受験資格の差別

外国人学校卒業生の大学受験資格の新方針は 矛盾だらけで
国際化時代にふさわしくない。

田中宏(龍谷大学経済学部教授)

アエラ(03/3/31) ※御本人の意向により一部修正してあります。


国内の外国人学校の卒業生の大学受験資格を検討してきた文部科学省は3月上旬、外国人学校のうち、インターナショナルスクールの一部にだけ認める方針を表明しました。
高校に相当する学校が12校ある朝鮮学校、同じく13校あるブラジル人学校など、ナショナルスクール(民族学校)には、これまで通り受験資格を認めていません。

このため、こうした学校に通う生徒は、大学入学資格検定(大検)に合格し、さらに希望の大学の受験勉強もしなければ成らないという負担を引き続き負うことになります。

今回、文科省が根拠として持ち出したのは、英米の学校評価機関の認定です。このため、インターナショナルスクールでも認められたのは16校だけでした。アジア系学校への差別という側面ももちろんありますが、それだけではありません。新たな線引きで矛盾だらけのものになったと見ています。

そもそも、今回の方針が打ち出された背景には経済界からの要請がありました。小渕政権の時に、海外からの投資促進策のひとつとして外国人学校問題が取り上げられたのです。

でも、今回認められた学校のリストを見ると、欧州連合(EU)主要国であるフランス、ドイツ系学校や、経済成長著しい中国、韓国系の学校も外れました。これをどう説明するのでしょうか。文科省が掲げる「国際化への対応」という側面から見ても説得力を欠いています。

たとえば、韓国の生徒が高校2年から日本にある韓国学校に入れば、日本の国立大学は受験できません。でも、韓国学校は本国では公認されているので、本国の大学受験資格はあります。また、本国で高校を卒業し、留学生としてなら日本の大学を受験することに何ら支障はありません。

海外に滞在している日本人の場合、滞在国のインターナショナルスクールを卒業すれば、「帰国子女」枠で日本の大学を受験できますが、途中で帰国して、日本国内の同系列のインターナショナルスクールを卒業した場合、その学校がたまたま今回の枠から外れていると国立大学は受験できません。国際的な人的移動がこれだけ活発になっているのに、対応できていないのです。

制度上の問題もあります。インターナショナルスクール卒で国際バカロレア資格取得者は、これまで日本の大学の受験資格が認められていました。それが、今回の方針により、こうした資格がなくても、学校を卒業しただけで日本の大学を受験することができるようになりました。国によっては資格がないと大学受験できないのに、です。

さらに、今回新たに大学受験資格が認められた学校の中には、各種学校や学校法人にすらなっていない「無認可校」も一部含まれています。どうしてこんな矛盾に満ちた方針が出されたのでしょう。外国人学校をめぐっては、長い歴史があります。戦後の外国人学校といえば、数からいってもすなわち朝鮮学校のことでした。

当時、日本の教育制度上、大学受験資格があったのは、いわゆる「一条校」、正規校のみでした。専修学校各種学校の卒業生は、外国人学校同様、大検を受ける必要があったのですが、1985年の法改正で専修学校(高等課程)が「格上げ」されたました。

@修業年限が3年以上
A総授業時数が2590時間以上
B国語、社会、数学、理科または外国語の総時間数が420時間以上、

という要件を満たせば、大学受験資格を認めるようになったのです。

専修学校には洋裁や調理師、歯科技師や鍼灸師の学校などが含まれています。そのような学校には学習指導要領はなく、教育内容などは一切問われません。

この論理でいくなら、三つの要件を満たしている民族学校は除外することはできないなずです。でも専修学校は「外国人を専ら対象とするものを除く」と定められているのです。

判断の根拠となってきたのは、「朝鮮人としての民族性又は国民性を涵養することを目的とする朝鮮学校は……これを各種学校として認可すべきではない」という、65年の文部省次官通達です。

しかし、各地の外国人学校はいまや知事によって認可されています。そして、多くの私立や公立の大学は、独自の判断で外国人学校に受験資格を認めてきた実績もあり、その通達はすでに破綻していると言えます。

それなのに、どうしてこのタイミングで、今回の方針が出されたのか。北朝鮮バッシングに、教育機関を加担させようということなのでしょうか。

そもそも、在日朝鮮人は日本の植民地政策によって、また新たな問題になっている在日ブラジル人は80年代の外国人労働者導入政策で日本に来たという経験があります。彼らの民族教育の保障は、日本の責務なのです。真の国際化にふさわしい外国人学校制度を考えるなら、専修学校の摘要除外を廃止する、本国で受験資格が認められている学校の卒業生には日本の大学受験資格を認める、などの方策が打ち出されるべきです。あるいは、規制緩和というなら、各大学に判断を任せることも一案です。

田中宏(たなか・ひろし)
1937年、岡山県生まれ。
63年、一橋大学大学院経済学研究科修了。
専門は日本アジア関係史、ポスト植民地問題。
93年、一橋大学教授。2000年から現職。
著者に「在日外国人 新版」「在日コリアン権利宣言」 (いずれも岩波書店)。

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