『人権と生活』40号 巻頭言

日本の歴史歪曲を許してはならない

日本の植民地支配からの解放70周年を迎えたいま、日本では歴史修正の嵐が吹き荒れている。
昨年、朝日新聞の吉田清治証言をもとにした日本軍「慰安婦」記事の取消しと謝罪を契機に、日本軍「慰安婦」=日本軍性奴隷の歴史そのものを塗り消そうとする動きは、政府とマスコミが一体となってすさまじい勢いで展開されている。
安倍首相は、朝日新聞の記事取消しをうけ、「国ぐるみで性奴隷にしたとの、いわれなき中傷が世界で行われている。誤報によって、そういう状況が生み出された」(2014年10月3日衆院予算委員会)と述べたが、数多の証言、資料で証明されている歴史的事実を、吉田証言の否定のみをもって「いわれなき中傷」と位置づけ、「政府としては客観的な事実に基づく、正しい歴史認識が形成され、正当な評価を受けるよう戦略的な対外発信を強化する」と強調した。文部科学省による中学校教科書検定(2015年4月結果公表)では、関東大震災時の朝鮮人虐殺や南京大虐殺の記述において加害の事実を相対化させる表現に記述を修正し、唯一日本軍「慰安婦」問題について記述した「学び舎」の教科書に対してはその記述を大幅に削除して「日本軍や官憲による強制連行を直接示す資料は発見されていない」という政府見解を追加するなど、政府が率先して教育の現場で露骨な歴史修正を展開している。
また、日本各地では、日本の朝鮮人支配の歴史をいまに伝える史跡から侵略や強制連行の事実を消そうとする動きが広がっている。2004年、群馬県立公園内に建てられた、朝鮮人強制連行犠牲者のための「記憶 反省 そして友好」の追悼碑は、10年の設置期間の更新を県が許可せず、さらには撤去まで求め、それに反対する市民たちは行政訴訟を提起した。その他、北海道猿払村(朝鮮人徴用追悼碑設置中止)、長野県松代町(松代大本営説明板内容修正)、奈良県天理市(柳本飛行場跡強制連行説明版撤去)、大阪市(ピース大阪展示から「侵略」の表現消去)大阪府茨木市(朝鮮人強制連行銘板撤去要請)、福岡県飯塚市(飯塚霊園朝鮮人追悼碑撤去・碑文改訂要請)など、枚挙にいとまがない。
こうした動きは、第二次安倍政権以降特に顕著であるが、これらの現象を安倍首相個人の保守的政治思想の問題に還元してはならない。戦後冷戦と朝鮮半島分断を奇貨として過去清算を積極的にサボタージュし続け、その結果、克服されることなく温存されてきた日本の植民地主義が、いま、からを破って表出してきたといえる。歴史修正と改憲、軍事大国化への道筋は、70年をかけて着々と地ならしされてきたのである。
街頭を跋扈する「ヘイト・スピーチ」に対する関心は高まり、一定の批判的雰囲気は醸成されつつあるが、その一方、このような日本の歴史修正の動きに対しては、メディアも真正面から取り上げることはほとんどなく、その批判的論調は弱まる。また、朝鮮民主主義人民共和国に対する「制裁」の文脈においては、むしろ政府とメディアが一体となり、率先して「反朝鮮感情」を扇動してきた。公権力自ら意図的に作り出してきたこの「国民感情」をたてにして、在日朝鮮人、とりわけ朝鮮総聯や朝鮮学校への差別・弾圧政策を展開してきたのであり、こうした「上からの」排外主義こそが、草の根の排外主義が出現する土壌を形成してきたといえる。したがって、この総体としての差別・排外主義の歴史的・社会的構造に対する批判的視座なくして、現代の問題を根本的に解決していくことは不可能だろう。
最近では、在特会などの排外主義者のみならず政治家が、在日朝鮮人の諸権利、なかでも「特別永住資格」を標的として議論の俎上に載せようとしているが、これは在日朝鮮人の歴史性を消していく動きと一体になったものであるといえる。
日本の歴史修正の動きに屈することなく、存在をかけて、同胞と共に声をあげていきたい。