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『人権と生活』41号 巻頭言

日本の帝国主義と植民地主義を問う歴史的存在として

「日本はいま、経済大国でもあり、軍事大国でもあります。そういう大きな国が今度派兵するというのは、どういうことでしょうか。今度は何をするために派兵をするのでしょうか。過去にやったことを明らかにもせず隠したままで、今度は出かけていって誰かを殺すことになるのでしょうか。

過去において不幸にした人びとに対して何らかの謝罪があってしかるべきです。過去に起こったことを、ちゃんと謝罪すべきではないでしょうか。そこから新しい関係が始まるのではないでしょうか。私のように従軍慰安婦にされた人に対して謝ることすらせず、いま派兵する日本が怖いのです」

日本軍性奴隷制による被害に対する日本政府の謝罪と賠償を求め、韓国で初めてサバイバーとして名乗り出た金学順さんが、一九九一年、日本で行った証言である。同年の湾岸戦争をはじめとする自衛隊の海外派遣本格化という日本の軍国主義再現への恐怖の感情が、かつて自身を日本軍の性奴隷とし残虐の限りを尽くしたばかりか、その事実に対して真相究明も謝罪もせず、むしろ「業者が連れ歩いた」と国家責任を否定して憚らない日本の植民地主義への憤怒の感情と共に吐露されている。

日本政府による真の謝罪を求める日本軍性奴隷制サバイバーの呼びかけに対し、日本は一貫して自国の法的責任否定をもって応答してきた。いまや日本軍性奴隷制のみならず、関東大震災時の朝鮮人虐殺、朝鮮人強制連行・強制労働など、植民地支配下で日本の国家権力が朝鮮民族に対して行った数々の反人道的な加害の歴史を否定する言説が、もはや聞き慣れたものとなった状況である。

金学順さんが初めて自身の名前と顔を明らかにして被害の証言をした日から二四年目にあたる二〇一五年八月一四日、日本の安倍晋三首相は「戦後七〇年」に際した内閣総理大臣談話を発表した。談話は、日本が朝鮮を侵略する過程で朝鮮の民衆を大量虐殺した日清戦争には触れず、朝鮮の主権を侵奪した日露戦争を「植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけ」たものとして評価した。義兵戦争や抗日闘争の徹底弾圧を通じた朝鮮植民地化と、併合条約を不法に強制することで朝鮮を植民地とした歴史は抹消し、アジア太平洋戦争に関しても「三百万余の同胞」や「戦火を交えた国々」についてのみ言及し、その生を奪った無数の民の存在は排除することで、自国の植民地支配責任を徹底して無視・否定してのけた。談話は、日本帝国主義による侵略戦争と植民地支配に対する加害責任を果たすことを敗戦後も免がれ、積極的に怠るどころか、加害の事実を隠ぺいし、自国の加害責任を一貫して否定し無化しようとしてきた「戦後日本」の総決算ともいえるものであった。

そして私たち在日朝鮮人は、侵略戦争と植民地支配の歴史の否定という土台の上に新たに形づくられようとしている「戦後日本=平和国家」という「戦後史」の歪曲も看過するわけにはいかない。談話では、日本の「七十年間に及ぶ平和国家としての歩み」が「静かな誇りを抱」くものとして語られ、「世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献」する日本を「終戦八十年、九十年、さらには百年に向けて(中略)国民の皆様と共に創り上げていく」決意が語られた。

私たちは今、思い起こす。日本と米占領軍による民族教育弾圧に抗するたたかいの中で、日本の警察の銃弾に倒れた朝鮮人青年を。獄中での拷問によって息絶えた朝鮮人活動家を。糊口をしのぐための酒造りの場を日本の警察に襲撃され、射殺された朝鮮人労働者を。日本人高校生に集団暴行され、殺傷された朝鮮人高校生を。朝鮮民主主義人民共和国への偏執的なバッシングの中で、見ず知らずの日本人に制服を切り裂かれ、身体を傷つけられた朝鮮人女子学生を。「スパイの子ども」「不逞鮮人」という排外主義者らの言葉の刃で精神を深く傷つけられ、今も恐怖のただ中で生きていかざるをえない朝鮮人児童を。このような「戦後七〇年」を一体全体、誰が「平和」と呼べようか?

加害の歴史の歪曲は、次なる加害への踏み台となる。日本の朝鮮侵略と植民地支配、さらには「戦後」の加害史まで隠ぺいし礼賛した談話発表の後、ついに「安全保障」法制が成立したことは偶然ではない。「積極的平和主義」という欺瞞のもと、自衛隊の軍靴が踏み入れられる舞台としてまず想定されているのは、他でもない朝鮮半島である。過去の侵略及び植民地支配の責任すら果たしていない日本の朝鮮再侵略企図を、私たちは断じて許さない。

私たち在日朝鮮人こそは、日本の帝国主義および植民地主義が一世紀半にもわたり朝鮮民族へ犯した未曾有の罪過が、どれだけ隠され、無きものにされようとしても、決して消え得ないことを体現する歴史的存在である。朝鮮民族の尊厳をかけて、全力で抵抗していきたい。

『人権と生活』41号・目次

∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 41号 (2015年12月)∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴

■主張:日本の帝国主義と植民地主義を問う歴史的存在として

【特集】「戦後日本=平和国家」観を問う

◇朝鮮から見た日本の戦争観・植民地認識の問題―朝鮮の「150年の非平和」と植民地支配責任論の源流…………慎蒼宇

◇「戦後史」の歴史修正主義に抗する在日朝鮮人史―<歴史改竄体制>克服のための歴史認識を求めて…………鄭栄桓

◇日韓条約50年、課題と展望…………文泰勝

◇日本の戦後体制の形成と解放後在日朝鮮人の地位問題の行方―1949年「田中意見書」の位置付け…………鄭祐宗

■対談

◇土井敏邦×金優綺 ”記憶”と生きる―日本軍性奴隷制サバイバーと在日朝鮮人

民族教育

◇神奈川朝鮮学校の公立分校から自主校移管への経緯―日本側資料から探る…………大石 忠雄

◇朝鮮学校に保健室を!―ヘイトクライム事件を乗り越え、民族教育の地平をめざす…………さとう 大

寄稿

◇聖戦大碑と「平和国家日本」の欺瞞性…………田村 光彰

◇濁酒と解放―内部から腐る平和を問う…………李杏理

連載

◇人種差別撤廃施策推進法案について…………前田 朗

■会員訪問

韓東賢さん(日本映画大学准教授・社会学)”排外主義的な風潮、教育者としてできることはないか”

■エッセイ

◇人権活動と相談活動をライフワークに!…………姜潤華

■最近の同胞相談事情

■人権協会活動ファイル

『人権と生活』40号 巻頭言

日本の歴史歪曲を許してはならない

日本の植民地支配からの解放70周年を迎えたいま、日本では歴史修正の嵐が吹き荒れている。
昨年、朝日新聞の吉田清治証言をもとにした日本軍「慰安婦」記事の取消しと謝罪を契機に、日本軍「慰安婦」=日本軍性奴隷の歴史そのものを塗り消そうとする動きは、政府とマスコミが一体となってすさまじい勢いで展開されている。
安倍首相は、朝日新聞の記事取消しをうけ、「国ぐるみで性奴隷にしたとの、いわれなき中傷が世界で行われている。誤報によって、そういう状況が生み出された」(2014年10月3日衆院予算委員会)と述べたが、数多の証言、資料で証明されている歴史的事実を、吉田証言の否定のみをもって「いわれなき中傷」と位置づけ、「政府としては客観的な事実に基づく、正しい歴史認識が形成され、正当な評価を受けるよう戦略的な対外発信を強化する」と強調した。文部科学省による中学校教科書検定(2015年4月結果公表)では、関東大震災時の朝鮮人虐殺や南京大虐殺の記述において加害の事実を相対化させる表現に記述を修正し、唯一日本軍「慰安婦」問題について記述した「学び舎」の教科書に対してはその記述を大幅に削除して「日本軍や官憲による強制連行を直接示す資料は発見されていない」という政府見解を追加するなど、政府が率先して教育の現場で露骨な歴史修正を展開している。
また、日本各地では、日本の朝鮮人支配の歴史をいまに伝える史跡から侵略や強制連行の事実を消そうとする動きが広がっている。2004年、群馬県立公園内に建てられた、朝鮮人強制連行犠牲者のための「記憶 反省 そして友好」の追悼碑は、10年の設置期間の更新を県が許可せず、さらには撤去まで求め、それに反対する市民たちは行政訴訟を提起した。その他、北海道猿払村(朝鮮人徴用追悼碑設置中止)、長野県松代町(松代大本営説明板内容修正)、奈良県天理市(柳本飛行場跡強制連行説明版撤去)、大阪市(ピース大阪展示から「侵略」の表現消去)大阪府茨木市(朝鮮人強制連行銘板撤去要請)、福岡県飯塚市(飯塚霊園朝鮮人追悼碑撤去・碑文改訂要請)など、枚挙にいとまがない。
こうした動きは、第二次安倍政権以降特に顕著であるが、これらの現象を安倍首相個人の保守的政治思想の問題に還元してはならない。戦後冷戦と朝鮮半島分断を奇貨として過去清算を積極的にサボタージュし続け、その結果、克服されることなく温存されてきた日本の植民地主義が、いま、からを破って表出してきたといえる。歴史修正と改憲、軍事大国化への道筋は、70年をかけて着々と地ならしされてきたのである。
街頭を跋扈する「ヘイト・スピーチ」に対する関心は高まり、一定の批判的雰囲気は醸成されつつあるが、その一方、このような日本の歴史修正の動きに対しては、メディアも真正面から取り上げることはほとんどなく、その批判的論調は弱まる。また、朝鮮民主主義人民共和国に対する「制裁」の文脈においては、むしろ政府とメディアが一体となり、率先して「反朝鮮感情」を扇動してきた。公権力自ら意図的に作り出してきたこの「国民感情」をたてにして、在日朝鮮人、とりわけ朝鮮総聯や朝鮮学校への差別・弾圧政策を展開してきたのであり、こうした「上からの」排外主義こそが、草の根の排外主義が出現する土壌を形成してきたといえる。したがって、この総体としての差別・排外主義の歴史的・社会的構造に対する批判的視座なくして、現代の問題を根本的に解決していくことは不可能だろう。
最近では、在特会などの排外主義者のみならず政治家が、在日朝鮮人の諸権利、なかでも「特別永住資格」を標的として議論の俎上に載せようとしているが、これは在日朝鮮人の歴史性を消していく動きと一体になったものであるといえる。
日本の歴史修正の動きに屈することなく、存在をかけて、同胞と共に声をあげていきたい。

『人権と生活』40号・目次

∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権生活 40 (2015年6月)∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴

■主張:日本の歴史歪曲を許してはならない 

【特集】シンポジウム:現代日本の排外主義にどう立ち向かうか―ヘイト・スピーチ、歴史修正主義、民族教育を考える

パネラー:金尚均(龍谷大学教授)、鄭栄桓(明治学院大学准教授)、板垣竜太(同志社大学教授)
コーディネーター:李春熙(弁護士)

■インタビュー:鄭敬謨さん 

「解放」70年に思うこと

民族教育

◇多文化共生の神奈川を!補助金支給を求めるとりくみ…………園部 守

◇子どもたちにより良い環境を!東京で実現した朝鮮学校周辺の交通安全対策…………宋恵淑

寄稿

◇群馬の森追悼碑訴訟について~歴史修正主義との闘い~…………下山 順

◇ヘイトスピーチをめぐる運動における右傾化について…………朴利明

■会員の事務所訪問/金昌坤税理士事務所・金昌坤さん

有志で知恵を持ち寄り、地域同胞に貢献したい

■エッセイ

◇「자매(姉妹)」たちへの思い―<日本軍性奴隷制の否定を許さない4.23アクション~裵奉奇ハルモニを追憶して~>を終えて―…………李イスル

■最近の同胞相談事情

■人権協会活動ファイル

資料

『人権と生活』39号・目次

 

∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権生活 39 (2014年冬)∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴

正誤表

■主張:差別の扇動のみ問題にされ、差別自体は不問にされてはならない

 

【特集1】 施行から3年を前に―「新在留管理制度」における解決すべき問題

◇「新在留管理制度」における解決すべき諸問題―「特別永住者」「永住者」を中心に…………金東鶴

◇新入管法「3年後の見直し」を前に、いま、何が問題で、何がなされるべきか~自由権規約委員会、人種差別撤廃委員会勧告~…………大曲由起子

◇制度化された猜疑心―外国人の証明書提示(呈示)義務について…………鄭栄桓

◇「新たな在留管理制度」を正しく認識するためのQ&A

 

【特集2】 2014年夏、国連審査で問われたこは―自由権規約委員会人種差別撤廃委員会報告

◇日本におけるヘイトスピーチ国連勧告…………小森恵

◇「最終的に被害を受けるのは朝鮮学校生徒たちだ」―国連・人種差別撤廃委員会、「高校無償化」・補助金問題是正を日本政府に勧告…………金優綺

◇活動報告―自由権規約委員会に参加して…………李泰一

◇知ろう、広めよう、朝鮮学校に対する差別是正を求める国連勧告

 

■講演録――阿部浩己さん

国際人権法から見る「高校無償化」問題

 

■民族教育

認められた民族教育――京都朝鮮学校襲撃事件大阪高裁控訴審判決から…………上瀧浩子
■会員の事務所訪問/司法書士 皇甫泰伸さん
同胞社会で必要される専門家して
■エッセイ
荒野座公演・劇「関東大震災―命ある限り―」を鑑賞して
■Books
■最近の同胞相談事情
■司法試験・司法書士試験会員合格者紹介
人権協会活動ファイル
■資料
・在日同胞・在日外国人 人口統計
・在日同胞帰化許可者数統計
・法務省に提出した当協会の要請書
・国連・人種差別撤廃委員会 総括所見(2014年)

『人権と生活』38号・目次

*****人権と生活 38号 (2014年夏)*****

■主張   国連人権勧告の実現を求めて

 

特集 国際人権諸条約と在日朝鮮人の人権保障

●国際人権条約からみた在日朝鮮人の人権保障と日本の人権政策/武村二三夫

●人種差別撤廃条約の日本における適用状況と課題-人種差別訴訟をめぐる判例理論の発展とその限界/金哲敏

●国際人権法からみる朝鮮学校への補助金不支給問題/金南湜

●在日コリアン無年金高齢者の人権と国際人権法~福岡無年金訴訟判決を受けて~/李武哲

●人権協会のこれまでの国際人権条約委員会への取組を振り返って~朝鮮学校と児童・生徒たちへの差別問題を中心に~/宋恵淑

 

■インタビュー/総聯映画制作所・呂運珏顧問に聞く

現代史を朝鮮映画人として生きて

 

■民族教育

絶対に負けられない裁判~東京朝高無償化裁判報告・第一回口頭弁論を終えて~

 

■会員の事務所訪問/ハナ国際法律事務所・金敏寛弁護士

朝鮮学校除外は明らかな不条理-差別と闘うための活動に全力を注ぎたい

 

【寄稿】 

●国連・人権勧告の実現を!-すべての人に尊厳と実現を!-/野平晋作

●日本軍「慰安婦」問題に対する国連勧告―拷問禁止委員会での審議を中心に―/渡辺美奈

●国際人権基準におけるセクシュアル・マイノリティ/藤田裕喜

 

■法実務の現場から/本国法を共和国法とする在日朝鮮人の

親権者と未成年者との利益が相反する場合の特別代理人の選任について/白吉雲

 

 

■報告

日本軍性奴隷問題解決を求める北南海外女性討論会に参加して/金優綺

 

■エッセイ

「朝鮮学校に高校無償化制度を適用せよ!」―金曜闘争に参加しながら/黄希奈

 

○最近の同胞相談事情

○人権協会活動ファイル

○資料

・在日同胞婚姻統計

・在日同胞離婚統計

・在日同胞出生、死亡 統計

32号・目次

人権生活Vol.32(2011年夏)


差別に屈するこなく、「高校無償化」を勝ち取ろう!

特集 日本社会朝鮮学校「無償化問題」
● 朝鮮学校「無償化問題」-現状課題-/金東鶴
● 「高校無償化」朝鮮学校排除いう現実に立ち向かう!/長谷川和男
● 私にっての「無償化問題」-ネットワーク愛知の運動に関わって-/山本かほり
● 「高校無償化」大阪の「補助金」 底流にある民族差別/大村淳
● 現代日本のレイシズム点描 朝鮮学校に対する攻撃・排除を事例に/板垣竜太

特別座談会
 ●在日朝鮮人の人権擁護は日本人の民主権利を守る闘い~朝日連帯の歴史を次世代に~60年代~「在日朝鮮人の人権を守る会」幹事長歴任の日本人弁護士若手在日弁護士らが語る

大震災のなかで-宮城からの報告/金成吉

セセデ会員
 ●児童擁護施設から見える世界/慎泰俊

○最近の同胞相談事情

○これは知っ得!暮らしのQ&A

○会員の事務所訪問-大山合同司法書士事務所 金奉吉さん
          行政書士 社会保険労務士 金光総合事務所 金正敏・金仙喜さん

【寄稿】●リスク社会における新たな運動課題しての《朝鮮学校無償化除外》問題/金明秀
    ●女性国際戦犯法廷から10年-法廷の思想実践/金富子
    ●「なあがら」の取り組み-植民地主義を私自身の問題して考える/加藤圭木

○情報ファイル 2010年韓国国籍法改正の在日への影響 他

○Books 「冷戦の追憶-南北朝鮮交流秘史」他

在特会らによる京都の朝鮮学校への襲撃事件に対する民事裁判支援にご協力を!

○活動ファイル

○資料