Q&A
ご存じですか?
朝鮮学校や中華学校への
税制上の差別
在日本朝鮮人人権協会・民族教育権プロジェクトチーム
このリーフレットに関するお問い合わせは下記まで
●TEL 03-3837-2820 ●E-MAIL jinken94@yahoo.co.jp
さらに詳しく知りたい方はWEBサイト「民族教育の権利事典」
http://www.k-jinken.ne.jp/minzokukyoiku/index.htm をご覧ください。
同サイトでは人権救済申立書(Q13)の全文も読めます。
Q.1 日本にはどれくらいの朝鮮学校があるのですか?
A 日本全国70カ所以上に幼稚園から大学校までの朝鮮学校があります。
なお、中華学校は横浜や東京、神戸など5カ所にあります。
Q.2 教育内容は?
A 朝鮮学校のカリキュラムは、民族的主体性を保ちながらも、日本での生活に必要な知識と能力を育てるものとなっているのが特色です。下記のように普通教育を行う一般の学校と比較してもなんら遜色ないものとなっています。中華学校も同様です。
朝鮮学校と日本学校初(小)中級部時間配当の比較(%)(2005年現在)
科目 |
朝鮮学校 |
日本学校 |
± |
朝鮮語 |
21.0 |
− |
+21.0 |
日本語 |
12.8 |
20.8 |
−8.0 |
英語 |
4.3 |
3.8 |
+0.5 |
社会、歴史、地理 |
8.2 |
7.7 |
+0.5 |
算数、数学 |
14.6 |
14.3 |
+0.3 |
理科、生活 |
8.2 |
10.2 |
−2.0 |
音楽、美術 |
10.7 |
11.4 |
−0.7 |
体育、家庭、情報 |
7.5 |
13.3 |
−5.8 |
その他 |
12.8 |
18.6 |
−5.8 |
※ @〔±〕は日本学校に比べた朝鮮学校の数値
Aその他は朝鮮学校:土曜日(4時間、26週)に行う特別活動、課外学習など
日本学校:道徳、特別活動、選択教科、総合的な学習
B初中級部の総授業時間数は朝鮮学校(9812時数)が完全週5日制の日本学校(8307時数)より1505時数多い
Q.3 処遇面では一般の日本の学校と同じではないのですか?
A インターナショナルスクールを含めてほとんどの外国人学校は日本の学校教育法上、その第1条に定める「学校」(いわゆる「一条校」)ではなく、第83条に定める「各種学校」として扱われています。この各種学校というのは、一般的には単科で技能的な教育を施す施設で例えば生け花教室や自動車教習所といったものがこれに該当します。その為、行政からの教育助成金が一般の私立学校とくらべても著しく少ないなど、様々なハンデを学校関係者は負わされているのが現状です。
日本の一般の学校と同等の教育を行う外国人学校がこれらと同様に「各種学校」として扱われることに皆さん、違和感を覚えないでしょうか?
Q.4 「一条校」にはなれないのですか?
A 現行の学校教育法では「一条校」は文部科学省の検定教科書の使用、また「日本人を育成する」ことを明記する学習指導要領に従うことが義務づけられています。これは朝鮮語で授業することを不可能にするとともに、民族の文化や歴史を十分に教え、朝鮮人としてのアイデンティティを育むことを困難にします。朝鮮学校だけでなく圧倒的多数の外国人学校がこのような現行制度のもとで「一条校」になることを望んでいません。日本人が日本人の子どもに日本の言葉や歴史を教えるように、朝鮮人が自民族の言葉や歴史を教えてしかるべきであり、そういった独自の教育を保障した上で、正規の学校として一条校と同等の処遇を保障することを求めているのです。
Q.5 学校の運営は大変と聞いていますが?
A はい。助成金が少ないため、授業料等、保護者に重い負担がかかっています。それでもお金持ちしか通わせることができない学校にしてはいけないということで極力、授業料を抑えています。その結果、朝鮮学校は学校運営費の半分以上を寄附に依存しているのが現状です。教職員たちも一般の学校より低い給料体系で頑張っていますが、運営はどこも厳しい状態にあります。
Q.6 学校のような公益性の高い施設に寄附した場合、納税面での考慮があると聞いたのですが?
A はい、一般の学校にはその公益性を考慮し、寄附が集まりやすくするために税制上の優遇措置がなされます。
法人税なら寄附金の全て又は一部を損金算入の対象にしたり、所得税なら寄附金額のほとんどを控除対象とするなどして納税額を下げられるようにしているのです。一般の寄附については「特定公益増進法人」という制度が、また校舎建設時などは「指定寄附金」制度が適用されるのですが詳しくは裏面をご覧ください。
Q.7 外国人学校の場合はどうなんですか?
A 特定公益増進法人、指定寄附金のどちらもインターナショナルスクールについては基本的に適用が認められています。指定寄附金についてはインターナショナルスクール以外の外国人学校の中でも、東京韓国学園や東京独逸学園などは適用を受けています。
Q.8 朝鮮学校や中華学校は税制上の優遇措置が受けられないのですか?
A 特定公益増進法人についての基準となっている「外交」、「公用」、「家族滞在」といった在留資格を持てる子どもたちは外交官や商社マンの子どもたちに限られます。欧米系の学校評価機関の認定も欧米系の言語の習得等を基準にしたものです。結果として、主として永住者に対し教育を行っており、欧米系評価機関の認定を受けていない朝鮮学校や中華学校は、特定公益増進法人制度から排除されています。
したがって、同じ「初等教育又は中等教育を外国語により施す」各種学校であってもインターナショナルスクールは対象となり、朝鮮学校や中華学校は対象とならないということになります。指定寄附金についても同様に朝鮮学校や中華学校は対象外となっています。これっておかしくないですか?
なお、日本私立学校振興・共済事業団の「受配者指定寄附金制度」については、一条校とそれに準ずる一部の専修学校だけを対象とするものであり、各種学校は完全に対象外となっています。よって、各種学校である朝鮮学校や中華学校はこの制度を利用することもできません。
Q. 9 朝鮮学校や中華学校としてかつて制度の適用申請をしたことはあったのでしょうか?
A あります。朝鮮学校では、下関朝鮮初中級学校が1996年、校舎建替に際し、指定寄附金制度の申請をしようとしましたが、文部省(当時)から、「健全な日本人を育てるという立場からすれば、朝鮮人同胞を育てるのが目的の朝鮮学校は日本の公益に資するとは思えない。政府として優遇することには否定的にならざるを得ない」(文科省担当者/97-8-7朝日新聞)という「理由」で撥ねつけられています。また中華学校では、横浜山手中華学校が近時の定員増加にともなう校地移転計画を立て、指定寄附金制度の申請をしようと神奈川県を通じて、文部科学省に打診を重ねていますが、未だ「寄附金の免税優遇措置は外資を国内に取り入れるための優遇措置なので、短期滞在者以外の子を受け入れている学校は対象にならない」(文科省担当者/04-5-25朝日新聞)という「理由」を盾に、指定寄附金制度の適用を拒んでいます。
Q.10 同じ外国人学校なのになぜインターナショナルスクールは良くて朝鮮学校や中華学校は駄目なのですか?
A 日本政府は、インターナショナルスクールについては「保護者の用務の都合により我が国に短期間滞在する外国人児童・生徒を多く受け入れている各種学校が、対内直接投資を促進し、海外から優秀な人材を呼び込む上で重要な役割を果たしている」(大島令子衆議院議員〔当時〕が提出した「外国人学校に関する質問」に対する答弁書2003年4月11日)のでその公益性に鑑みて、税制上の優遇措置を施すのだとしています。
しかし、「日本での永住権を持つ長期滞在の子供が多く、国にとって公益性が高いとは認められないため、インターナショナルスクールと区別している」(文部省国際教育室/1997年8月12日毎日新聞)という「理由」により、朝鮮学校や中華学校はこれら税制上の優遇措置から完全に排除されているのが現状です。外国の商社マンたちは投資促進に繋がるので公益、日本に居続ける外国人は公益ではないというのです。
Q.11 公益性の基準が外資導入にプラスかどうかだなんて話が通じるのでしょうか?
A この「理由」は税制問題に関してのみ出てきたものではありません。
政府・文科省は2003年3月、特定公益増進法人において外国人学校の内、インターナショナルスクールにのみその適用を認める改定が行われる少し前に大学受験資格についても同様の基準でインターナショナルスクールのみに受験資格を認めようとしました。しかし、朝鮮学校はじめ多くの外国人学校関係者は勿論、日本の良識ある市民たちによる批判の声の急激な高まりによって、文科省はその方針を撤回し、結果として朝鮮学校等にもそれまで認められてこなかった国立大学の門戸が開かれるに至りました。
日本政府の考えは日本の市民社会からも一度は完全にNO!を突きつけられているのです。
Q.12 国際的にはこういった問題をどう見ているのでしょうか?
A 1990年代以降、社会権規約委員会や子どもの権利委員会といった国連に設置された人権関連の条約委員会が日本政府に対し、助成金や進学における差別が条約に違反するとして立て続けに是正勧告をしています。
さらに2006年1月に国連に提出された『人種主義・人種差別・外国人嫌悪・関連する不寛容の現代的諸形態に関する特別報告者ドゥドゥ・ディエンによる日本への公式訪問報告書』は、「朝鮮学校には日本政府からの財政的援助がないため、親たちに非常に重い負担がかかっている」、「親が朝鮮学校に寄附をしても免税措置の対象とされない」とし、日本政府に対し、「日本政府は、朝鮮学校と他の外国人学校との間にある、人種差別とみなすことのできる処遇の違いを根絶するために必要なあらゆる手段を講じるべきである。特に朝鮮学校は、他の外国人学校と同等に、また日本に朝鮮人が存在することの特別な歴史的状況を考慮すればなおさら、助成金その他の財政的援助を受け取れるようにされるべきであり、また朝鮮学校の卒業証明書が大学入学試験受験資格として認められるべきである」と勧告しました。
税制上の優遇措置問題をはじめとした朝鮮学校に対する差別的処遇の是正を求める声は国際的にも高まりを見せているのです。
Q.13 朝鮮学校や中華学校が人権救済の申立を行ったって本当ですか?
A そうです。2006年3月13日、東京朝鮮学園、神奈川朝鮮学園そして横浜山手中華学園及び各校の保護者会が連名で日本弁護士連合会(日弁連)に対し、税制上の差別是正をその主な内容とした人権救済の申立を行いました。外国人学校が手を携え、共同で行った初めての人権救済申立です。日弁連による日本政府への差別是正勧告が、そして一日も早い差別是正が期待されます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
日弁連の人権救済とは?
日弁連は、人権擁護委員会を置いて、「基本的人権を擁護するため、人権侵犯について調査をなし、人権を侵犯された者に対し、救護その他適切な措置をとり、必要に応じ本会を通じ、又は、本会の承認を経て官公署その他に対し、警告を発し、処分若しくは処分の取消を求め、又は問責の手段を講ずる」等の人権救済活動を行っています。このような日弁連の人権救済は、弁護士会が民間団体であるため、法的拘束力を有しませんが、日弁連の高い知名度と人権擁護に対する実績からくる権威のため、社会的・国際的に事実上の強い影響力を有しています。実際に、1992年10月に日弁連が出した高体連(全国高校体育連盟)主催大会への各種学校参加拒否が人権侵害だとする是正勧告は問題解決の重要な契機に(1994年3月に高体連が大会参加を承認)、また1998年2月に出された朝鮮学校の資格・助成問題に関する勧告は、同年6月の国連・子どもの権利委員会勧告に繋がる等、大学受験資格差別等の是正に大きな力となりました。
<詳しく知りたい人のための解説・資料>
その1 助成金額における格差
朝鮮学校等の外国人学校には多くの地方自治体から助成がなされているものの国庫補助が全くないこともあり、日本の公私立学校とは全体の助成金額において依然として大きな格差がある。
△朝鮮学校には?
朝鮮人学校には現在、朝鮮学校生徒1人当たりの助成金の年額は都道府県からのものと市区町村からのものを含めて8万〜9万円 ※幼・初・中・高をまとめての全国平均
△日本の公立学校には?
1人当たりの公財政支出教育費
(国と地方公共団体の負担額の合計額〔2003年度〕「データからみる日本の教育2006年」文部科学省より)
幼 703,346円 小 908,800円 中 1,026,702円 高 1,119,875円
△日本の私立学校には?
私立学校経常費補助
(1人当たりの全国平均〔2005年度〕「東京都の私学行政2007年」東京都生活文化局私学部より)
幼 152,575円 小 242,645円 中 269,043円 高 308,278円
※ 朝鮮学校と、日本の公立学校についての金額は、経常費補助、施設整備、保護者への補助など様々な助成制度をひっくるめて計算した金額である。
一方、日本の私立学校についての金額はあくまで学校に対する経常費補助だけの金額である。
日本の私立学校には経常費補助以外にも多目的室、図書室の整備やバリアフリー化整備、またカウンセリング機能の強化のための保健室の整備といったことに対する補助制度、そして保護者の負担軽減のための補助制度などが備わっている。
その2 一般の寄附が損金・控除の扱いになるか ―― 「特定公益増進法人」
財務省は、2003年3月31日、所得税法施行規則及び法人税施行規則を改正し、「初等教育又は中等教育を外国語により施す各種学校」を特定公益増進法人制度の対象に追加し、詳細は文科大臣が財務大臣と協議して定める基準に該当するものとした。そしてこれを受けた形で同日出された文部科学省告示第59号は、特定公益増進法人制度の対象を、「外交」、「公用」、「家族滞在」などの在留資格を持つ子どもに教育を施すことを目的とし、かつ、欧米系の学校評価機関の認定を受けた各種学校とするとした。
この結果、各種学校である外国人学校の中でも、インターナショナルスクールのみ、その多くが一般の私立学校と同様に特定公益増進法人の認定を受け、下記のような税制
上の優遇措置を受けることが可能となった。
|
公立学校 |
私立学校&インターナショナルスクール(※1) |
各種学校(インターナショナルスクール(※1)を除く |
法 人 |
全額損金対象 |
一般の寄附金とは別枠で一定の限度額の範囲内で損金算入(※2) |
一般の寄附金の上限額(※3)までのみ認められる。学校とし ての優遇はなし |
個 人 |
寄附金額−5千円(※4) |
寄附金額−5千円(※4) |
一切なし |
※1:各種学校としての認可を受けており、「外交」もしくは「公用」、「家族滞在」の在留資格をもって在留する子どもに対して教育を施すことを目的とし、かつ学校評価機関である国際バカロレア、ウエスタン・アソシエーション・オブ・スクールズ・アンド・カレッジズ(WASC・西部地区基準協会・米)、アソシエーション・オブ・クリスチャン・スクールズ・インターナショナル(ACSI・国際クリスチャンスクール協会・米)、ヨーロピアン・カウンセル・オブ・インターナショナルスクール・スクールズ(ECIS・インターナショナル欧州協議会・英)のいずれかの認定を受けているものでなくてはならない。
※2:一般の寄附金の上限額である。
(資本金×当期の月数/12×0.0025+所得金額×0.025)×1/2
とは別に、これと同じの金額を損金算入できる。一般の寄附金が上限に満たない場合はこの枠も使える。したがって一般の寄附金が一切ない場合は、上記の式による金額の2倍を損金算入できることになる。
※3:(資本金×当期の月数/12×0.0025+所得金額×0.025)×1/2
※4:寄附金額が所得金額の30%を超える場合は(所得金額の30%−5千円)
注)所得税法が改正され、2006年4月1日より公立や一般の私立及びインターナショナルスクールの寄附金額への個人の寄附の控除算定時において、それまで寄付金額の1万円以下については控除対象にならないとしていたのが、5千円以下は控除対象にならないということになりました。
また2007年4月1日からは※4のところの30%が40%に引き上げられた。
その3 「指定寄附金」
指定寄附金制度とは公益を目的とする事業を行う法人等に対する寄附金のうち、@広く一般に募集されること、A教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に寄与するための支出で緊急を要するものに充てられることが確実であることの2要件を満たすものと認められるものにつき、募金団体の申請により財務大臣が指定した寄附金のことで、1965年4月30日大蔵省告示第154号に定められている。法人なら損金を「全額算入」、個人なら 「寄附金額−5千円但し※4」が控除となる制度で、法人の損金算入における優遇が「特定公益増進法人」制度よりさらに手厚い。
この制度は一般の学校は勿論、各種学校であっても「敷地、校舎その他附属設備」に充てるために当該学校法人に対してされる寄附金については、その対象となっており、インターナショナルスクール等は認められている。しかし、朝鮮学校は阪神・淡路大震災時の特例措置を除き、認められていない。
(認められた実例)
学校名 |
告示日 |
告示番号 |
期間 |
募金の目的 |
アメリカン・スクール・イン・ ジャパン・ファウンデイション |
84.10.31 |
133 |
一年間 |
中学校校舎及び附属設備建設並びに校具取得の費用 |
東京韓国学園 |
89.12.18 |
212 |
一年間 |
校舎建設及び附属設備並びに校具取得の費用 |
東京独逸学園 |
90.11.29 |
198 |
一年間 |
校舎建設及び附属設備並びに校地及び校具取得の費用 |
その4 日本私立学校振興・共済事業団の「受配者指定寄附金」
−「受配者指定寄附金」
日本私立学校振興・共済事業団が、私立学校の教育と研究の振興のために企業、個人等から寄附金を受け入れ、これを寄附者が指定した学校法人に配付する制度で、所得税、法人税ともに上記の指定寄附金と同じ優遇措置が受けられる。しかも一般の寄附金にも適用されるので法人の場合、この事業団を通して寄附するメリットは大きい。
同告示第2項の2
■融資制度からも排除
事業団は、「学校法人又は準学校法人に対し、その設置する私立学校又は職業に必要な技術の教授を目的とする私立の専修学校若しくは各種学校で政令で定めるものの施設の整備その他経営のため必要な資金を貸し付け、及び私立学校教育に関連してその振興上必要と認められる事業を行う者に対し、その事業について必要な資金を貸し付けること。」(日本私立学校振興・共済事業団法第23条第1項第2号)を業務の一つとしているが、日本私立学校振興・共済事業団法施行令及び同施行規則で同制度の対象となる各種学校から外国人学校を除外している。
朝鮮学校や中華学校の教職員らも、同事業団の私学共済に加入しており、共済事業の対象となっていることに鑑みても、同じ事業団の行う受配者指定寄附金制度及び融資制度に関してのみ差別的取扱いをする合理的理由は存しえない。