文部科学省の方針に対する声明

「在日コリアンの子ども達に対する嫌がらせを許さない大阪弁護士の会」大阪弁護士会所属弁護士１８名

１　我々「在日コリアンの子どもたちに対する嫌がらせを許さない大阪弁護士の会」は，８月６日に発表された文部科学省（以下「文科省」という。）の大学入学資格の弾力化に関する案につき，以下のとおり意見します。 　２　文科省は，「教育の国際化等の観点」から，外国人学校・民族学校の取扱につき，�@国際的な評価団体（ＷＡＳＣ，ＥＣＩＳ，ＡＣＳＩ）の評価を受けた外国人学校の卒業者及び�A外国において，当該外国の正規の課程（１２年）と同等として位置づけられている外国人学校の卒業者を対象に，一般的に大学入学資格を付与する方針を掲げています（�@の評価機関及び�Aに該当する外国人学校を文部科学省告示で指定）。 　上記方針は，去る３月６日時点の同省の方針と比較すれば，外国人学校の大学入学資格がより拡大されています。しかしながら，それを一歩前進と評価することには，大きな疑問を抱かざるをえません。なぜなら，上記�Aの判断方法につき，同省は，「当該外国の正規の課程（１２年）と同等として位置づけられていかどうかは，各国の大使館等を通じて公的に確認する」という方針を採るため，日本に多く存在する朝鮮高級学校が排除される恐れがあり，同省自身，上記�Aからは朝鮮高級学校を排除することを，記者会見等で認めているからです。 　３ かかる方針は，外国人学校・民族学校の中でも，生徒数において過半数をしめ，日本の教育により近いカリキュラムが組まれている朝鮮学校の教育実態を無視するものであり，これは，在日コリアンの民族教育に対する視点を全く欠いたものといわざるを得ません。憲法１４条，子どもの権利条約２条，人種差別撤廃条約及び自由権規約、社会権規約に基づく条約履行監視機関である各委員会の勧告等（１９９８年６月５日子どもの権利委員会および２００１年３月２０日人種差別撤廃委員会の在日コリアンの生徒の高等教育へのアクセスにおける不平等の懸念，１９９８年１１月５日自由権規約委員会の朝鮮学校未承認の懸念，２００１年８月３０日社会権規約委員会の朝鮮学校等マイノリティーの学校卒業生の大学受験資格制限などに関する懸念）に照らしても，このような差別が許されるはずがありません。 　４ また，今回，文科省は，外国人学校の取扱と並んで，「社会人や様々な学習歴を有する者への機会拡大等の観点」から，大学による個別審査により高校卒業と同等以上の学力があると認められる者に大学入学資格を付与する方針も掲げています（省令改正）。そして，朝鮮人学校卒業生は，この方法により大学入学資格を得ることになる，と，説明しています。 　しかしながら，各大学の個別審査による大学入学資格の認定は，私立・公立大学において従来から実施されており，それを認める根拠条文も既に存在しております（学校教育法施行規則６９条６号）。本省令改正は，学校教育法施行規則６９条６号を「敗戦直後の旧制の教育制度と新制の教育制度を整合させるための過渡的な措置として設けられたものであり，既に死文化している」として，国立大学への適用を頑なに否定してきた文科省自らの姿勢を改め，私立・公立大学の従来の慣行を追認するものに過ぎません。 　また，実際上の問題としても，前記�@と�Aの基準から外れた外国人学校卒業者は，受験しようとする各大学全ての入学資格認定を取得せねばならず，大学全てが認定書を交付する保証のない以上，結局，大学入学資格検定を受けざるを得ない，という問題は残されたままです。 　５ 我々「在日コリアンの子どもたちに対する嫌がらせを許さない大阪弁護士の会」は，大阪府下にある１２の朝鮮学校（小中高含む）に対し，拉致報道以後の嫌がらせを中心にアンケート調査を実施しました。その中に「僕らは，日本人と変わらず生活しているだけ。普通に接してほしい」「１日も人同士も国同士も仲良くなってほしい」「昔の歴史をみんな知らないと思う」という意見がありました。これら在日コリアンの子どもたちの感覚及び民族教育の重要性を再認識し，全ての外国人学校の公平的取扱を基礎として，大学入学資格を認定することを求めます。 　そして，そのために，専修学校の大学入学資格認定基準（ア修業年限が３年以上　イ卒業に必要な総授業時数は２５９０時間単位時間以上　ウ卒業に必要な普通科目（国語，地理・歴史，公民，数学，理科又は外国語）についての総授業時数は４２０単位時間以上【学校教育法施行規則６９条３号，文部科学省告示第４７号の２１号，１９８５年９月１９日の高等教育局長裁定】）のように，外国人学校についても，画一的・客観的基準を設けるべきであることを提言します。