反レイシズムの連帯を拡げよう
米国において、白人警官による黒人への暴力・殺人事件はこれまでも繰り返されてきたが、2020年5月のジョージ・フロイド殺害事件を機に端を発し、全米に巻き起こった直接行動運動であるBML(Black Lives Matter)運動は世界へと拡がりをみせ、今なお世界で人種差別/レイシズムの暴力が跋扈する現実を眼前に突き付けた。
このBML運動は、日本のメディアでも大きく取り上げられたが、あたかも日本には人種差別/レイシズムが存在しないかのように、それらの多くは日本における人種差別/レイシズムを省みるものではなかった。
実際はどうか。日本政府は、歴史的に在日朝鮮人に対する差別・弾圧政策をとり続けてきたが、在日朝鮮人差別のみならず、アイヌ差別、琉球・沖縄人差別はすべて人種差別/レイシズムといえる。国連人種差別撤廃委員会から、これらの差別が人種差別撤廃条約上の人種差別にあたるとして、日本政府は繰り返しその是正を求める勧告を受け、実効的な差別禁止の立法措置が求められている。それにもかかわらず、前述のように日本に人種差別が存在しないかのような認識が支配的である原因について、梁英聖氏は「日本社会に人種差別は存在する。見えない。なぜだろうか。わかりやすい原因の一つは日本政府によって人種差別が隠されていることだ。国内で頻発している人種差別について、日本政府は調査もせず、統計もとっていない。もし交通事故や犯罪が、調査もされず統計も取られない場合、交通事故や犯罪は存在じたいが政府によって隠されてしまう。ちょうどこれと同じことが人種差別では長年にわたり続けられている。これは政府がヘイトクライム統計を公表する米国や英国の場合、政府がレイシズムを隠すことができないことと対照的である」(ちくま新書『レイシズムとは何か』)と述べる。
これに加え、日本政府は朝鮮高校・朝鮮幼稚園を「無償化」制度から除外し、コロナ禍における学生支援制度から朝鮮大学校学生を排除するなど、自ら率先して在日朝鮮人に対する差別政策をとり続けている。
このような日本政府の姿勢は地方政府にも波及し、朝鮮学校への補助金を削除する自治体が増加、昨年にはさいたま市がコロナ感染防止対策の一環として市内の幼稚園、保育園に備蓄用マスクを配布した際、同市内の朝鮮幼稚園を配布対象外とするなど(大きな批判の声があがり、その後配布が決定された)、日本において在日朝鮮人差別は構造化され、繰り返されてきた。
さらに、こうした政府による差別政策は、日本社会における在日朝鮮人に対する差別のハードルを下げてきた。たとえば80・90年代にはチマ・チョゴリ切り裂き事件など、朝鮮学校を標的にしたレイシズム犯罪が頻発、2000年代には「在特会」など過激化した排外主義者たちが日常的にヘイトスピーチを繰り返し、京都朝鮮第一初級学校(当時)を児童がいる中で襲撃(2009年)するなど、在日朝鮮人社会に大きな衝撃を与えた。昨今では、大企業であるDHCが公式サイトにおいて、代表取締役自ら「サントリーのCMに起用されているタレントはどういうわけかほぼ全員がコリアン系の日本人です。そのためネットではチョントリーと揶揄されているようです。DHCは起用タレントをはじめ、すべてが純粋な日本人です。」(2020年11月)といった露骨な民族差別発言を繰り返し、これらの発言を掲示し続けた。これについて社会的に大きな批判があがる中、同社と協定関係にある複数の自治体や関係企業からも批判を受け、同社は今年5月末にようやく同発言を削除したが、6月4日現在、公式サイトにおける経緯説明や謝罪は一切ない。近年、反差別運動の具体的成果として「ヘイトスピーチ解消法」(2016年)が施行されたが、限界も多く、未だ日本社会において反レイシズム、反差別の社会的規範が定着しているとはいえない。
梁英聖氏は、こうも述べる。「レイシズムとは、人種化して、殺す(死なせる)、権力である」(前掲書)。在日朝鮮人集住地区である大阪の鶴橋駅前では、中学生が在日朝鮮人に向け「南京大虐殺ではなく鶴橋大虐殺を実行しますよ!」と叫ぶヘイト街宣が行われたが(2013年)、「ヘイト暴力のピラミッド」の有名な図が指し示すように、偏見や先入観はやがて差別行為や暴力にいきつき、最終的にはジェノサイドへと道をひらいていく。反レイシズムは、わたしたち在日朝鮮人の命にかかわるきわめて具体的な課題である。
グローバルな反レイシズム運動に学びながら、日本における反レイシズムの連帯を拡げ、差別と暴力の根絶に向けて、進んでいきたい。