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『人権と生活』59号 主張

結成30周年を迎えて

 1994年2月に結成された在日本朝鮮人人権協会は今年で結成30年を迎えた。

 この間、既に鬼籍に入られた崔一洙初代会長、柳光守元会長、趙鏞復元会長、白文鉉元副会長をはじめとする多くの方々が、同胞専門家による同胞のための人権擁護、法律・生活サポートを行う組織の結成とその発展のために心血を注がれた。

 結成当初わずか2人だった弁護士会員が今では70人に達しようとしていることをはじめ、有資格者会員は200人を優に超えるに至るなど、会員数も大幅に増えた。

 そしてこの間、資格を持つ会員はその持てる専門知識を活かして同胞たちへの無料法律相談活動を各地で展開し、研究者や活動家の会員は会報『人権と生活』においての論考や様々な実践活動を通して多くの問題提起を同胞社会・日本社会に投げかけるなどして、会員それぞれがその力を発揮し、同胞の人権・生活状況の改善に努めてきた。

 とりわけ民族教育への露骨な制度的差別をはじめとする同胞への不当な差別や弾圧に対しては多くの取り組みを行ってきた。「高校無償化」制度からの朝鮮学校排除など未だ解決できていない問題も少なくないが、大学入学資格問題やそれに続く形で取り組んだ朝鮮大学校生及びその卒業生の国家資格試験の受験資格問題では、在学中における税理士試験・保育士試験の受験をできるようにするなど、多くの成果を勝ち取った。最近においても幼保無償化制度の代替措置(いわゆる「新支援策」)の朝鮮幼稚園適用やさいたま市による朝鮮幼稚園へのマスク不支給撤回、大阪のMBSラジオにおける朝鮮学校への差別妄言への抗議行動により、同社の謝罪および再発防止措置を勝ち取るなど、会員たちが大きな役割を果たしている。

◇◇◇

 人権協会が結成された1994年は日本が子どもの権利条約に批准した年でもある。

 昨年にはこの条約の精神に則った「こども基本法」も施行されたが、朝鮮学校をはじめとする外国人学校に通う子どもたちへの差別は未だ無くならず、「高校無償化」排除やそれに連動するように拡がった朝鮮学校に対する自治体の補助金停止措置など、子どもの権利条約に明らかに抵触する差別が今なおまかり通っている。

 また、今年の通常国会においては入管法が「改正」され、技能実習制度の改編等に伴い永住者資格を持つ者の増加が見込まれるからという「理由」から、永住資格の取り消し要件が大幅に拡大された。

 「わが国に永住する異民族が、いつまでも異民族としてとどまることは、一種の少数民族として将来困難深刻な社会問題となることは明かである。彼我双方の将来における生活と安定のために、これらのひとたち(在日朝鮮人)に対する同化政策が強調されるゆえんである。すなわち大いに帰化してもらうことである。・・・・・ここでも、南北のいずれを問わず彼らの行う在日の子弟に対する民族教育に対する対策が早急に確立されなければならない」

 これは、日本と韓国が国交を結んだ1965年に内閣調査室(現在は内閣情報調査室)が発行した『調査月報』7月号の中に記されたものだが、当時、国交樹立にあたって在日朝鮮人に対し永住資格を認めざるを得ない(とはいってもこのときの「協定永住」は韓国の在外国民登録をした者に限るものだったが)と考えた日本政府内の本音を如実に顕している。そしてこの年の年末「朝鮮人として民族性または国民性を涵養することを目的とする朝鮮人学校は、わが国の社会にとって、各種学校の地位を与える積極的意義を有するものとは認められない」とする文部事務次官通達が、都道府県知事らに向けて出された。

 外国籍の永住者増加への拒否感、それと表裏の関係を持つ民族教育への否定的対応、この日本政府の姿勢が60年前と大きくは変わっていないことを昨今の状況は雄弁に物語っている。

 とりわけこの30年間は、群馬の森の朝鮮人追悼碑撤去や小池都知事による関東大震災時の朝鮮人犠牲者を追悼する式典への追悼文送付拒否、チマチョゴリ切り裂き事件、在特会による朝鮮学校襲撃事件、ウトロ放火事件に象徴されるように、歴史修正主義、また、それに連動した排外主義が官民問わず蔓延る時代でもあった。

◇◇◇

 このように人権協会の前には30年前の結成時に勝るとも劣らない課題が山積している。この間の多くの方のご尽力・ご支援への敬意と感謝の思いを胸に刻みながら、これまでの経験を糧にして今後より一層在日朝鮮人の権利擁護と生活支援を軸にした人権活動に邁進したい。

『人権と生活』59号目次

人権と生活_59号表紙

■主張 結成30周年を迎えて

■【特集】在日朝鮮人差別の構造とその打開に向けて~在日本朝鮮人人権協会結成30周年を迎え~

◇クロストーク「90年代以降の在日朝鮮人差別の構造」 ……鄭栄桓・藤永壮・金星姫

◇リレートーク「現場の声を聞く」 ……康仙華・任真赫・金星姫

■インタビュー

◇顧問・姜惠眞さん/権利擁護運動史の新時代への転換点

■トピック

◇2024年通常国会における入管法および入管特例法改定について

――永住資格の取り消し要件拡大と有効期間問題を中心に ……金東鶴

■連載

差別とヘイトのない社会をめざして(18)変わり始めた憲法学

――レイシズム憲法学から非差別憲法学へ ……前田朗

■追悼 金賢玉さん

同胞の生に寄り添った総聯活動家 ……朴金優綺

■会員の事務所訪問

矛盾と不条理に立ち向かい、同胞にとって心強いと感じてもらえる弁護士を目指して ……白充さん(弁護士)

■書籍紹介~人権協会事務所の本棚から~

■人権協会活動ファイル 2024・5~2024・10

■資料 在日同胞・在日外国人人口統計、在日同胞帰化許可者数統計、人権協会30年のあゆみ<1994ー2024>、在日外国人無年金問題に関する打越さく良議員による質疑[参議院厚生労働委員会、2024年5月30日]、在日外国人無年金問題解決へ向けた要望[年金制度の国籍条項を完全撤廃させる全国連絡会、2024年8月1日]


金賢玉さんへのインタビュー(『人権と生活』35号、2012年)

金賢玉さんのご逝去(2024年7月)を受けて、本協会の会報『人権と生活』35号(2012年)に掲載した金賢玉さんへのインタビュー記事をオンライン公開しました。ぜひご一読ください。

*関連記事:追悼・金賢玉さん――同胞の生に寄り添った総聯活動家/朴金優綺

『人権と生活』58号目次

人権と生活_58号表紙

■主張 すべての子どもが大切にされる、差別のない社会に向けて

■【特集】外国人学校の子どもたちの権利保障に向けて~子どもの権利条約批准から30年~

◇子どもの権利条約批准30年――「こども基本法」制定などの進展と残された課題 ……平野裕二

◇「子どもの最善の利益」の観点から、朝鮮学校の子どもたちの権利保障を!――子どもの権利条約批准から30年、朝鮮学校の子どもたちの人権を守る闘いから ……宋恵淑

◇高校無償化、幼保無償化、補助金問題以外にも・・・朝鮮学校をはじめとする外国人学校処遇における様々な問題 ……金東鶴

◇本当に「誰も置き去りにしない」社会を目指して―― 地域でブラジル学校のサポートに関わってきた経験から ……河かおる

■インタビュー

◇上村和子さん/「負けない闘い」から「残る闘い」に――人権の視点から、朝鮮学校の子どもたちへの差別を許さない仕組みを日本社会に残す闘いを

■トピック

◇猛威ふるう加害史の抹消――「強制連行」否認、歴史改ざんへの同調・忖度深化 ……常盤辛

■寄稿

◇差別されない権利とは何か?――「『復刻版全国部落調査』出版差止事件」控訴審判決を例に ……河村健夫

■連載

差別とヘイトのない社会をめざして(17)脱植民地フェミニズムに学ぶ ……前田朗

■会員訪問

◇梁聡子さん(成城大学グローカル研究センター招聘研究員)

■会員エッセイ

◇「人権と生活」のバランス ……朴賢憲

■書籍紹介~人権協会事務所の本棚から~

■人権協会活動ファイル 2023・11~2024・4

■資料 在日同胞出生・死亡統計(1955-2022)、在日同胞婚姻統計(1955-2022)、在日同胞離婚統計(1996-2022)、国連・子どもの権利委員会から日本政府に対し出された朝鮮学校に通う子どもたちに対する差別の是正を求める勧告と関連する子どもの権利条約条文

『人権と生活』58号 主張

すべての子どもが大切にされる、差別のない社会に向けて

日本が子どもの権利条約を批准して今年で30年になる。この条約にのっとり、すべての子どもが将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指し、子ども政策を総合的に推進することを目的とする「こども基本法」が2022年6月に成立し、2023年4月に施行された。

しかしながら現在、同じ「学校」でも公・私立間で制度的な支援に違いがあるほか、私立の中でも、民族教育を実施している外国人学校の多くはいわゆる教育基本法上の一条校ではない各種学校の地位にあるため、一条校と同等の普通教育を行っていながらも様々な支援制度の枠組みの対象から外れている。外国人学校に通う子どもたちは、一条校に通う子どもたちと比較して、今も様々な不利益・不公平を被ることを余儀なくされている。

さらに、同じ各種学校の中でもとりわけ朝鮮学校に関しては、政治外交上の理由をもって「高校無償化」制度からも排除され、少なくない自治体において補助金が停止・減額される事態が継続している。こうした状況が構造的差別となり、現在も差別を再生産し続けている。たとえば、低所得者世帯向けの事業として、元来一条校に通う生徒の保護者を対象に各自治体で実施されてきた「私立高等学校等奨学のための給付金」は、「高校無償化」制度が始まったことにより、一条校から「高校無償化」が適用されている各種学校等にその対象が「拡大」された結果、朝鮮学校だけが排除されることとなった。その他、補助金や助成制度の対象とならないことから、学校における保健室運営や学校給食等、子どもたちが本来差別なく享受すべき環境が整わない現実がある。

「こども基本法」において、こども施策の基本理念として「全てのこどもについて、個人として尊重され、その基本的人権が保障されるとともに、差別的取扱いを受けることがないようにすること」と規定されているとおり、自身の国籍や人種、信条、性別、障害の有無、家庭の形態はもちろん、子どもたちが通う学校の法的区分などにもかかわりなく、あらゆる子どもたちが上記のような様々な支援制度の対象であると解釈されるべきである。

日本政府は、子どもの権利条約の遵守状況を審査する子どもの権利委員会をはじめとする国際人権条約諸機関によってたびたび出されてきた外国人学校・朝鮮学校差別是正を求める勧告に対して、これまでまったく誠実に向き合ってこなかった。そして、今も政府自ら同条約の精神を裏切り続けている。

様々な制度的枠組みから外れた朝鮮学校をはじめとした外国人学校の運営は財政的にも困難を極めている中、文字通り汗と涙の滲む自助努力と、地域社会における善意に裏打ちされた日本人支援者などによる支援活動で持ちこたえているが、こうした状況を美談で終わらせず、日本の構造的差別を打ち破るための力強い運動を展開していきたい。

『人権と生活』57号 主張

ヘイトのピラミッドを打ち崩す場としての朝鮮学校で

 米国の反ヘイト団体であるAnti-Defamation Leagueが作成した「ヘイトのピラミッド」(46頁参照)は、デマを信じたり受け入れたりするなどの先入観に基づく態度や、いじめや嘲笑などの偏見に基づく行為がピラミッドの下部に位置し、それらが、政治・教育・雇用などにおける差別行為、殺人・放火・脅迫などの暴力行為、特定の集団に対するジェノサイドから成るピラミッドの中間部から上部を下支えしていることを分かりやすく示している。

 このピラミッドに日本における在日朝鮮人の人権状況を当てはめてみると、ネット上に氾濫するデマを信じるコメントなどの先入観に基づく態度、ヘイトスピーチなどの偏見に基づく行為、「高校無償化」制度からの朝鮮学校除外などの差別行為、ウトロ地区への放火事件・朝鮮学校生徒へのヘイトクライムなどの暴力行為に至るまで、在日朝鮮人への「ヘイトのピラミッド」は着々と積み重なっており、100年前の関東大震災時の朝鮮人虐殺というジェノサイドを彷彿とさせる危機的な状況が迫っているといえる。

 在日朝鮮人への「ヘイトのピラミッド」を下支えするのが在日朝鮮人への先入観や偏見だということは、ウトロ地区放火事件の犯人が、「ウトロ地区の住民が土地を不法に占拠している」「在日朝鮮人は日本人よりも優遇されている」などのネット上のデマを鵜呑みにし、在日朝鮮人への差別的な動機に基づいて犯行に至ったことを考えれば容易に納得がいく。

 犯人には在日朝鮮人の知人もいなかったというが、もしも犯人に在日朝鮮人の知人がいれば、ウトロや在日朝鮮人の歴史を正しく学んでいれば、事件は起こらなかったのではないかと思わざるを得ない。事件後、ウトロの住民が放火後の焼け跡を見ながら話したという「もし、火をつけた青年がここへ来ていたらご飯を食べさせてあげたのに。そしたらあんな大それたことせんでも済むやん」との言葉は、まさに事件の本質を突いている。

 在日朝鮮人と出会い、言葉を交わし、知り合っていく。そのプロセスが在日朝鮮人への先入観や偏見を正し、ひいては在日朝鮮人への差別・暴力・ジェノサイドを食い止める防波堤になるのだとしたら、日本各地にある朝鮮学校は、日本で在日朝鮮人と確実に出会い、知り合うことのできる場として、その防波堤の役割を果たしているといえるのではないだろうか。朝鮮学校の子どもたちと触れ合える公開授業、七輪を囲んで焼肉をつつきあう食事交流会、地域の住民が列をなして開門を待つバザーやお祭り……。朝鮮学校は機会あるごとにその門戸を開きながら、誰もが在日朝鮮人と出会える場を提供すべく日々努力を続けている。朝鮮学校を知ることがすなわち在日朝鮮人の歴史と現在を知ることにつながり、在日朝鮮人の歴史と現在を知ることがすなわち、在日朝鮮人への差別や暴力にともに立ち向かう仲間を増やすことにつながるからだ。

 実際、朝鮮学校と出会った人々の多くが、それまで持っていた自らの先入観や偏見に基づく朝鮮観を問い直し、日本政府や自治体による各種支援制度からの朝鮮学校の除外など、現在も続く日本の植民地主義の有り様に憤り、その根絶のために立ち上がっている。学校給食の対象外である朝鮮学校の子どもたちのために給食をつくって提供する。日本政府や自治体からの支援がほぼ皆無であるため厳しい運営を強いられている学校を支えようと、保護者たちが販売するキムチを買って財政を支える。生徒たちの感性豊かな絵画を多くの人々が鑑賞できるよう、各地で展示会を開催する。コロナ禍での学校支援策からも除外された朝鮮学校のために、寄付金を募って渡す。その姿を、そのつながり方を、ぜひ本誌で確認してほしい。そして、もしあなたに在日朝鮮人の知人がいなければ、ぜひ気軽に近くの朝鮮学校とつながってほしい。

 ピラミッドの土台が崩れれば、その上部も自ずと崩れていく。その日を信じて、ヘイトのピラミッドを打ち崩す場としての朝鮮学校で、今日も人々はつながっていく。

『人権と生活』57号目次

人権と生活_57号表紙

■主張 ヘイトのピラミッドを打ち崩す場としての朝鮮学校で

■【特集】朝鮮学校とのつながり方~食べる・学ぶ・交わる~

◇日本人の責任として――城北ハッキョを支える会の活動 ……大村和子

◇トングラミ(川崎朝鮮初級学校の市民給食会)の活動――朝鮮学校とまーるくつながる―― ……平賀萬里子

◇差別を許さない仲間をつくる埼愛キムチ活動! ……金範重

◇山陰学美展は、こうして始まった。そして・・・ ……三谷昇

◇授業でも交流しよう!――千葉朝鮮初中級学校―― ……堀川久司

◇共に未来をつくる『友』として――「静岡朝鮮学校・友の会」の活動から―― ……林容子

■インタビュー

◇長崎由美子さん/朝鮮学校を支援し、差別と闘う活動には普遍的意義がある

■民族教育

◇朝鮮学校の子どもたちに東京都の補助金復活を! ……猪俣京子

■トピック

◇入管特例法等の改正――特別永住者証明書等の16歳の更新時の期限超過に対する刑事罰適用はなくなることに ……金東鶴

◇ヘイトクライムを再生産する日本の差別・排外主義―MBSラジオ社への抗議運動の経験から考える ……文時弘

■寄稿

◇日本のなかの「境界」――大村入国者収容所と在日朝鮮人―― ……李英美

◇在日朝鮮学生共同研究実践プロジェクト・朝鮮人犠牲者追悼碑調査活動について ……宋知樺

■連載

差別とヘイトのない社会をめざして(16)ジェノサイドと上官の責任――関東大震災朝鮮人虐殺のタブー・摂政裕仁の責任をめぐって ……前田朗

■会員の事務所訪問

◇蔡成浩さん(不動産鑑定士)/同胞社会のニーズを汲みながら、専門家集団としての役割を果たしていきたい

■会員エッセイ

◇百年の指針 ……鄭優希

■書籍紹介~人権協会事務所の本棚から~

■注目ニュース

■人権協会活動ファイル 2023・5~2023・10

■資料 在日同胞・在日外国人人口統計、在日同胞帰化許可者数統計

『人権と生活』56号目次

【56号正誤表】

1. 誤字:9頁 上段 11行目 「真理」→「心理」

2. 挿入:10頁 下段 19行目 「なくなり、自助融和会による――」→「なくなり、37年9月は自助融和会による――」

3. 誤字:11頁 注26 「35年の追悼会を最後に」→「翌36年の追悼会を最後に」

■主張 声をあげ続けよう、関東大震災時の悲劇が繰り返されることのないように

■【特集】関東大震災朝鮮人虐殺100年に際して

◇関東大震災朝鮮人虐殺に対する植民地期在日朝鮮人運動と100年目の課題……鄭永寿

◇関東大震災の流言蜚語と大阪の朝鮮人――そして最近の虐殺事件矮小化の動向に対する記憶の継承の重要性……塚﨑昌之

◇関東大震災時の朝鮮人虐殺の歴史的背景――日本軍隊の植民地戦争経験から……慎蒼宇

1923年9月3日の「体験」とは何であったか――ドーティー/ジョンストン日記を読む……鄭栄桓

◇東京都人権部による歴史否定と在日コリアンへの差別を理由とした「検閲・上映中止決定」が明らかにしたこと……飯山由貴

■インタビュー

◇梓澤和幸さん/「在日外国人という問題は、日本人一人一人の生き方と世界像の変革をせまっている」

■民族教育

◇広がり、積み重なる朝鮮学校差別是正勧告――国連・自由権規約委員会第7回日本審査と第4回UPR日本審査を受けて……朴金優綺

■寄稿

◇佐渡鉱山・朝鮮人強制労働の実態……竹内康人

◇『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』をめぐって―歴史と向き合うことの意義……熊野功英

■連載

差別とヘイトのない社会をめざして(15)コリアン・ジェノサイドを考える――関東大震災朝鮮人虐殺100年を契機に……前田朗

■追悼

◇故・洪祥進氏を追悼して……空野佳弘・尹峰雪

■会員エッセイ

◇日本軍性奴隷制サバイバーと4・23アクション〜“出会う”と“これから”を共有する場を志向して〜……池允学

■会員訪問

◇瀬戸徐映里奈さん(近畿大学人権問題研究所所員)

■書籍紹介~人権協会事務所の本棚から~

■ニュースTOPICS

■人権協会活動ファイル 2022・11~2023・4

■資料 出生死亡(1955―2021)、同胞婚姻統計(1955-2021)、同胞離婚統計(1955-2021)

MBSラジオの番組内における暴言問題について

 ※2023年4月3日追記有

 本年2月21日、関西のAM放送局であるMBSラジオの番組『上泉雄一のええなぁ!』において、ゲストスピーカーであった上念司氏が、朝鮮学校に対して「スパイ養成的なところ」と発言するなど、朝鮮学校に通う生徒をはじめ在日朝鮮人の人権を脅かし、またそれを扇動するような、到底看過できない発言を繰り返し、番組においてそのまま放送されました(詳細は以下「質問状」参照)。

 今回、それが個人ではなく極めて公共性の高い民間放送局の番組においてなされたことは、その社会的影響から極めて重大な問題があると考え、人権協会傘下の関西3団体(大阪人権協会・兵庫人権協会・京都協議体)の連名で3月3日付で質問状を送り、社の立場を確認したところ、MBSラジオ社からは、3月14日付の回答が送られてきました。

 MBSラジオ社の回答によれば、本協会からの質問状を受けて、①3月10日の当該番組内の放送において「お詫び」をし、②同3月10日の1日の間、「お詫び」(以下画像参照)をMBSラジオサイト内の当該番組の紹介ページで掲載したこと、③YouTube上で配信されている当該放送分につき、「スパイ養成的なところもあったり」という発言部分のみをカットしたこと(配信自体は継続)が確認されました。

 しかし、本回答における、当該発言が「子どもたちの人権を守る」論旨からなされたとの主張は到底首肯しうるものではなく、その他質問にも真正面から答えるものではないこと、かつ「お詫び」の内容も不十分であるのみならず掲載が1日に限られるものであったこと、さらにYouTube上の配信については当該発言をカットするのみでなんの説明も付記されていないことなど、あまりに対応として不誠実かつ不十分なものであると言わざるをえません。

 したがって、人権協会傘下の関西3団体は当該「質問状」およびMBSラジオ社の回答および現在の対応を公表し、その問題性を改めて喚起するとともに、引き続きMBSラジオ社の誠実な対応を求めます。

2023年3月15日

※ ※ ※ 以下、4月3日 追記 ※ ※ ※

 MBSラジオ社の不十分な対応を受けて、改めて「抗議・要請書」を3月24日、MBSラジオ社役員との直接面談の場において提出しました。「抗議・要請書」に、その後の経緯も反映されています。以下、 「抗議・要請書」 原文を転載します。

抗議・要請書

3月24日

                              在日本朝鮮人大阪人権協会
                             在日本朝鮮人兵庫人権協会
                           在日本朝鮮人人権協会京都協議体

私ども在日本朝鮮人人権協会は、本年2月21日に放送された貴社ラジオ番組『上泉雄一のええなぁ!』のゲストスピーカーであった上念司氏が、下記の通り発言(一部抜粋)した件につき、3月3日付の質問状を送付し、貴社の立場を確認するとともに抗議をしてまいりました。

その後、貴社は、質問状について3月14日付で回答し、当該回のオンライン配信について一部のみをカットし、3月10日のわずか1日のみ「お詫び」を番組ホームページ内に掲載しました。

しかし、貴社から送付された上記回答は、私どもの質問に明確に答えるものではないばかりか、当該発言内容が、総じて朝鮮学校の名誉を毀損し、朝鮮学校ひいては在日朝鮮人への攻撃を煽るメッセージ性をもった極めて危険な発言であるという深刻な問題性をまったく認識しておらず、公共性・公益性を有する放送局としての責任を受け止めるものではありませんでした。とりわけ、上念氏の当該発言は「子どもたちの人権を守る」ことが論旨であるとした貴社の見解はおよそ首肯できるものではなく、上念氏、ひいては自社を擁護するための詭弁としか受け止めることができません。

また、番組ホームページ上に掲載された「お詫び」の内容も、あくまで「誤解を与える内容」であったことについてのみ言及する極めて不十分な内容であるのみならず、その「お詫び」すら、1日のみ掲載するというあまりに不誠実な対応でした。

そうした対応を受け、私どもが一連の事実を公表した後、貴社に対する批判の声はより大きくなり、各メディアにおける報道においても大きくとりあげられたことから、貴社は、番組ホームページに掲載していた「お詫び」を再掲し、インターネット上で配信していた当該回を停止するに至りました。

貴社の説明によれば、「朝鮮学校生徒らへの二次被害を防止するために1日のみのお詫びの掲載をした」とのことですが、およそ理由になっていないばかりか、「二次被害」が起こりうるような危険性を認識しているのであれば、より誠実に、より具体的な対応をとるべきでした。それにも関わらず、上記の対応以外なんらの措置もとられてこなかったことから、3月20日に実施された貴社との直接面談の場で、朝鮮学校保護者とともに改めて抗議の意思を伝えるとともに、翌日の上念氏出演回における本人による謝罪の意の表明、また質問状への明確な回答および再発防止のための取り組みの実施の要請を行いました。

しかしながら、謝罪の意の表明はおろか、居直るような発言を繰り返す上念氏を当該番組に通常通り出演させるなど、むしろ貴社は「お詫び」に表明していた立場すら放棄し、上念氏の発言を追認する立場に立ったものと判断せざるをえない対応に終始しました。

高まる貴社への批判の声を背景に、3月23日、貴社は上念氏の番組降板を公表しましたが、同日、当該番組Twitterアカウントにて、改めて上念氏の発言が「ヘイトスピーチにはあたらない」との見解を表明し、上念氏が自身のYouTubeチャンネルにおいて「最後まで守ってくれたスタッフの皆さん、上泉雄一さんありがとう!」と書いているとおり、貴社は上念氏を降板させる判断をとりつつも、上念氏と認識においてその差はなく、今後も同様の発言を「論評」として許容する立場であることは明白です。

いうまでもなく、私どもは、上念氏の降板によって問題が解決したとは全く考えていません。かつての京都朝鮮学校襲撃事件やウトロ放火事件をみても明白なように、在日朝鮮人を標的としたヘイトクライムが頻発している昨今の社会状況の中で、公共性の高い放送局においてこうした発言が跋扈することが、いかに在日朝鮮人、とりわけ朝鮮学校の保護者や生徒たちの日常に恐怖をもたらしているか、今一度、想像力を働かせて抗議の声を誠実に受け止め、公共性・公益性を有するマスメディアとしての責任を果たすべきことを貴社に繰り返し強く求めます。

そこで、私どもは、本日の貴社との直接面談の場において、改めて本件について強く抗議するとともに、以下、要請いたします。

併せて、貴社が具体的にどのように取り組まれるのかについて、本年3月末日までに書面による回答を求める次第です。

要 請

  • 本件に関する事実の経緯、および在日朝鮮人への差別を許さず、いかなるヘイトも容認しないという貴社の立場を明確にしたステートメントを発表し、当該番組ではなく貴社のホームページ上に一定期間掲載すること。
  • 公共性・公益性を有するマスメディアとしての責任と使命を自覚し、社内教育をはじめとした、再発防止のための取り組みを継続的に行うこと。

以上

 

当該「抗議・要請書」に対し、3月31日、MBSラジオ社より本協会に直接回答が手渡され、その内容に関する説明がありましたので、これを公表します。

 回答にあたり、3月24日の直接面談で表明された保護者など当事者の声を社として重く受け止める中で、朝鮮学校・民族教育に対する無理解があったことを表明し、その「知見を深める努力」を具体的に進める旨の表明がありました。しかし、依然として上念氏の発言については「ヘイトスピーチにはあたらず論評である」との見解を撤回していません。

 また、要請項目に掲げた、社としての反差別・反ヘイトのステートメントの発表も否定する内容であり、およそ不十分な内容と判断せざるをえません。これについては、「コンプライアンス憲章」がすでに掲示されている旨の回答がありましたが、今回の事態はこの憲章が掲げられている中で起こったことであり、本件についての具体的な対応としてはなんの説明にもなっていません。再発防止策として、本件の個別具体的な経緯を反映させたステートメントが発表されてこそ、はじめて意味のあるものとなるはずです。

 回答および説明を受け、MBSラジオに限らず、今後マスメディア全般において同様の事態が発生しないよう、BPOへの申し立てをする判断をし、3月31日付の申立書を4月1日に送付しました。

 引き続き、今回の問題について注視いただければと思います。

2023年4月3日

人権と生活55号 目次

‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 55号 (2022年11月日発売)∴‥∵‥∴∴‥∵‥

************55号訂正のお詫び** **********

●p11補足資料:[誤]【1951年】4.19 日本政府、朝鮮人は「日本国籍喪失」を通達→[正]【1952年】4.19 日本政府、朝鮮人は「日本国籍喪失」を通達

●p50上段8行目:[誤]「権爀泰」→[正]「権赫泰」 ※以後同様

●p52中段:最終パラグラフ→[正]「周知のように入管特例法制定による1991年に……一本化され、協定永住者や特例永住者などのかつての「法126」該当者はすべて特別永住者に統一された。」


以上、お詫びして訂正いたします。【編集部】

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◆主張:サンフランシスコ平和条約発効70年に際して

【特集】サンフランシスコ平和条約は在日朝鮮人に何をもたらしたのか?――条約発効とその後の70年を考える

◇解放後の在日朝鮮人の国籍問題と法的地位の確立 ――対日講和条約と法務府民事局長通達……金昌宣 

◇「朝鮮国連軍」協力の論理と国籍問題 ――入国管理庁長官「6・21通達」(1952年)を読み直す……鄭栄桓

◇サンフランシスコ講和条約と在日朝鮮人の生存権……金耿昊 

◇戦後日本の教育制度と外国籍――就学義務制と「当然の法理」から考える……呉永鎬 

■民族教育 

◇九州人権協会による性教育の取り組みについて……朴憲浩、金梨美 

◇民族教育の権利拡充運動において意義ある一歩 ――朝鮮幼稚園の保護者にも「支援事業」を通した国庫補助が実現……宋恵淑

 ■講演録

 ◇田中宏さん/朝鮮学校は「炭鉱のカナリア」――あれこれ考えること

 ■寄稿

 ◇「ウトロ放火事件」被害者弁護団員としての活動報告……玄政和

 ◇定住者資格で日本に生きる在日朝鮮人として……金美恵 

■連載 差別とヘイトのない社会をめざして(14)

◇ ヘイト・クライム被害者救済のために(2)――EU政策報告書の紹介……前田朗

■会員エッセイ 

◇金紀愛さん/真にポグムチャリ(拠り所)たる同胞社会の実現を目指して

■会員訪問/鄭祐宗さん(大谷大学准教授)

■祝!開業 人権協会会員の事務所紹介

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■ニュースTOPICS

■人権協会活動ファイル

■巻末資料

◇在日同胞・在日外国人  人口統計
◇帰化許可者統計
◇共同通信記事/在日朝鮮人差別問題 前・後編