『人権と生活』58号 主張

すべての子どもが大切にされる、差別のない社会に向けて

日本が子どもの権利条約を批准して今年で30年になる。この条約にのっとり、すべての子どもが将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指し、子ども政策を総合的に推進することを目的とする「こども基本法」が2022年6月に成立し、2023年4月に施行された。

しかしながら現在、同じ「学校」でも公・私立間で制度的な支援に違いがあるほか、私立の中でも、民族教育を実施している外国人学校の多くはいわゆる教育基本法上の一条校ではない各種学校の地位にあるため、一条校と同等の普通教育を行っていながらも様々な支援制度の枠組みの対象から外れている。外国人学校に通う子どもたちは、一条校に通う子どもたちと比較して、今も様々な不利益・不公平を被ることを余儀なくされている。

さらに、同じ各種学校の中でもとりわけ朝鮮学校に関しては、政治外交上の理由をもって「高校無償化」制度からも排除され、少なくない自治体において補助金が停止・減額される事態が継続している。こうした状況が構造的差別となり、現在も差別を再生産し続けている。たとえば、低所得者世帯向けの事業として、元来一条校に通う生徒の保護者を対象に各自治体で実施されてきた「私立高等学校等奨学のための給付金」は、「高校無償化」制度が始まったことにより、一条校から「高校無償化」が適用されている各種学校等にその対象が「拡大」された結果、朝鮮学校だけが排除されることとなった。その他、補助金や助成制度の対象とならないことから、学校における保健室運営や学校給食等、子どもたちが本来差別なく享受すべき環境が整わない現実がある。

「こども基本法」において、こども施策の基本理念として「全てのこどもについて、個人として尊重され、その基本的人権が保障されるとともに、差別的取扱いを受けることがないようにすること」と規定されているとおり、自身の国籍や人種、信条、性別、障害の有無、家庭の形態はもちろん、子どもたちが通う学校の法的区分などにもかかわりなく、あらゆる子どもたちが上記のような様々な支援制度の対象であると解釈されるべきである。

日本政府は、子どもの権利条約の遵守状況を審査する子どもの権利委員会をはじめとする国際人権条約諸機関によってたびたび出されてきた外国人学校・朝鮮学校差別是正を求める勧告に対して、これまでまったく誠実に向き合ってこなかった。そして、今も政府自ら同条約の精神を裏切り続けている。

様々な制度的枠組みから外れた朝鮮学校をはじめとした外国人学校の運営は財政的にも困難を極めている中、文字通り汗と涙の滲む自助努力と、地域社会における善意に裏打ちされた日本人支援者などによる支援活動で持ちこたえているが、こうした状況を美談で終わらせず、日本の構造的差別を打ち破るための力強い運動を展開していきたい。