」)に関するQ&A

リーフレット(裏)

リーフレット(表)
※Q3のA(回答)の補則説明
「特別永住者証明書」の場合は、「有効期間満了後7回目の誕生日」が次回更新期限ですが、在留資格が永住者の「在留カード」の場合は、「在留カードの交付の日から起算して7年を経過する日」が更新期限になります(誕生日は関係ありません)。たとえば、2015年8月15日が在留カード交付日の方は、2022年8月15日が期限となります。

★さらに詳しくは下記をお読みください★

●[朝鮮新報] 「改定入管法・入管特例法と在日同胞(上・中・下)」

●「人権と生活」39号収録<「新たな在留管理制度」を正しく理解するためのQ&A>抜粋

問① 私は前回の切り替えから今年七年目の誕生日を迎えたのですが、誕生日から二ヶ月ほど経ってから気づき慌てて役所に電話したら二〇一五年七月八日までに更新すればいいと言われました。本当に大丈夫なのでしょうか?

 

はい。新制度施行に伴う経過措置として、施行後三年間の猶予期間が設けられています。新制度は二〇一二年七月九日に施行されたので、その期限が二〇一五年七月八日ということになるのです。

 

問② 今頃になって法務省から一六歳時の更新をするようにとの通知が来ました。これまで行政からの案内が無かったのでうちの子どもは更新をしないまますでに一六歳を過ぎていますが大丈夫でしょうか?

 

確かに更新義務違反状態で刑事罰の対象にはなっており、心配されるのは当然ですよね。ただ心配なので更新を控えるのではなく、早い目に更新を行うことをおすすめします。現時点では、法務省も通知を今年(二〇一四年)の九月一〇日まで送っていなかったこともあり、刑事罰を適用するような運用は行わないと言っているからです。

 

問③ 私が持っている外国人登録証明書には「次回確認(切替)申請期間」として「二〇一九年七月四日から三〇日以内」となっています。新制度施行に伴い設けられた三年の猶予期限である二〇一五年七月八日までに更新しなくてもいいということでしょうか?

 

新制度の施行(二〇一二年七月九日)直前に切り替えられたのですね。

あなたが「特別永住者」なら、二〇一五年七月八日までに更新しなくても結構です。

ただし、注意点があります。あなたの外国人登録証明書には「二〇一九年七月四日から三〇日以内」と書かれているにもかかわらず、更新義務期間は誕生日である二〇一九年七月四日の二ヶ月前(一六歳時の更新の場合は六ヶ月前)から誕生日当日までとなります。誕生日が来てから、ではないのです。お間違いのないようお気をつけください。

また、もし、あなたが「永住者」の場合は、二〇一五年七月八日までに更新しなければなりません。

「特別永住者」の場合、一六歳あるいはその後の七年ごとの誕生日の到来日が二〇一五年七月八日以降の場合はその時まででよいのですが、「永住者」は一六歳時の場合はその誕生日か、二〇一五年七月八日のいずれかのうち早く到来する方の日までとなっており、それ以降の七年ごとの更新は、七年目の誕生日が、その前であっても後であっても二〇一五年七月八日までとなるのです。また「特別永住者」とは違い「永住者」らは申請窓口も市区町村役場ではなく、入管の事務所に行かなければなりません。

なお、新制度の施行以降、更新前の外国人登録証明書は法規定によって「特別永住者証明書」(永住者の場合は「在留カード」)とみなされます。

 

問④ 「特別永住者」の常時携帯義務はなくなったと聞いたのですが、提示義務はあると聞きました。持っていないときに提示を求められたらどうなるのですか?

 

ごもっともな心配です。法務省は、ホームページで下記のように説明しています。

 

Q5 特別永住者については、旅券及び特別永住者証明書の携帯義務がなくなりますが、例えば、住居地が大阪の者が、所用で東京に来ていた際に警察官から職務質問を受けて、特別永住者証明書の提示を求められた場合に、当該証明書は自宅に置いてきたままであり、持っていれば提示を行っていたものであり、提示を拒むつもりはない場合であっても、罰則の対象となるのですか。

 

A. 特別永住者証明書の提示拒否罪が成立するのは、権限を有する者から提示を求められたにもかかわらず、提示を拒否する旨の意思を外形的に明らかにしたような場合や、合理的期間内に敢えて提示をしないような場合等、その意思をもって提示を拒んだといえる場合です。

この合理的期間は、具体的事案における個別の事情に応じて判断されることになりますが、その事情の例としては、特別永住者証明書の提示を求められた場所とその保管場所との位置関係、提示の支障の有無及びその程度等が考えられます。なお、特別永住者証明書でなくとも、当該特別永住者の身分関係等の確認が可能な他の代替的な手段がある場合には、あえて特別永住者証明書の提示を求めないことも考えられます。

(http://www.immi-moj.go.jp/newimmiact_2/q-and-a.html#q43-a)

 

注意すべき点としては、提示を拒む意思を明確にした場合は提示拒否罪が成立するということです。事実通り「今、持っていないので見せられない」と言うことは問題ないでしょうが、たとえば感情にまかせて「見せない」「いやだ」とだけ言ってしまうと警察署に連行される可能性まであるのです。

また「合理的期間」についての説明がなされていますが、これでは解釈の余地が広すぎてよく分かりませんね。その分、警察官等に裁量の余地が大きく与えられ、権限濫用につながりかねません。法務省は、より具体的な基準を示すとともに、濫用の防止につとめるべきといえます。

 

問⑤ もうすぐ生まれてくる子どもの名前を考えているのですが「正字」でないと駄目だと聞きました。「正字」とは何ですか? またどうやって確認すればいいのですか?

 

新制度に伴い、在日朝鮮人をはじめ外国籍者も住民基本台帳制度の対象となりました。

法務省はこれに伴い、二〇一一年一二月二六日付の告示(http://www.immi-moj.go.jp/topics/pdf/honbun.pdf)によって「正字」の範囲を定め、それ以外の漢字については「正字」に置き換えるとしました。法務省はそのホームページで「市区町村からの御意見(市区町村の業務(住民票、国民健康保険、国民年金等の各種システム)で今後利用が見込まれる氏名表記との連携を図る必要がある旨の御意見)を踏まえて整理したもの」と説明していますが、外国籍者にも新たに作成されることになった住民票以外はこれまでも連携が図られてきたのであり、従来の外国人登録制度上で使用されてきた一部の漢字を使えなくするということは、たとえ少数ではあったとしても変更を余儀なくされる当事者の人権を軽視したものといわざるをえません。なお、「正字」であるかどうかの確認については、

入国管理局正字検索システム(http://lapse-immi.moj.go.jp:50122/)を利用するのがよいでしょう。またインターネットを使える環境にないような方は役所に問い合わせるのが早くて確実でしょう。

 

問⑥ 通称名を変更することはできるのでしょうか?

 

まず、新制度で発行されることになった「特別永住者証明書」と「在留カード」には通称名称が記載されません。一方、住民票には通称名が記載されます。また任意で発行してもらえる住民基本台帳カードにも本名と併記して通称名を載せることが可能です。

さて、その住民基本台帳制度上で登録できる通称名ですが、簡単に変えることはできません。

―既存の通称名から新たな通称名に変えることは原則として認めない

―新たに登録する場合でも、勤務先や学校等の発行する身分証明書等の客観的資料を複数提出することを原則とする

―ただし結婚相手や養子縁組により親となった者の通称名の苗字を使う様な場合はこれらの原則の例外とする

このような指導が総務省から各自治体に出されているからです(「住民基本台帳事務における通称の記載(変更)における留意事項について」二〇一三年一一月一五日 総務省自治行政局外国人住民基本台帳室長)。

 

問⑦ 新制度では「特別永住者証明書」「在留カード」ともにローマ字が基本になると聞きましたが、皆がそうなるのでしょうか? 漢字表記はどうなるのでしょうか?

 

たしかにローマ字が基本となりましたが、外国人登録で漢字が使われていた人たちには漢字も併記されます。また、新制度施行以降に漢字圏の国から日本に来た人も漢字名を反映することが可能です。

また、ローマ字については、そのスペルを基本的には旅券で確認することになります。ただ在日朝鮮人のうち韓国旅券を持っていない人は確認手段が無いということになります。朝鮮民主主義人民共和国の委任により朝鮮総聯が発給する同国の旅券は不当にも未だ「有効な旅券」として扱われていないため行政窓口でそれを提示し、スペルはここに書いてあるとおりだと言っても受け付けられません。

したがってスペルの確認手段が無いとされる在日朝鮮人は、漢字表記のみとなります。ただしこのことによって特段の不利益はないといってよいでしょう。

 

問⑧ 「みなし再入国許可」について教えてください。

 

「みなし再入国許可」を導入し、「特別永住者」なら二年以内、「在留カード」を持つ者なら一年以内の海外渡航については、入管事務所に行かなくても「特別永住者証明書」もしくは「在留カード」と「有効な旅券」を出国時に所持していれば、再入国許可を出したものと「みなす」とし、いちいち再入国許可をとらなくてもよいこととなりました。しかし、同じ在日朝鮮人の中でも「韓国旅券」を所持しない者はこの制度を利用できないという問題が残っています(詳しくは一三ページ)。

またこの制度を利用できる人の場合でも注意しておくべきことがあります。それは一般の数次再入国許可(新制度では「特別永住者」の場合、四年から六年に伸長。相当な理由があれば海外で一年延長許可も取れる)とは違い、たとえ重病を患ったといったような事情であろうと延長は一切できず、二年(「在留カード」を持つ者なら一年)を過ぎれば、在留資格を失うという規定になっていることです。ですから「みなし再入国許可」の期限ぎりぎりに日本に戻るような計画は、リスクが高いので避けるか、数次再入国許可を取って出国すべきでしょう。

さらに「特別永住者」の場合、常時携帯義務が無くなった関係で日常的に「特別永住者証明書」を持ち歩いていない人も多いと思いますが、「みなし再入国許可」で出国しようとして空港で、「あっ、特別永住者証明書を忘れた!」ということがないよう注意が必要です。

 

問⑨ 引っ越しをするとき新制度では入管(特例)法上の届出義務と住民基本台帳法上の届出義務があると聞きましたがどうすればいいのですか?

 

入管特例法および入管法では住所変更後一四日以内に届け出を新住所地の市区町村窓口にしなければならないとしており、住民基本台帳法では転入、もしくは転居(同一市区町村内の住所変更の場合)後、一四日以内に届け出をしなければならないと規定しています。

新制度では二度手間にならないように「特別永住者証明書」あるいは「在留カード」を提示して市区町村で転入、転居届をしたときは入管特例法、入管法上の申請義務も同時に果たしたものとするという規定が設けられています。ただし、住民基本台帳法では、他の市区町村に引っ越しするときはあらかじめ転出届をすることも義務づけられていますので注意が必要です。

なお、住民基本台帳法では住所変更に関する届け出を定められた期間内にしなかった場合については「五万円以下の過料」という行政罰が設けられているにすぎないのに対し、入管特例法および入管法では住所変更の遅延は「二〇万円以下の罰金」という刑事罰が設けられています。

もっぱら外国人を対象にしてきた法令と長らく日本人のみを対象にしてきた法令における罰則の開きは差別としか言いようがなく、ついうっかりしただけで刑事罰の対象という現行法は速やかに改正されるべきです。

 

問⑩ 相続手続きをするのに外国人登録原票が必要といわれましたが、どうやって入手すればいいのでしょうか?

 

制度が変わるまでは市区町村の窓口で被相続人、相続人それぞれの外国人登録原票記載事項証明書(かつては「登録済み証」「済み証」と言っていたもの)を取り寄せることができました。新制度では外国人登録原票がすべて法務省に回収されたため、市区町村でこれを受け取ることができなくなりました。

そこでその原票自体を法務省に申請することになります。申請は郵送で可能です。

被相続人の原票請求は、死亡した人と同居していた親族、死亡した人の配偶者(内縁の妻を含む)、直系尊属、直系卑属または兄妹姉妹、これらの法定代理人が可能です。インターネットを使用可能な方は検索サイトで「死亡した外国人に係る外国人登録原票の写しの交付請求について」と入力すれば法務省の当該サイトにすぐにアクセスでき、そこで申請に関する情報、申請用紙を入手することができます。

相続人の原票請求は相続人各自(本人が未成年者又は成年被後見人の場合には、その法定代理人)が申請することになります。インターネットを使用可能な方は検索サイトで「外国人登録原票に係る開示請求について」と入力すれば法務省の当該サイトにすぐにアクセスでき、そこで申請に関する情報、申請用紙を入手することができます。

インターネットにアクセスできない方は法務省(℡03-3580-4111)に電話し、問い合わせてください。

(事務局 金東鶴)

報告書など