国連勧告を真摯に受けとめ、朝鮮学校への差別的処遇を是正せよ!
「朝鮮人(韓国籍・朝鮮籍)学校に関する質問主意書」に対する政府回答の問題点について
在日本朝鮮人人権協会 金東鶴

「人権と生活」 第15号(2002.12)所収  「インターナショナル=公益、朝鮮学校≠公益? 『朝鮮人(韓国籍・朝鮮籍)学校に 関する質問主意書』に対する政府回答の問題点について」より抜粋。
今年(2002年)8月30日、日本政府は大島令子衆議院議員から出された「朝鮮人(韓国籍・朝鮮籍)学校に関する質問主意書」(7月23日提出)に対し、回答文書を出した。

同文書では、この数年の間にたて続けに出された国連(各条約委員会)からの勧告に対する日本の不誠実な姿勢がよく現れており、また税制上の優遇措置の一つである「指定寄付金」に関する質問への回答は到底看過できないものとなっている。
ここにその政府回答の問題点を各質問毎に指摘してみたいとおもう。

※なお質問主意書の中にある国連勧告についてはすべて日本政府訳のものが引用されているが、後で少し触れるようにNGOグループで使われている訳と若干の差異がある。

●一の質問について [子ども(児童)の権利条約関連]
 一つ目の質問では国連児童の権利に関する委員会(第一八会期)の最終見解(一九九八年六月)が「韓国・朝鮮及びアイヌの児童を含む少数者の児童の差別的取扱いが、何時、何処で起ころうと、十分に調査され排除されるよう」と勧告したのを受けて、「政府は調査を行ったのか」、また、その調査結果を受けて、「どのような改善策を講じたのか、検討中の策も含めて明らかにされたい」、としている。

これに対し、日本政府の回答は「人権侵害の疑いのある事案を認知した場合には、人権侵犯事件として速やかに調査し」としているが、これはあたかも突発的に人権侵害事件の発生が起こった場合を念頭においた表現であり、受験資格等、政府等によって制度的に差別されているという認識の基に勧告が出されているにもかかわらず、そのことには「知らんぷり」を決め込んでいるといえる。また「なお、具体的な事案に関する調査の内容等については、関係者のプライバシーに係る事柄であるので、お答えすることを差し控えたい。」とし、プライバシーを口実に調査内容を一切示していない。プライバシーは名前等の固有名詞を伏せれば十分守れるはずであり、現にそういった形で法務省はこれまでも相談事例を紹介している。

●二の質問について  [人種差別撤廃条約関連]
 二つ目の質問では、国連人種差別の撤廃に関する委員会が、「韓国語での学習が認められていないこと」や「高等教育へのアクセスについて不平等な取扱いを受けていることに懸念を」示し、「韓国・朝鮮人を含むマイノリティに対する差別的取扱いを撤廃するために適切な措置をとること」、「日本の公立学校においてマイノリティの言語での教育へのアクセスを確保するよう」勧告したことに対し、「どのような措置を講じたのか」と問い、「相当数の外国人が居住する地区においては、公立学校にマイノリティの言語による教育能力のある教師を配置することもこうした勧告に沿うこと」という提案への意見を求めている。
 これに対し、政府回答は「大学入学資格検定を受検できることとされており、これについても在日韓国・朝鮮人について不平等な取扱いとなっているものではない」としている。
 これは1999年より大検への受験を朝鮮学校をはじめとする外国人学校にも認めたことを述べたものだが、これについては、同委員会での審議のために日本政府が提出した報告書でも主張されていたことである。しかしそれはあくまで大検への受験を認めることになったにすぎず、大学への受験資格が認められたわけではないのであり、受験資格における差別の解決とは到底、言えるものでない。委員会はそのことを踏まえ「韓国・朝鮮人学校を含む外国人学校のマイノリティの学生が日本の大学へ入学するに際しての制度上の障害の幾つかを除去するための努力は払われているが」としながらも、「高等教育へのアクセスについて不平等な取扱いを受けている」としたのであり、本質問主意書がこの勧告に基づいてとられた措置を訊いているにも拘わらず、大検への受験資格を云々するのはまさに的はずれの回答だと言わざるをえない。

また日本政府は「在日韓国・朝鮮人その他の日本国籍を有しない児童及び生徒に対しては、地方公共団体の判断により、教育課程外において母国語や母国の文化等を学習する機会を提供することは差し支えないこととしているところである。このような取組により、我が国においては、日本国籍を有しない児童及び生徒の教育の機会の保障に努めているところである」としている。しかし、日本政府は1965年に出された文部事務次官通達において、「日本人子弟と同様に取り扱うものとし、教育課程の編成・実施について特別の取り扱いをすべきではないこと」として、民族学級等の取組に一貫として否定的態度とってきた。この通達は1991年の「韓日外相覚書」において「現在、地方自治体の判断により学校の課外で行われている韓国語や韓国文化等の学習が今後も支障なく行われるよう日本国政府として配慮する」とされたことによってもはや死文化したと言えようが、この「覚書」以後も日本政府は民族学級の取組に対し、何らの援助も行っていない。そのため民族学級を担う民族講師らは微々たる報酬しか保障されないという条件に引き続き耐えているのが現状である。公立学校にマイノリティの言語による教育能力のある教師を配置することもこうした勧告に沿うどころか長らくそれを抑えつけ、現在もなお何らのケアもせず無視し続けているが実態なのである。

●三の質問について [社会権規約関連]
 三の質問では国連経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会が「委員会はかなりの数の言語的少数者の児童生徒が在籍している公立学校の公式な教育課程において母国語教育が導入されることを強く勧告する」とし、さらに「国の教育課程に従うものであるときは、締約国(日本)が少数者の学校、特に在日韓国・朝鮮の人々の民族学校を公式に認め、それにより、これらの学校が補助金その他の財政的援助を受けられるようにし、また、これらの学校の卒業資格を大学入学試験受験資格として認めることを勧告する」としたことに応じて、「朝鮮学校、中華学校その他在日外国人の子どもたちが義務教育課程を母国語で学習する国際学校とその児童生徒に対して、義務教育課程を無償で受けられる為に必要な助成が行われるべきと考えるが、見解を明らかにされたい。また、このような勧告に従うなら、各級朝鮮学校、中華学校などを認可し、日本の公立学校と同等の資格を認め、施設費や経費などの助成をはかるべきと考えるが、いかがか」と問いただしている。
 これに対し政府回答では「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の最終見解は、『それが国の教育課程に従うものであるときは』とした上で、『少数者の学校、特に在日韓国・朝鮮の人々の民族学校を公式に認め、それにより、これらの学校が補助金その他の財政的援助を受けられるよう』勧告しており、学校教育法(昭和二十三年法律第二十六号)第一条に定める学校として認可されていない外国人学校への財政的援助を勧告するものではないと考える。」としている。

しかし、この政府回答もやはり、的はずれなもの、というか有り体にいえば、まやかしだと言わざるをえない。人権侵害状況が生じていない問題であれば敢えて勧告は出されないものである。
 私たち在日本朝鮮人人権協会をはじめ、NGOサイドからカウンターレポートや委員会でのスピーチ、またロビー活動を通して朝鮮学校がいかに日本の正規の学校と同等のカリキュラム、水準を有しているのかといったことを訴えてきたこともあり、同委員会では「朝鮮人差別もある。学校における差別である、朝鮮学校が設立されているが、いままで学校教育法における正規の学校と認められず、国立大学受験ができなかった。日本語ができないのとは違う。朝鮮学校は日本の教育制度と同じだと聞くが、何故正規の学校として認められないのだ、卒業生は就職が難しいとも聞くが、何故このような差別がまかり通っているのか。」(マリンベルニ委員(スイ?)といった意見が出ていた。
 勧告はそのような認識に基づいて出されたのである。
 それは最終所見でまず「32.委員会は、少数者の児童が、公立学校において、母国語による、自らの文化についての教育を享受する機会が極めて限られている事実について懸念を表明する。委員会は、少数者の学校−例えば在日韓国・朝鮮の人々の民族学校などが、たとえそれが国の教育課程に沿うものであっても、公的に認められず、それゆえ、中央政府の補助金も受けられず、大学入学試験受験資格も与えられない事実についても懸念を有する」とした上で、上のような勧告をしていることからも明白である。
 つまり日本の学校に遜色ない教育を保障している朝鮮学校等が正規の学校として扱われていない状況は是正すべきとの認識のもと、同委員会は勧告を出したのである。

※この勧告の英語の原文では「従うものであるときは」の「ときは」が「when」であり、政府は「if」と同様に解した(い)のでしょうが、以上のような理由から私たちをはじめ多くのNGOサイドでは「従う状況においては」というふうに、つまりそういった現況にある、というニュアンスを含んだ表現に翻訳しています。

●四の質問について [指定寄付金関連]
 四の質問は「韓国・朝鮮学校やその他の外国人学校の建設、修復に関して、その費用に対し、寄付がされた場合、免税措置が講じられないのは何故か、その理由を明らかにされたい」としている。学校の建設、修復に関して、その費用に対し、寄付がされた場合における免税措置の制度を「指定寄付金」制度という。これは各種学校でも「学校教育法第一条に規定する学校の行う教育に相当する内容の教育を行う各種学校で、その運営が法令等に従って行われ、かつ、その教育を行うことについて相当の理由があるものと所轄庁が認めるものであること等の要件を充たす学校」なら適用可能となっている。
 しかし、これに対する政府回答においては、指定寄付金への「財務大臣の承認は、当該寄附金が公益の増進に寄与するための支出で緊急を要するものに充てられることが確実であると認められる場合に限ってなされるものであり、そのような場合以外はこれらの特例措置の対象とはならない。各種学校に対する寄附金でこれまでにこれらの特例措置の対象となったものについては、当該各種学校が、保護者の用務の都合により我が国に短期間滞在する外国人子女を多く受け入れており、対内直接投資を促進し、海外から優秀な人材を呼び込む上で重要な役割を果たしていると考えられ、その施設整備等が緊急を要するものであると認められたため、当該寄附金の募集について財務大臣の承認がなされたものである。」としている。実際、インターナショナルスクールやドイツ人学校、また東京韓国学園も短期滞在者の子どもが多いということで過去に認定されている。しかし朝鮮学校や中華学校は阪神淡路大震災直後の特別措置として認められた以外は一切認められていないのである。つまりは短期滞在する外国人は公益の増進に寄与する存在であり、定住する外国人は公益の増進には寄与しない存在であり、したがって保障する必要はない、ということなのである。

このような考え方は、とりあえずインターナショナルスクールについてのみ受験資格開放方針を決めた閣議決定(今年3月29日)にもかいま見られるのだが、経済的尺度のみを押し出した、人権や共生といった価値感を微塵も感じとることの出来ない代物といえる。
 当然ながら日本政府が上のような考え方で拒否するようなことを断じて許してはいけないということを最後に訴え、本論を締めさせて頂きたいとおもう。
 
※なお、1996年山口県にある下関朝鮮初中級学校が校舎の建て替えに伴い、「指定寄付金」制度を利用しようとした時は1965年に出された文部事務次官通達(前述の通達と同じ日に出されたもう一つの通達)で「朝鮮人として民族性または国民性を涵養することを目的とする朝鮮人学校は、わが国の社会にとって、各種学校の地位を与える積極的意義を有するものとは認められないので、これを各種学校として認可すべきでない」としており、この考えに変化はないということで「指定寄付金」認定を拒否されている。2000年4月から地方分権一括法が施行され、各種学校の認可、監督が都道府県の自治事務となったことに伴い、この通達は制度的な意味でもはや無効となった。政府はこれにかわる「否認」為の論理として、上記、下線部の論理を代替案として持ってきたとも言える。
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