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52号 巻頭言

反レイシズムの連帯を拡げよう

米国において、白人警官による黒人への暴力・殺人事件はこれまでも繰り返されてきたが、2020年5月のジョージ・フロイド殺害事件を機に端を発し、全米に巻き起こった直接行動運動であるBML(Black Lives Matter)運動は世界へと拡がりをみせ、今なお世界で人種差別/レイシズムの暴力が跋扈する現実を眼前に突き付けた。

このBML運動は、日本のメディアでも大きく取り上げられたが、あたかも日本には人種差別/レイシズムが存在しないかのように、それらの多くは日本における人種差別/レイシズムを省みるものではなかった。

実際はどうか。日本政府は、歴史的に在日朝鮮人に対する差別・弾圧政策をとり続けてきたが、在日朝鮮人差別のみならず、アイヌ差別、琉球・沖縄人差別はすべて人種差別/レイシズムといえる。国連人種差別撤廃委員会から、これらの差別が人種差別撤廃条約上の人種差別にあたるとして、日本政府は繰り返しその是正を求める勧告を受け、実効的な差別禁止の立法措置が求められている。それにもかかわらず、前述のように日本に人種差別が存在しないかのような認識が支配的である原因について、梁英聖氏は「日本社会に人種差別は存在する。見えない。なぜだろうか。わかりやすい原因の一つは日本政府によって人種差別が隠されていることだ。国内で頻発している人種差別について、日本政府は調査もせず、統計もとっていない。もし交通事故や犯罪が、調査もされず統計も取られない場合、交通事故や犯罪は存在じたいが政府によって隠されてしまう。ちょうどこれと同じことが人種差別では長年にわたり続けられている。これは政府がヘイトクライム統計を公表する米国や英国の場合、政府がレイシズムを隠すことができないことと対照的である」(ちくま新書『レイシズムとは何か』)と述べる。

これに加え、日本政府は朝鮮高校・朝鮮幼稚園を「無償化」制度から除外し、コロナ禍における学生支援制度から朝鮮大学校学生を排除するなど、自ら率先して在日朝鮮人に対する差別政策をとり続けている。

このような日本政府の姿勢は地方政府にも波及し、朝鮮学校への補助金を削除する自治体が増加、昨年にはさいたま市がコロナ感染防止対策の一環として市内の幼稚園、保育園に備蓄用マスクを配布した際、同市内の朝鮮幼稚園を配布対象外とするなど(大きな批判の声があがり、その後配布が決定された)、日本において在日朝鮮人差別は構造化され、繰り返されてきた。

さらに、こうした政府による差別政策は、日本社会における在日朝鮮人に対する差別のハードルを下げてきた。たとえば80・90年代にはチマ・チョゴリ切り裂き事件など、朝鮮学校を標的にしたレイシズム犯罪が頻発、2000年代には「在特会」など過激化した排外主義者たちが日常的にヘイトスピーチを繰り返し、京都朝鮮第一初級学校(当時)を児童がいる中で襲撃(2009年)するなど、在日朝鮮人社会に大きな衝撃を与えた。昨今では、大企業であるDHCが公式サイトにおいて、代表取締役自ら「サントリーのCMに起用されているタレントはどういうわけかほぼ全員がコリアン系の日本人です。そのためネットではチョントリーと揶揄されているようです。DHCは起用タレントをはじめ、すべてが純粋な日本人です。」(2020年11月)といった露骨な民族差別発言を繰り返し、これらの発言を掲示し続けた。これについて社会的に大きな批判があがる中、同社と協定関係にある複数の自治体や関係企業からも批判を受け、同社は今年5月末にようやく同発言を削除したが、6月4日現在、公式サイトにおける経緯説明や謝罪は一切ない。近年、反差別運動の具体的成果として「ヘイトスピーチ解消法」(2016年)が施行されたが、限界も多く、未だ日本社会において反レイシズム、反差別の社会的規範が定着しているとはいえない。

梁英聖氏は、こうも述べる。「レイシズムとは、人種化して、殺す(死なせる)、権力である」(前掲書)。在日朝鮮人集住地区である大阪の鶴橋駅前では、中学生が在日朝鮮人に向け「南京大虐殺ではなく鶴橋大虐殺を実行しますよ!」と叫ぶヘイト街宣が行われたが(2013年)、「ヘイト暴力のピラミッド」の有名な図が指し示すように、偏見や先入観はやがて差別行為や暴力にいきつき、最終的にはジェノサイドへと道をひらいていく。反レイシズムは、わたしたち在日朝鮮人の命にかかわるきわめて具体的な課題である。

グローバルな反レイシズム運動に学びながら、日本における反レイシズムの連帯を拡げ、差別と暴力の根絶に向けて、進んでいきたい。

人権と生活52号 目次

‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 52号 (2021年6月11日発売)∴‥∵‥∴∴‥∵‥

◆主張:反レイシズムの連帯を拡げよう

【特集】レイシズムとしての在日朝鮮人差別

◇レイシズムとしての在日コリアン差別をどのように分析するか──「在日特権」を生み出すレイシズム法制としての1952年体制を再論する……梁英聖

◇インターネット上のヘイトスピーチ……趙學植

◇「日本にも人種差別はある!」 ── 闘うNGOからの報告……小森恵

◇在日朝鮮人と日本の社会保障制度 ── 国籍条項を問う……金静寅

■インタビュー 

◇前田朗さん/自覚なきレイシストの国で ── 四半世紀にわたる国際人権活動の経験から

■民族教育

◇朝鮮幼稚園が子ども子育て新制度の支援の枠内に ── 幼保無償化からの朝鮮幼稚園除外問題、あらたな局面を迎える……宋恵淑

■寄稿

◇マイクロアグレッションの視点から考える在日朝鮮人差別……朴利明

◇「敵認定」の制度化とその帰結 ── 朝鮮学校と日本のレイシズム……ハン・トンヒョン

◇「14歳に満たない外国人」の起源をたどる ── 外国人登録の年令的免除者に関する覚書……鄭栄桓

■会員エッセイ

◇在日コリアン女性のハラスメント事例集を発刊して……河庚希

■会員の事務所訪問

◇SHIN司法書士事務所 辛彰男さん/同胞の目線で仕事ができる同胞社会の「かかりつけ司法書士に」

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■ニュースTOPICS 

■人権協会活動ファイル

■資料

人権と生活51号 目次

‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 51号 (2020年11月11日発売)∴‥∵‥∴∴‥∵‥

◆主張:歴史を捻じ曲げようとする動きに抗して

【特集】公論化する歴史修正主義

◇日韓における『反日種族主義』現象……加藤 圭木

◇「つくる会」系教科書の“終焉”と残された課題……鈴木 敏夫

◇日本軍性奴隷制犯罪の責任を問うための一視点―解放直後の朝鮮女性運動史から考える……李玲実

◇関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式をめぐる昨今の動きについて―「追悼辞送付中止」と「誓約書提出要請」問題を中心に……金哲秀

■インタビュー

◇康成銀さん/歴史を学び、記憶することの意味―脱植民地主義・脱冷戦に向けた歴史研究と在日朝鮮人

■民族教育

◇ここまで巻き返した朝鮮幼稚園「幼保無償化」適用問題―2020年度に行われる「調査事業」と来年度からの「支援策」への取り組み……宋恵淑

◇幼保無償化から外国人学校幼稚園を除外する日本政府に「あかんやろ」の声を!……田中 ひろみ

◇コロナ禍における朝鮮学校差別……金東鶴

■寄稿

◇フジ住宅ヘイトハラスメント裁判・第一審判決の報告……安原 邦博

■連載

◇差別とヘイトのない社会をめざして(11)/人種差別撤廃条約第四条の解釈(2)―パトリック・ソンベリーの注釈……前田 朗

■会員の事務所訪問

◇西天満法律事務所 金京美さん(弁護士)/知識と経験を生かして、同胞の権利の向上のために尽力していきたい

■最近の同胞相談事情

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■ニュースTOPICS 

■人権協会活動ファイル

■資料

『人権と生活』50号・目次

‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 50号 (2020年6月10日発売)∴‥∵‥∴∴‥∵‥

◆主張:どのような状況にあっても、あらゆる人の権利が保障される社会を

【特集】日本の入管行政と在日外国人の人権

◇急増する外国人労働者とその人権―ローテーション政策の限界……旗手 明

◇2012年からの「新たな在留管理制度」によって発生した諸問題の解決に向けて―16歳時の更新問題、更新通知問題、身分関係証明問題を中心に……金東鶴

◇長期収容を通じて入管がくわだててきたこと……永井 伸和

◇日本の留学生政策の歴史的背景とそのビジネス化……瀬戸 徐 映里奈

◇在留特別許可の厳格化―「みそぎ帰国」を求められたフィリピン人の事例から……金銘愛

■民族教育

◇外国人学校幼稚園の子どもたちを仲間外れにしないで!―「幼保無償化」からの各種学校幼児教育施設除外問題……宋恵淑

◇外国人の子どもの教育にかかわる今日的課題……小島 祥美

■連載

◇差別とヘイトのない社会をめざして(10)/人種差別撤廃条約第四条の解釈(1)―パトリック・ソンベリーの注釈……前田 朗

■会員の事務所訪問

◇黄公認会計士・税理士事務所 黄聖銖さん/若い世代へつないでいくケジュボンに

■最近の同胞相談事情

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■ニュースTOPICS 【レポート】さいたま市が備蓄マスク配布対象から朝鮮幼稚園を除外(3月6日)

■人権協会活動ファイル

■資料

『人権と生活』49号・目次

‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 49号 (2019年11月18日発売)∴‥∵‥∴∴‥∵‥

◆主張:反ヘイトの取り組みのさらなる深化を

【特集】拡がる反ヘイトの取り組み

◇各地域における人種差別禁止条例制定の必要性と課題ー東京弁護士会「人種差別撤廃モデル条例案」の活用ー……金哲敏

◇十条駅前のヘイトデモ禁止の仮処分について……李世燦

◇折尾駅前民族差別演説事件に関する取り組み……朴憲浩

◇京都における反ヘイトの取り組み……玄政和

◇川崎の差別禁止条例の意義と制定までの過程……宋惠燕

■民族教育

◇兵庫県による朝鮮学校に対する補助金減額の不当性……李洪章

■寄稿

◇朝連強制解散、財産接収に対する在日朝鮮人の取消・反対運動(下)……金誠明

◇「徴用工問題は解決済み」ではない―植民地支配責任に向き合わない日本……高井弘之

◇カナダでの「歴史戦」をふり返って……乗松聡子

◇在日朝鮮人と「精神障害」をめぐる問題―朝鮮近現代史・在日朝鮮人史の視点から……鄭永寿

■連載

◇差別とヘイトのない社会をめざして(9)/人種差別撤廃条約とマイノリティ―ジョシュア・カステリーノ論文の紹介……前田朗

■会員の事務所訪問

◇許壮栄さん(司法書士)/在日朝鮮人である自分だからこそできる業務がある

■最近の同胞相談事情

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■ニュースTOPICS 

■人権協会活動ファイル

■資料

『人権と生活』47号・目次

‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 47号 (2018年12月)∴‥∵‥∴∴‥∵‥

■主張:激動する情勢、来るべき未来を見据えた運動を

【特集】国際政治の中の在日朝鮮人

◇在日朝鮮人人権問題への視座…金昌宣

◇朝鮮学校生「お土産押収」事件の何が問題か…李春熙

◇祐天寺の朝鮮人遺骨について…梁大隆

◇1948年朝鮮人学校閉鎖令の史料批判…鄭祐宗

 

■インタビュー

◇柳学洙さん/朝鮮民主主義人民共和国の経済、「今」と「これから」をどうみるか

 

■寄稿

◇国連人種差別撤廃委員会、新たな勧告を日本政府に突きつける…朴金優綺

◇結論ありきの不当な大阪高裁判決…金英哲

◇在日無年金当事者 李幸宏さん人種差別撤廃条約の日本審査参加と委員会に訴えるため、スイスジュネーブに行く…鄭明愛

 

■連載

◇差別とヘイトのない社会をめざして(7)/国連人種差別撤廃委員会、日本に4度目の勧告…前田朗

 

■会員エッセイ 

◇国連人種差別撤廃委員会の日本審査に参加して…金順雅

 

■会員の事務所訪問

◇行政書士申法務事務所/頼られ、感謝される専門家に…申鉉秀

 

■最近の同胞相談事情

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■ニュースTOPICS 

■人権協会活動ファイル

■資料

『人権と生活』46号 巻頭言

だれもが自分自身を解放できる同胞社会づくりを目指して

朝鮮半島をめぐる冷戦の終結に向け、歴史的な平和への胎動が起きている。

4月27日、全世界が注目する中、祖国分断の象徴である板門店で北南首脳会談が開催された。両国の首脳が手を取り合い、ともに軍事境界線を乗り越える姿は、軍事的対立、民族の反目、そして家族の離散を経験してきたすべての朝鮮同胞に深い感動を与えた。在日同胞高齢者のための通所介護事業所「いこいのマダン」(愛知県名古屋市)では、1世のハルモニ、ハラボジらがテレビ中継を見守り、両首脳が握手をした瞬間、「今日まで生きてきて本当によかった」と涙を流したという。板門店宣言にあるように、「途切れた民族の血脈を結び、共同繁栄と自主統一の未来を早めていく」ことは、「これ以上先送りできない時代の切迫した要求である」。1世らの思いを私たちはしっかりと受け止め、民族の悲願である統一を現実のものにしていかなければならないだろう。

朝鮮半島のダイナミックな動きに追随するかのように、「拉致問題」の解決を御旗に「制裁」強化を声高に叫び続けてきた日本政府も、ようやく「対話」を口にするようになった。しかし、日本政府が真に「対話」を望むならば、その前に正すべきことがあるだろう。同じ4月27日、「制裁」一辺倒の国の意向を汲むかのように、朝鮮高校「無償化」裁判で名古屋地裁は「請求棄却」という不当判決を出した。広島、東京に続き、子どもたちの朝鮮学校で学ぶ民族教育の権利を踏みにじった。同胞高齢者や障がい者の無年金問題も然り、一切の救済措置もなく年金制度から除外されたままである。本来であれば、率先して差別を解消すべき国が自ら制度的に差別を作り出している。そしてこのような土壌で、民族差別、蔑視、誹謗中傷はますます拡散し続けている。

過去の侵略と植民地支配への無反省、日本政府が「対話」を実りあるものにしたいならば、ただちにこのような態度をあらため、国を挙げての在日朝鮮人への人権侵害をやめるべきである。

私たち在日朝鮮人は、植民地支配期から現在にいたるまで引き続くこの植民地主義に抗い、日本当局の露骨な差別と抑圧をはねのけ、自らの権利を守るため、老若男女を問わず一丸となって団結してきた。それは民族の尊厳と生存権を賭けた闘いであったし、先述した未解決の権利獲得のため、これからも代を継いで運動を続けなければならない。

それと同時に、私たちはこれまでの闘いの中で見落としてきた、あるいは置き去りにしてきた問題にも取り組む必要があるだろう。すなわち、在日朝鮮人の権利獲得という大きな課題のもとで看過されがちであった、高齢者、病や障がいのある人、子どもや女性、セクシャルマイノリティなど、同胞社会の中でもとりわけ弱い立場にある人たちへの差別である。かのじょ・かれらは、在日朝鮮人という集団に対する民族差別に加えて、その集団である同胞社会の内外においても、それぞれの差別に遭遇している。そのため、例えば、障がいがあるかどうか、男性であるか女性であるかによって、同じ同胞社会の構成員であっても複合的な差別を経験し、より大きな不利益を受けている。私たちはそのような事実を直視し、かのじょ・かれらが直面する問題を運動に反映させてきただろうか? 在日朝鮮人をとりまく状況が過酷だからといって、私たちが帰属する同胞社会内部の抑圧的な構造や差別には鈍感ではなかっただろうか?

私たちの運動は、在日朝鮮人の権利を守る運動であり、同胞一人ひとりの尊厳と人権を守る闘いである。これまで抑圧の対象であった私たちが、決して抑圧や差別に加担する側に立ってはいけない。世代交代が進み、同胞社会の構成員も多様化する中、私たちはだれもが安全で、安心して、自由に自分自身を解放できる同胞社会づくりを目指さなければならない。

『人権と生活』46号・目次

‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 46号 (2018年6月)5月30日販売∴‥∵‥∴∴‥∵‥

■主張:だれもが自分自身を解放できる同胞社会づくりを目指して

【特集】在日朝鮮人と複合差別

◇ハンセン病と在日朝鮮人―解放後における新たな闘い……金貴粉

◇在日無年金差別と在日障害者と出会って……鄭明愛

◇[座談]京都ハッキョの保健室運営と「セクシュアルマイノリティ」をテーマにした保健授業について……沈香福・宍戸友紀

◇在日同胞社会におけるジェンダーフリーについて考えてみる―「在日同胞のジェンダー意識に関するアンケート」結果報告書を参考に……康仙華

■インタビュー

◇角田義一弁護士/群馬朝鮮人追悼碑訴訟をめぐって

■寄稿

◇朝鮮学校「無償化」除外と在日朝鮮人の子どもたちの教育権……朴金優綺

◇山口朝鮮学校の保健室運営について……松岡節子

■連載

◇差別とヘイトのない社会をめざして(6)/差別とテロを容認する日本政府とメディア ―「ニュース女子」問題、朝鮮総連本部銃撃テロ事件……前田朗

■会員エッセイ

◇平昌オリンピック総聯応援団に参加して……李全美

■会員の事務所訪問

◇ハナ国際法律事務所 朴憲浩さん/同胞弁護士として、腹を括って闘っていきたい

■最近の同胞相談事情

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■ニュースTOPICS

■人権協会活動ファイル

■資料

『人権と生活』45号 巻頭言

「忖度」と「ダブルスタンダード」がまかり通る中で

森友・加計問題で一躍脚光を浴び、今年の流行語大賞の最有力候補の一つとなるであろう「忖度」。

さてこの「忖度」だが、はたして官僚の専売特許と言えるだろうか? かつて「KY(空気を読めない)」という言葉が流行ったこの日本社会には、あらゆるところにこの「忖度」が蔓延しているのではないか。森友・加計問題で官僚の「忖度」を追及したマスメディアも例外ではない。10年ほど前、某全国紙の記者の間で次のような話が交わされたという。「なぜ北朝鮮が飛ばしたミサイルの場合は他国の時のように『発射実験』とはならず『発射』となるのか?」「でも他紙も北朝鮮の場合は『発射実験』とは書かない」「うちだけ『発射実験』と書いてしまうのは…」。悩んだ末、その会話の翌日の一面記事は「…ミサイル7発」。「発射」とも「発射実験」とも書くのを避けた表現にしたらしいが、結局その後、他紙同様「実験」といった言葉が続かない「発射」という表現に落ち着いてしまった。

こういったあり様はインターネットで検索すればすぐ確認できる。

米国や韓国に対しては「米がICBM発射実験…攻撃能力示し北に圧力」(読売新聞2017年4月27日)、「韓国ミサイル、北全域を射程に 射程800キロ試射に『成功』」(産経BIZ 2017年4月6日)と「実験」「試射」といった言葉が用いられる。一方で朝鮮民主主義人民共和国に対しては「北朝鮮ミサイル 4発同時発射 政府、新迎撃体制検討」(毎日新聞2017年3月7日)「北朝鮮、ミサイル発射失敗か 韓国軍、種類など分析中」(朝日新聞2017年4月29日)、「北ミサイル発射を受け、首相官邸でNSC開催」(読売新聞2017年4月29日)といったように、どの新聞社もまるで示し合わせているかのように「実験」等の言葉を用いない。これらの報道において仮に「実験」といった言葉が付いていれば、避難訓練や電車を止めるような、実効性に疑問符が付く過剰としか言いようのない対応を取ることへの理解は得られにくいであろうし、そもそも市民の反発を恐れてそんなことは行わないかもしれない。

弾道ミサイルや核のみならず人を殺傷する兵器は、それが一度に数十万人であれ、1000人であれ100人であれ、たとえ1人であっても無いに越したことはない。しかし、核兵器禁止条約にも背を向ける核保有国などが他国の核保有を批判する資格、根拠はどこから生まれるのか? 7000もの核弾頭を持つ国が、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定にするためのテーブルに着くことすら拒否し続け、核先制使用のオプションまで維持し続けるとしている中、それへの脅威を感じ、ライオンを前にしたハリネズミのように身構えることがそんなに不自然なことであろうか? 少なくとも一方的に責められるようなことであろうか? そのことをマスコミはどれほど報じてきたのか? 脅威を煽り、自らの支持率の回復、また改憲をはじめとした戦争が出来る国づくりを進める政権に、結局はマスコミも一役買っているとは言えまいか?

朝鮮学校に対する「高校無償化」からの排除問題や自治体による補助金停止問題においても、この「ダブルスタンダード」がまかり通っている。アメリカンスクールで広島・長崎への原爆投下をどう教えているかなどは不問にされる一方、朝鮮学校については教育内容に対して干渉し、やれ「反日」だ、何だと差別の「大義名分」にしようとしたりまでする。また実際に経理上の不祥事を起こした日本の私立学校はその後も「高校無償化」の適用対象からは外されない一方で(生徒に罪はないので当然だが)、朝鮮学校は、不確かな情報をもって「疑わしい」として適用除外とされる。

「高校無償化」裁判では、不当にも広島地裁と東京地裁が、まさに行政への「忖度」としか言いようのない判決を出した。文科省の前事務次官が「制度の門を開き申請を受け付け、審査もしていたのに、政治判断でいきなり門を閉じた」「極めて理不尽」(神奈川新聞2017年9月13日)とまで言っているほど事実は明白であるにもかかわらず、政府が後付けで詭弁を尽くして描いたストーリーをそのまま認めてしまったのだ。一方で、大阪地裁判決はこれとは真逆の判断を示し、原告側の全面勝訴となった。事実を事実通り認定し、良心を以て法と正義に基づく判断を出したのである。

これらの裁判は、全て控訴審で再び争われる。来年には地裁判決が出ることになるであろう愛知と福岡の裁判、また、今年初めに不当判決が出た大阪府と大阪市を訴えた補助金停止裁判も含め、これからも裁判闘争が続く。

「忖度」と「ダブルスタンダード」によって子どもたちの学ぶ権利まで翻弄される状況に終止符を打つべく、より多くの人々と手を携えながら裁判闘争を闘い抜いていきたい。

 

 

『人権と生活』45号・目次

∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴人権と生活 45号 (2017年12月)11月6日発売∴‥∵‥∴∴‥∵‥∴

■主張:「忖度」と「ダブルスタンダード」がまかり通る中で

【特集】「無償化」裁判の勝利に向けて

◇「無償化」訴訟広島判決について……平田かおり

◇力をあわせて勝ち取った大阪地裁判決……金英哲

◇東京朝鮮高校生「高校無償化」国賠訴訟の地裁判決について……李春熙

◇全国行脚でめぐった全国の朝鮮学校での出会い……長谷川和男

◇すべての子どもたちには学ぶ権利がある!―韓国で拡がる朝鮮学校支援運動……孫美姫

■インタビュー

◇田中宏さんに聞く/「無償化」裁判各地判決を受けて

■寄稿

◇「制裁の10年」がもたらしたもの―朝鮮人道支援の現場から考える……米津篤八

◇個人的体験から考える対朝鮮「制裁」……康成銀

■連載

◇差別とヘイトのない社会をめざして(5)/人種差別撤廃条約・日本政府報告書を読む……前田朗

■会員エッセイ

■会員の事務所訪問

◇武蔵国分寺法律事務所 全東周さん/多摩地域を支える身近な弁護士に

■寄稿

◇NPO法人 同胞法律・生活センター20年―同胞の安心、明日を後押し……殷宗基

■最近の同胞相談事情

■書籍紹介―人権協会事務所の本棚から

■人権協会活動ファイル

■資料

在日朝鮮人の人権を侵害する制裁措置の廃止を求める意見書