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在日朝鮮人の人権を侵害する制裁措置の廃止を求める意見書

在日本朝鮮人人権協会「在日朝鮮人の人権を侵害する制裁措置の廃止を求める意見書」を発表しました。(2017年10月30日)

在日朝鮮人の人権を侵害する制裁措置の廃止を求める意見書(本文・PDF)

재일조선인의 인권을 침해하는 제재조치페지를 요구하는 의견서(本文朝鮮語版・PDF)

Written opinion:we demand abolishment of the sanctions infringing upon the human rights of Korean residents in Japan (Summary, 30 Oct 2017)

『人権と生活』45号 巻頭言

「忖度」と「ダブルスタンダード」がまかり通る中で

森友・加計問題で一躍脚光を浴び、今年の流行語大賞の最有力候補の一つとなるであろう「忖度」。

さてこの「忖度」だが、はたして官僚の専売特許と言えるだろうか? かつて「KY(空気を読めない)」という言葉が流行ったこの日本社会には、あらゆるところにこの「忖度」が蔓延しているのではないか。森友・加計問題で官僚の「忖度」を追及したマスメディアも例外ではない。10年ほど前、某全国紙の記者の間で次のような話が交わされたという。「なぜ北朝鮮が飛ばしたミサイルの場合は他国の時のように『発射実験』とはならず『発射』となるのか?」「でも他紙も北朝鮮の場合は『発射実験』とは書かない」「うちだけ『発射実験』と書いてしまうのは…」。悩んだ末、その会話の翌日の一面記事は「…ミサイル7発」。「発射」とも「発射実験」とも書くのを避けた表現にしたらしいが、結局その後、他紙同様「実験」といった言葉が続かない「発射」という表現に落ち着いてしまった。

こういったあり様はインターネットで検索すればすぐ確認できる。

米国や韓国に対しては「米がICBM発射実験…攻撃能力示し北に圧力」(読売新聞2017年4月27日)、「韓国ミサイル、北全域を射程に 射程800キロ試射に『成功』」(産経BIZ 2017年4月6日)と「実験」「試射」といった言葉が用いられる。一方で朝鮮民主主義人民共和国に対しては「北朝鮮ミサイル 4発同時発射 政府、新迎撃体制検討」(毎日新聞2017年3月7日)「北朝鮮、ミサイル発射失敗か 韓国軍、種類など分析中」(朝日新聞2017年4月29日)、「北ミサイル発射を受け、首相官邸でNSC開催」(読売新聞2017年4月29日)といったように、どの新聞社もまるで示し合わせているかのように「実験」等の言葉を用いない。これらの報道において仮に「実験」といった言葉が付いていれば、避難訓練や電車を止めるような、実効性に疑問符が付く過剰としか言いようのない対応を取ることへの理解は得られにくいであろうし、そもそも市民の反発を恐れてそんなことは行わないかもしれない。

弾道ミサイルや核のみならず人を殺傷する兵器は、それが一度に数十万人であれ、1000人であれ100人であれ、たとえ1人であっても無いに越したことはない。しかし、核兵器禁止条約にも背を向ける核保有国などが他国の核保有を批判する資格、根拠はどこから生まれるのか? 7000もの核弾頭を持つ国が、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定にするためのテーブルに着くことすら拒否し続け、核先制使用のオプションまで維持し続けるとしている中、それへの脅威を感じ、ライオンを前にしたハリネズミのように身構えることがそんなに不自然なことであろうか? 少なくとも一方的に責められるようなことであろうか? そのことをマスコミはどれほど報じてきたのか? 脅威を煽り、自らの支持率の回復、また改憲をはじめとした戦争が出来る国づくりを進める政権に、結局はマスコミも一役買っているとは言えまいか?

朝鮮学校に対する「高校無償化」からの排除問題や自治体による補助金停止問題においても、この「ダブルスタンダード」がまかり通っている。アメリカンスクールで広島・長崎への原爆投下をどう教えているかなどは不問にされる一方、朝鮮学校については教育内容に対して干渉し、やれ「反日」だ、何だと差別の「大義名分」にしようとしたりまでする。また実際に経理上の不祥事を起こした日本の私立学校はその後も「高校無償化」の適用対象からは外されない一方で(生徒に罪はないので当然だが)、朝鮮学校は、不確かな情報をもって「疑わしい」として適用除外とされる。

「高校無償化」裁判では、不当にも広島地裁と東京地裁が、まさに行政への「忖度」としか言いようのない判決を出した。文科省の前事務次官が「制度の門を開き申請を受け付け、審査もしていたのに、政治判断でいきなり門を閉じた」「極めて理不尽」(神奈川新聞2017年9月13日)とまで言っているほど事実は明白であるにもかかわらず、政府が後付けで詭弁を尽くして描いたストーリーをそのまま認めてしまったのだ。一方で、大阪地裁判決はこれとは真逆の判断を示し、原告側の全面勝訴となった。事実を事実通り認定し、良心を以て法と正義に基づく判断を出したのである。

これらの裁判は、全て控訴審で再び争われる。来年には地裁判決が出ることになるであろう愛知と福岡の裁判、また、今年初めに不当判決が出た大阪府と大阪市を訴えた補助金停止裁判も含め、これからも裁判闘争が続く。

「忖度」と「ダブルスタンダード」によって子どもたちの学ぶ権利まで翻弄される状況に終止符を打つべく、より多くの人々と手を携えながら裁判闘争を闘い抜いていきたい。

 

 

『人権と生活』45号・目次

∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 45号 (2017年12月)11月6日発売∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴

■主張:「忖度」と「ダブルスタンダード」がまかり通る中で

【特集】「無償化」裁判の勝利に向けて

◇「無償化」訴訟広島判決について……平田かおり

◇力をあわせて勝ち取った大阪地裁判決……金英哲

◇東京朝鮮高校生「高校無償化」国賠訴訟の地裁判決について……李春熙

◇全国行脚でめぐった全国の朝鮮学校での出会い……長谷川和男

◇すべての子どもたちには学ぶ権利がある!―韓国で拡がる朝鮮学校支援運動……孫美姫

■インタビュー

◇田中宏さんに聞く/「無償化」裁判各地判決を受けて

■寄稿

◇「制裁の10年」がもたらしたもの―朝鮮人道支援の現場から考える……米津篤八

◇個人的体験から考える対朝鮮「制裁」……康成銀

■連載

◇差別とヘイトのない社会をめざして(5)/人種差別撤廃条約・日本政府報告書を読む……前田朗

■会員エッセイ

■会員の事務所訪問

◇武蔵国分寺法律事務所 全東周さん/多摩地域を支える身近な弁護士に

■寄稿

◇NPO法人 同胞法律・生活センター20年―同胞の安心、明日を後押し……殷宗基

■最近の同胞相談事情

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■人権協会活動ファイル

■資料

在日朝鮮人の人権を侵害する制裁措置の廃止を求める意見書