歴史を捻じ曲げようとする動きに抗して
2012年12月から7年8カ月にも及んだ安倍政権。「悪夢のような民主党政権」と前の政権をこき下ろしてきた彼だが、朝鮮学校関係者にとって彼が首相に在位した7年8カ月は、就任直後に決定した「高校無償化」からの朝鮮学校排除に始まり、「幼保無償化」からの排除を経て、「学生支援緊急給付金」からの朝鮮大学校生排除に終わるまさに「悪夢」の歳月であった。
また「新しい時代の日本に求められるのは、多様性であります」(昨年10月、国会における所信表明での発言)とも彼は言うが、彼の就任後まもなく、新大久保や鶴橋をはじめ各地でヘイトデモは激増、「ヘイトスピーチ」は2013年の流行語対象にノミネートされるに至った。
さらに1923年の関東大震災時の朝鮮人虐殺事件について、東京都では2013年1月、高校生向けの副読本『江戸から東京へ』の「数多くの朝鮮人が虐殺された」という記述が、「碑には、大震災の混乱のなかで、『朝鮮人の尊い命が奪われました』と記されている」に差し替えられた。また、横浜市では、中学生向けの副読本『わかるヨコハマ』2012年度版において「殺害」という表現を「虐殺」に変え、その犯行に自警団のみならず軍隊や警察も関与していたことを明記したことに対し産経新聞が攻撃を加え、自民党市議が市を突き上げた。これを受けて同市はそれをすべて回収、明くる2013年度版では「虐殺」は「殺害」に戻され、軍や警察の関与についての記述も削除されるということが起きた。
安倍政権の出帆を契機にこういった動きが、あたかもセット商品のごとく溢れだし、そして今日まで続いてきたのである。
ヘイトをはばからない者は政党までも作り、政治活動と称して差別的言辞をまき散らし、歴史を捻じ曲げ美化しようとする者は、「群馬の森」にある強制連行犠牲者追悼碑の撤去を県をして判断させるに至り、続いて関東大震災時の虐殺による朝鮮人犠牲者の追悼碑に目を付け、これを撤去させることを画策し、行動している。
2017年には、朝鮮人虐殺を検証し「関東大震災時には横浜などで略奪事件が生じたほか、朝鮮人が武装蜂起し、あるいは放火するといった流言を背景に、住民の自警団や軍隊、警察の一部による殺傷事件が生じた」、「特に3日までは軍や警察による朝鮮人殺傷が発生していた」などと記した内閣府中央防災会議の報告が内閣府のサイトから一時的に閲覧できなくなるという事件まで起こった(その事実が朝日新聞に載り、国会でも追及される中、再び閲覧は可能となる)。なお、こういった記述を攻撃してきた某国会議員が、朝鮮学校の「高校無償化」排除や補助金停止などを主張する急先鋒でもあることは象徴的である。歴史を糊塗しようとする者の目には、民族としての歴史的記憶を言葉や文化ともども継承することを可能にする民族教育は、邪魔なものとしか映らないのである。
まさに目を覆いたくなるような状況だが、そのような中でも、それに異を唱え、屈せず立ち向かう人たちはこの社会にも確実に存在している。
県の(設置期間の更新申請)不許可処分は社会通念に照らし著しく妥当性を欠く、とした「群馬の森」の追悼碑裁判おける前橋地裁判決(2018年2月14日)。職場で「在日は死ねよ」などのヘイトスピーチを含む文書を配布され、就業時間中に教科書展示会に動員され、「新しい歴史教科書をつくる会」の元幹部らが編集した育鵬社の中学教科書に好意的なアンケート回答を書くことまで求められるという精神的苦痛を味わった在日三世の女性の訴えを認め、これらを違法とし、会社と会長への損害賠償を認めた大阪地裁堺支部判決(2020年7月2日)。東京都の関東大震災時の朝鮮人犠牲者への追悼式典への誓約書提出要求撤回。2021年度から使用される中学校の教科書採択における育鵬社の歴史・公民教科書採択自治体の激減(「歴史」6.4%→1%、「公民」5.8%→0.4%)。刑事罰を盛り込んだ川崎市のヘイト禁止条例の成立・施行。
これらの闘いの成果が、それを証明している。
そして、その成果は、決して十分なものとは言えないまでも、私たちに一筋の光明をさし示してくれている。
これからも、そういった人々と連なり、闘いの一翼を担い続けていきたい。