「人権と生活」カテゴリーアーカイブ

49号 巻頭言

反ヘイトの取り組みのさらなる深化を

 日本におけるヘイトスピーチは、インターネット上で跋扈するのみならず、官民一体の「北朝鮮バッシング」、「嫌韓」ムードに下支えされる形で、2000年代に「行動する保守運動」を標榜する排外主義政治団体などが中心となり日本各地で頻繁に展開されてきた。その者らは「直接行動」を標榜し、在日朝鮮人集住地区において朝鮮民族を直接的に侮蔑・攻撃するヘイト街宣を行ったり、民族団体・民族学校を標的にするなど、およそ看過容認できないものであった。

 中でも、2009年の在特会メンバーなどによる「京都朝鮮学校襲撃事件」は、在日朝鮮人社会に大きな衝撃をもたらした。当メンバーらは在日朝鮮人児童が校舎内にいる平日日中に、校門前で「北朝鮮のスパイ学校」など、聞くに耐えない罵詈雑言を「抗議行動」として行ったが、事件当時、警察はなんら具体的な対応をとらず、ヘイト行動は「野放し」にされた。しかし、こうした状況を座視せず、京都朝鮮学校の当事者は裁判闘争を闘いぬき、画期的な勝訴判決を勝ち取った。

 このように、跋扈するヘイトスピーチに対抗するため、当事者・弁護士などによる地道な活動が展開され、ヘイトに対する法規制の議論も重ねられてきた。その結実の一つとして、2016年に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(ヘイトスピーチ解消法)」が成立した。同法は罰則規定のない理念法であり、また「本邦外出身者」に対象を限るなど問題点のある法律ではありつつも、日本において「反ヘイト」の環境をつくる画期となるものであった。

 各自治体においても「反ヘイト条例」策定の取り組みが進んでいる。中でも川崎市は、ヘイトスピーチを三回繰り返した場合50万円以下の罰金を科すなど、全国で初めてとなる刑事罰を規定した条例素案を示し、パブリックコメントで大多数の支持を受け、市議会に提出される方向で進んでいる。

 しかし、ヘイトスピーチはより「巧妙化」し、新たな場に広がりつつある。2019年春の統一地方選挙において、排外主義政治団体が擁立した候補が、公職選挙法上認められた選挙活動の自由をタテに、「政治演説」を装い「日本を批判するなら朝鮮半島に帰れ。在日も帰れ」(2019年3月30日、神奈川県相模原駅前)といったヘイトスピーチを各地で繰り広げた。とりわけ、在特会の初代代表であり日本第一党代表である桜井誠が、朝鮮学校が隣接する北九州の折尾駅前において行った同党・桑鶴和則候補の「応援演説」(同年3月11日)は、明確に在日朝鮮人および朝鮮学校を攻撃する内容であった。

 こうした事態を受けて、法務省は「選挙運動等に藉口した不当な差別的言動その他の言動により人権を侵害されたとする被害申告等があった場合には、その言動が選挙運動等として行われていることのみをもって安易に人権侵犯性を否定することなく[…]その内容、態様等を十分吟味して、人権侵犯性の有無を総合的かつ適切に判断の上、対応されるよう願います」(2019年3月12日付・法務省人権擁護局調査救済課補佐官事務連絡)と各法務局に通知したものの、政府の姿勢は消極的なものであり、いまなお反ヘイトの取り組みは、当事者たちの地道な運動によるところが大きい。

 東京都は、2019年10月16日、練馬区内での「街頭宣伝」における「朝鮮人を東京湾に叩き込め」「朝鮮人を日本から叩き出せ、叩き殺せ」の言動(2019年5月)、東京都台東区内でのデモ行進における「朝鮮人を叩き出せ」の言動(同年6月)を、「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例(オリンピック条例)」に基づき初めてヘイトスピーチとして認定し、その発言内容を含めて公表したが、これも都民の粘り強い申し入れを受けてのものである。

 地方自治体における実効的な条例の策定など、いまだ跋扈するヘイトに対する取り組みのための理論的・実践的課題は多い。しかし、だからこそ私たち人権協会は、法律家、研究者、活動家などの力を結集し、差別とヘイトのない社会を構築していくための取り組みをより深化させていきたい。

『人権と生活』49号・目次

‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 49号 (2019年11月18日発売)∴‥∵‥∴∴‥∵‥

◆主張:反ヘイトの取り組みのさらなる深化を

【特集】拡がる反ヘイトの取り組み

◇各地域における人種差別禁止条例制定の必要性と課題ー東京弁護士会「人種差別撤廃モデル条例案」の活用ー……金哲敏

◇十条駅前のヘイトデモ禁止の仮処分について……李世燦

◇折尾駅前民族差別演説事件に関する取り組み……朴憲浩

◇京都における反ヘイトの取り組み……玄政和

◇川崎の差別禁止条例の意義と制定までの過程……宋惠燕

■民族教育

◇兵庫県による朝鮮学校に対する補助金減額の不当性……李洪章

■寄稿

◇朝連強制解散、財産接収に対する在日朝鮮人の取消・反対運動(下)……金誠明

◇「徴用工問題は解決済み」ではない―植民地支配責任に向き合わない日本……高井弘之

◇カナダでの「歴史戦」をふり返って……乗松聡子

◇在日朝鮮人と「精神障害」をめぐる問題―朝鮮近現代史・在日朝鮮人史の視点から……鄭永寿

■連載

◇差別とヘイトのない社会をめざして(9)/人種差別撤廃条約とマイノリティ―ジョシュア・カステリーノ論文の紹介……前田朗

■会員の事務所訪問

◇許壮栄さん(司法書士)/在日朝鮮人である自分だからこそできる業務がある

■最近の同胞相談事情

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■ニュースTOPICS 

■人権協会活動ファイル

■資料

48号 巻頭言

3・1独立運動から100年 民族の自主、そして人としての尊厳と権利を守るために

 昨年のはじめから起こった東北アジアの緊張緩和の動きは、朝米首脳による2月のハノイ会談で明らかな成果が見いだされなかったことにより、現在、大きな試練に立たされているようである。まず丸裸になれ、ならば褒美をあげようという米国の主張を、朝鮮民主主義人民共和国が受け入れ難いことは至極当然である。かねてより自らの「裏庭」としてきた中南米に位置するベネズエラには政権転覆のために軍事介入も辞さないとまで公言し、イランとの核を巡る多国間合意をいとも簡単に反故にする同国政府の何を信じることができようか。しかし、そのことをまともに論じる姿を日本の大手メディアにみることはほとんどない。

 共和国の短距離ミサイル発射実験を書き立てても、それを前後して放たれた米国の大陸間弾道ミサイル(5月1日・9日に発射実験)に関しては一切取りあげないことに象徴されるマスコミ報道の偏向性は今日に始まったことではないが、元徴用工の損害賠償請求事件に関する韓国の大法院判決に対するメディアの取り上げ方は、それが「対北」だけにとどまらないことをまざまざと見せつけている。そこには欧米を仰ぎ見、アジアを見下す「脱亜入欧」的価値観をはじめ、明治維新以降の帝国主義、植民地主義というものが未だ精算されていないという問題が横たわっている。

 米英などに対し戦争を起こした責任は問われる一方、裁く側が同様に脛に傷を持つことから植民地支配責任については不問にされた東京裁判。経済発展に焦る朴正熙政権と米韓日の軍事同盟強化を目論む米国の思惑も相まって、過去の清算があいまいにされた韓日間の国交正常化。これらは日本社会の根底に植民地主義を温存させることに大きく貢献した。そればかりではない。韓日国交正常化交渉の一環として進められた法的地位交渉では、朝鮮学校弾圧を促す議論までされてしまうあり様であった。日本政府の同化政策=植民地主義と、朴正熙政権の反共政策=冷戦の論理が共鳴してしまったからだ。

 戦争ができる「普通の国」にしようとする為政者らが、過去の戦争の美化を図り、過去の清算を求める声に対しては敵対感情むき出しの言動を繰り返す。そうした在り方に対する抑制機能を果たせず、ともすればさらに扇動するかのような大手メディア。そのような今日の日本の状況に対し、ここ数年間、朝鮮半島では確実な変化が起こってきた。

 故金福童さんはじめ日本軍性奴隷制サバイバーのハルモニらが朝鮮学校の子どもたちに心を寄せ支援し、「民主社会のための弁護士会」が「高校無償化」裁判での不当判決を批判する声明を出し、ジュネーブで行われた子どもの権利委員会日本審査に「ウリハッキョと子どもたちを守る市民の会」の代表らが参加するなど、「高校無償化」制度からの排除などの不当な差別に対する当事者らの闘いへの南における連帯の動きも日増しに高くなっている。冷戦の論理を乗り越え、分断を克服する力が長年の闘争の中で育まれ、日本に植民地主義の転換を迫っているのである。

 朝鮮から日本に来ていた留学生らによる東京での1919年2・8独立宣言は、朝鮮半島における3・1独立運動の導火線となり、3・1独立運動は、中国で起こった抗日、反帝国主義のための5・4運動にも影響を与えたという。

 それから100年の歳月を経た今、朝鮮半島では分断の克服を求める力はより大きくなり、それは解放後も続く日本の同化政策に抗し続け、朝鮮民族としての尊厳を守ってきた私たちとより多くの共鳴、共感を生んでいる。

 民族の自主、そして人としての尊厳と権利を守るため、民族の大同団結をさらに強固なものにし、日本の、また世界の心ある人々とも手を取り合って、植民地主義や不当な差別に抗していきたい。

『人権と生活』48号・目次

‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 48号 (2019年6月)∴‥∵‥∴∴‥∵‥

■主張: 3・1独立運動から100年 民族の自主、そして人としての尊厳と権利を守るために

【特集】いま、あらためて植民地支配責任を問う

◇いま、なぜ植民地支配責任を問うのか… … 鄭栄桓

◇徴用工判決・植民地主義・国別対抗戦……殷勇基

◇在朝被爆者の現状と課題……金子哲夫

◇植民地遊廓から慰安所へ―朝鮮共和国調査から見えてきたこと……金栄

■インタビュー

斎藤紀代美さん「子どもたちの人権と平和を希求して」

■民族教育

◇九州朝鮮高校「無償化」裁判地裁判決について……朴憲浩

◇ウリハッキョ、同胞障害児相談から見えること……李恵順

◇朝鮮高校生たちの声を届けに―国連・子どもの権利委員会日本審査活動報告…宋恵淑

■寄稿

◇日本の朝鮮半島報道における根本問題―「成熟」と「文化」の陥穽……武市一成

◇朝連強制解散、財産接収に対する在日朝鮮人の取消・反対運動(下)……金誠明

■連載

◇差別とヘイトのない社会をめざして(8)/差別と闘う教育・文化・情報―人種差別撤廃条約第七条の解釈……前田朗

■会員エッセイ

◇沖縄の地で74年も眠り続ける朝鮮人強制連行被害者の遺骨を前にして……李洪潤

■会員の事務所訪問

◇裵柄秀税理士事務所/自身の情報、人脈で顧客の多様な期待に応えていきたい

■最近の同胞相談事情

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■ニュースTOPICS 

■人権協会活動ファイル

■資料

47号 巻頭言

激動する情勢、来るべき未来を見据えた運動を

今年6月12日、朝鮮民主主義人民共和国の金正恩委員長とアメリカ合衆国のトランプ大統領が史上初めての朝米首脳会談をシンガポールで行い、歴史的な朝米共同宣言に合意した。さらに、今年4月27日の板門店での北南首脳会談と「板門店宣言」の採択に続き、9月19日、金正恩委員長と文在寅大統領が平壌にて再び会談し「9月平壌共同宣言」を採択した。歴史が大きく動こうとする中、日本は今なお在日朝鮮人に対する差別と抑圧に固執している。

今年6月、日本政府による対朝鮮独自「制裁」による措置として、関西国際空港税関当局が神戸朝鮮高級学校学生たちの祖国訪問時のお土産を「没収」した。報道でもとりあげられ大きな批判の声が上がり、結局、政府はお土産のほとんどを学生たちに返却したが、根本の対朝鮮独自「制裁」自体は廃止されることなく継続している。

さらに9月、大阪「無償化」裁判において大阪高裁は地裁判決を覆し、原告敗訴を言い渡した。明らかに政治外交的理由で朝鮮学校を「無償化」制度から排除したにも関わらず、判決はその論点に一切触れず、政府の後付けの理屈に乗っかる形で、朝鮮学校と朝鮮総聯との関係性が教育基本法上禁じられている教育に対する「不当な支配」にあたるという本末転倒の判断を下したのである。そもそも、外国人学校を制度的に保障する法的枠組みがない中、朝鮮学校が民族教育を自主的に行っていくためには祖国や民族団体との連携は不可欠であり、それはその他の外国人学校でもみられる当然のものである。しかし、判決は在日朝鮮人の諸権利を擁護してきた民族団体である朝鮮総聯が「反社会的」組織であるとの歪んだ認識をまるごと肯定し、教育内容の評価にまで踏み込むものであった。

このようにみる時、朝鮮学校をめぐる「無償化」除外問題や地方自治体の補助金削減問題は、在日朝鮮人による自主的な民族教育に対する弾圧として捉える必要がある。日本政府は、「朝鮮籍を含め外国人の子供については、公立の義務教育諸学校について日本人児童生徒と同様に無償で教育を受けることができ、就学の機会の確保を図っている。したがって、朝鮮学校に対して地方自治体から補助金が出ていない場合にも、子供が在日朝鮮人であることを理由に、教育を受ける権利が妨げられているものではない」(人種差別撤廃条約第10回・第11回政府報告・2017年7月)という従来の主張を、今年の人種差別撤廃委員会第4回日本報告審査においても居直るように繰り返したが、私たちは抽象的に「学校」で教育を受ける権利を求めているのではない。かつて日本による植民地支配により奪われ、そして差別・同化政策、歴史修正主義により今も奪われ続ける民族の歴史と言語・文化を取り戻し、培うべく守られてきた朝鮮学校において、在日朝鮮人が自主的な民族教育を行い、そしてその民族教育を受ける権利をこそ求めているのである。同志社大学の板垣竜太教授は、「“民族教育権”という概念は、どこか外側から導入されたというより、むしろ在日朝鮮人運動史の中から生み出されてきたものであり、〔…〕民族教育への弾圧に対する抵抗の歴史過程において編み出された」(2015.2.25人権協会シンポジウム)と述べたが、4.24教育闘争70周年を迎えた今年、政治情勢に翻弄されながらも民族教育を死守してきた「歴史過程」を今、改めて確認したい。

9月19日、文在寅大統領は、平壌のメーデースタジアムにて15万人の平壌市民を前に、北南の敵対関係の清算と自主的平和的統一への意志を表明した。まさに「失われた11年」(金正恩委員長)から祖国が再び統一へと動き出し、停戦状態のまま65年を超えた朝鮮戦争も終戦へと導かれつつある。朝鮮民族の生を大きく規定してきた戦後冷戦と分断の構造が変容しつつある中、私たち在日朝鮮人もまた、歴史の主人公として、きたるべき未来をたくましく構想し、具現化していく運動を展開していきたい。

『人権と生活』47号・目次

‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 47号 (2018年12月)∴‥∵‥∴∴‥∵‥

■主張:激動する情勢、来るべき未来を見据えた運動を

【特集】国際政治の中の在日朝鮮人

◇在日朝鮮人人権問題への視座…金昌宣

◇朝鮮学校生「お土産押収」事件の何が問題か…李春熙

◇祐天寺の朝鮮人遺骨について…梁大隆

◇1948年朝鮮人学校閉鎖令の史料批判…鄭祐宗

 

■インタビュー

◇柳学洙さん/朝鮮民主主義人民共和国の経済、「今」と「これから」をどうみるか

 

■寄稿

◇国連人種差別撤廃委員会、新たな勧告を日本政府に突きつける…朴金優綺

◇結論ありきの不当な大阪高裁判決…金英哲

◇在日無年金当事者 李幸宏さん人種差別撤廃条約の日本審査参加と委員会に訴えるため、スイスジュネーブに行く…鄭明愛

 

■連載

◇差別とヘイトのない社会をめざして(7)/国連人種差別撤廃委員会、日本に4度目の勧告…前田朗

 

■会員エッセイ 

◇国連人種差別撤廃委員会の日本審査に参加して…金順雅

 

■会員の事務所訪問

◇行政書士申法務事務所/頼られ、感謝される専門家に…申鉉秀

 

■最近の同胞相談事情

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■ニュースTOPICS 

■人権協会活動ファイル

■資料

『人権と生活』46号 巻頭言

だれもが自分自身を解放できる同胞社会づくりを目指して

朝鮮半島をめぐる冷戦の終結に向け、歴史的な平和への胎動が起きている。

4月27日、全世界が注目する中、祖国分断の象徴である板門店で北南首脳会談が開催された。両国の首脳が手を取り合い、ともに軍事境界線を乗り越える姿は、軍事的対立、民族の反目、そして家族の離散を経験してきたすべての朝鮮同胞に深い感動を与えた。在日同胞高齢者のための通所介護事業所「いこいのマダン」(愛知県名古屋市)では、1世のハルモニ、ハラボジらがテレビ中継を見守り、両首脳が握手をした瞬間、「今日まで生きてきて本当によかった」と涙を流したという。板門店宣言にあるように、「途切れた民族の血脈を結び、共同繁栄と自主統一の未来を早めていく」ことは、「これ以上先送りできない時代の切迫した要求である」。1世らの思いを私たちはしっかりと受け止め、民族の悲願である統一を現実のものにしていかなければならないだろう。

朝鮮半島のダイナミックな動きに追随するかのように、「拉致問題」の解決を御旗に「制裁」強化を声高に叫び続けてきた日本政府も、ようやく「対話」を口にするようになった。しかし、日本政府が真に「対話」を望むならば、その前に正すべきことがあるだろう。同じ4月27日、「制裁」一辺倒の国の意向を汲むかのように、朝鮮高校「無償化」裁判で名古屋地裁は「請求棄却」という不当判決を出した。広島、東京に続き、子どもたちの朝鮮学校で学ぶ民族教育の権利を踏みにじった。同胞高齢者や障がい者の無年金問題も然り、一切の救済措置もなく年金制度から除外されたままである。本来であれば、率先して差別を解消すべき国が自ら制度的に差別を作り出している。そしてこのような土壌で、民族差別、蔑視、誹謗中傷はますます拡散し続けている。

過去の侵略と植民地支配への無反省、日本政府が「対話」を実りあるものにしたいならば、ただちにこのような態度をあらため、国を挙げての在日朝鮮人への人権侵害をやめるべきである。

私たち在日朝鮮人は、植民地支配期から現在にいたるまで引き続くこの植民地主義に抗い、日本当局の露骨な差別と抑圧をはねのけ、自らの権利を守るため、老若男女を問わず一丸となって団結してきた。それは民族の尊厳と生存権を賭けた闘いであったし、先述した未解決の権利獲得のため、これからも代を継いで運動を続けなければならない。

それと同時に、私たちはこれまでの闘いの中で見落としてきた、あるいは置き去りにしてきた問題にも取り組む必要があるだろう。すなわち、在日朝鮮人の権利獲得という大きな課題のもとで看過されがちであった、高齢者、病や障がいのある人、子どもや女性、セクシャルマイノリティなど、同胞社会の中でもとりわけ弱い立場にある人たちへの差別である。かのじょ・かれらは、在日朝鮮人という集団に対する民族差別に加えて、その集団である同胞社会の内外においても、それぞれの差別に遭遇している。そのため、例えば、障がいがあるかどうか、男性であるか女性であるかによって、同じ同胞社会の構成員であっても複合的な差別を経験し、より大きな不利益を受けている。私たちはそのような事実を直視し、かのじょ・かれらが直面する問題を運動に反映させてきただろうか? 在日朝鮮人をとりまく状況が過酷だからといって、私たちが帰属する同胞社会内部の抑圧的な構造や差別には鈍感ではなかっただろうか?

私たちの運動は、在日朝鮮人の権利を守る運動であり、同胞一人ひとりの尊厳と人権を守る闘いである。これまで抑圧の対象であった私たちが、決して抑圧や差別に加担する側に立ってはいけない。世代交代が進み、同胞社会の構成員も多様化する中、私たちはだれもが安全で、安心して、自由に自分自身を解放できる同胞社会づくりを目指さなければならない。

『人権と生活』46号・目次

‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 46号 (2018年6月)5月30日販売∴‥∵‥∴∴‥∵‥

■主張:だれもが自分自身を解放できる同胞社会づくりを目指して

【特集】在日朝鮮人と複合差別

◇ハンセン病と在日朝鮮人―解放後における新たな闘い……金貴粉

◇在日無年金差別と在日障害者と出会って……鄭明愛

◇[座談]京都ハッキョの保健室運営と「セクシュアルマイノリティ」をテーマにした保健授業について……沈香福・宍戸友紀

◇在日同胞社会におけるジェンダーフリーについて考えてみる―「在日同胞のジェンダー意識に関するアンケート」結果報告書を参考に……康仙華

■インタビュー

◇角田義一弁護士/群馬朝鮮人追悼碑訴訟をめぐって

■寄稿

◇朝鮮学校「無償化」除外と在日朝鮮人の子どもたちの教育権……朴金優綺

◇山口朝鮮学校の保健室運営について……松岡節子

■連載

◇差別とヘイトのない社会をめざして(6)/差別とテロを容認する日本政府とメディア ―「ニュース女子」問題、朝鮮総連本部銃撃テロ事件……前田朗

■会員エッセイ

◇平昌オリンピック総聯応援団に参加して……李全美

■会員の事務所訪問

◇ハナ国際法律事務所 朴憲浩さん/同胞弁護士として、腹を括って闘っていきたい

■最近の同胞相談事情

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■ニュースTOPICS

■人権協会活動ファイル

■資料

『人権と生活』45号 巻頭言

「忖度」と「ダブルスタンダード」がまかり通る中で

森友・加計問題で一躍脚光を浴び、今年の流行語大賞の最有力候補の一つとなるであろう「忖度」。

さてこの「忖度」だが、はたして官僚の専売特許と言えるだろうか? かつて「KY(空気を読めない)」という言葉が流行ったこの日本社会には、あらゆるところにこの「忖度」が蔓延しているのではないか。森友・加計問題で官僚の「忖度」を追及したマスメディアも例外ではない。10年ほど前、某全国紙の記者の間で次のような話が交わされたという。「なぜ北朝鮮が飛ばしたミサイルの場合は他国の時のように『発射実験』とはならず『発射』となるのか?」「でも他紙も北朝鮮の場合は『発射実験』とは書かない」「うちだけ『発射実験』と書いてしまうのは…」。悩んだ末、その会話の翌日の一面記事は「…ミサイル7発」。「発射」とも「発射実験」とも書くのを避けた表現にしたらしいが、結局その後、他紙同様「実験」といった言葉が続かない「発射」という表現に落ち着いてしまった。

こういったあり様はインターネットで検索すればすぐ確認できる。

米国や韓国に対しては「米がICBM発射実験…攻撃能力示し北に圧力」(読売新聞2017年4月27日)、「韓国ミサイル、北全域を射程に 射程800キロ試射に『成功』」(産経BIZ 2017年4月6日)と「実験」「試射」といった言葉が用いられる。一方で朝鮮民主主義人民共和国に対しては「北朝鮮ミサイル 4発同時発射 政府、新迎撃体制検討」(毎日新聞2017年3月7日)「北朝鮮、ミサイル発射失敗か 韓国軍、種類など分析中」(朝日新聞2017年4月29日)、「北ミサイル発射を受け、首相官邸でNSC開催」(読売新聞2017年4月29日)といったように、どの新聞社もまるで示し合わせているかのように「実験」等の言葉を用いない。これらの報道において仮に「実験」といった言葉が付いていれば、避難訓練や電車を止めるような、実効性に疑問符が付く過剰としか言いようのない対応を取ることへの理解は得られにくいであろうし、そもそも市民の反発を恐れてそんなことは行わないかもしれない。

弾道ミサイルや核のみならず人を殺傷する兵器は、それが一度に数十万人であれ、1000人であれ100人であれ、たとえ1人であっても無いに越したことはない。しかし、核兵器禁止条約にも背を向ける核保有国などが他国の核保有を批判する資格、根拠はどこから生まれるのか? 7000もの核弾頭を持つ国が、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定にするためのテーブルに着くことすら拒否し続け、核先制使用のオプションまで維持し続けるとしている中、それへの脅威を感じ、ライオンを前にしたハリネズミのように身構えることがそんなに不自然なことであろうか? 少なくとも一方的に責められるようなことであろうか? そのことをマスコミはどれほど報じてきたのか? 脅威を煽り、自らの支持率の回復、また改憲をはじめとした戦争が出来る国づくりを進める政権に、結局はマスコミも一役買っているとは言えまいか?

朝鮮学校に対する「高校無償化」からの排除問題や自治体による補助金停止問題においても、この「ダブルスタンダード」がまかり通っている。アメリカンスクールで広島・長崎への原爆投下をどう教えているかなどは不問にされる一方、朝鮮学校については教育内容に対して干渉し、やれ「反日」だ、何だと差別の「大義名分」にしようとしたりまでする。また実際に経理上の不祥事を起こした日本の私立学校はその後も「高校無償化」の適用対象からは外されない一方で(生徒に罪はないので当然だが)、朝鮮学校は、不確かな情報をもって「疑わしい」として適用除外とされる。

「高校無償化」裁判では、不当にも広島地裁と東京地裁が、まさに行政への「忖度」としか言いようのない判決を出した。文科省の前事務次官が「制度の門を開き申請を受け付け、審査もしていたのに、政治判断でいきなり門を閉じた」「極めて理不尽」(神奈川新聞2017年9月13日)とまで言っているほど事実は明白であるにもかかわらず、政府が後付けで詭弁を尽くして描いたストーリーをそのまま認めてしまったのだ。一方で、大阪地裁判決はこれとは真逆の判断を示し、原告側の全面勝訴となった。事実を事実通り認定し、良心を以て法と正義に基づく判断を出したのである。

これらの裁判は、全て控訴審で再び争われる。来年には地裁判決が出ることになるであろう愛知と福岡の裁判、また、今年初めに不当判決が出た大阪府と大阪市を訴えた補助金停止裁判も含め、これからも裁判闘争が続く。

「忖度」と「ダブルスタンダード」によって子どもたちの学ぶ権利まで翻弄される状況に終止符を打つべく、より多くの人々と手を携えながら裁判闘争を闘い抜いていきたい。

 

 

『人権と生活』45号・目次

∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 45号 (2017年12月)11月6日発売∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴

■主張:「忖度」と「ダブルスタンダード」がまかり通る中で

【特集】「無償化」裁判の勝利に向けて

◇「無償化」訴訟広島判決について……平田かおり

◇力をあわせて勝ち取った大阪地裁判決……金英哲

◇東京朝鮮高校生「高校無償化」国賠訴訟の地裁判決について……李春熙

◇全国行脚でめぐった全国の朝鮮学校での出会い……長谷川和男

◇すべての子どもたちには学ぶ権利がある!―韓国で拡がる朝鮮学校支援運動……孫美姫

■インタビュー

◇田中宏さんに聞く/「無償化」裁判各地判決を受けて

■寄稿

◇「制裁の10年」がもたらしたもの―朝鮮人道支援の現場から考える……米津篤八

◇個人的体験から考える対朝鮮「制裁」……康成銀

■連載

◇差別とヘイトのない社会をめざして(5)/人種差別撤廃条約・日本政府報告書を読む……前田朗

■会員エッセイ

■会員の事務所訪問

◇武蔵国分寺法律事務所 全東周さん/多摩地域を支える身近な弁護士に

■寄稿

◇NPO法人 同胞法律・生活センター20年―同胞の安心、明日を後押し……殷宗基

■最近の同胞相談事情

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■人権協会活動ファイル

■資料

在日朝鮮人の人権を侵害する制裁措置の廃止を求める意見書