(※本ホームページにおいては、申立人の代表者の個人名、及び各代理人弁護士の事務所名等、また最後に「証拠方法」、「添付書類」として示されている文書については割愛しています。)

人権救済申立書

 

 2006年3月13日

日本弁護士連合会 御中

 

               申立人代理人  弁護士  星  正  秀

 

同     弁護士  金  舜  植

 

同     弁護士  金  哲  敏

 

同     弁護士  李  春  熙

 


〒231−0862 横浜市中区山手町43−2

                      申立人 学校法人横浜山手中華学園

 〒114−0033 東京都北区十条台2−6−32

同   学校法人東京朝鮮学園

〒221−0844 横浜市神奈川区沢渡21

同   学校法人神奈川朝鮮学園

〒231−0862 横浜市中区山手町43−2

同   横浜山手中華学校家長会

〒112−0011 東京都文京区千石4−27−10

同   東京朝鮮学校オモニ会連絡会

〒221−0844 横浜市神奈川区沢渡21

同   神奈川朝鮮学園オモニ会連絡会


 

            被申立人 内閣総理大臣 小泉 純一郎

 

            同    文部科学大臣 小坂 憲次

 

            同    財務大臣      谷垣 禎一

                        

 

             申 立 の 趣 旨

 日本弁護士連合会は,当該関係各機関に対し,各中華学校,各朝鮮学校及び同学校に通う児童生徒及びその保護者に対する以下の人権侵害を是正するよう勧告する。

 

 1 各中華学校,各朝鮮学校を,「指定寄附金」制度の対象として認めること

 

 2 各中華学校,各朝鮮学校を,「特定公益増進法人」として認めること

 

 3 各中華学校,各朝鮮学校を,日本私立学校振興・共済事業団の「私立学校受配者指定寄付金制度」及び「融資制度」の対象として認めること

 

 4 朝鮮高級学校の卒業(見込み)生について,大学や専門学校(専門課程の専修学校)における個別の入学資格審査なしにその入学資格を認めること

 

 

             申 立 の 原 因

第1 はじめに

 日本弁護士連合会は,1998年2月,日本国政府に対し,朝鮮学校等に対する大学入学資格・助成制度などの差別的な取り扱いが日本に在住する外国人の母国語ないし自己の国ないし民族の文化を保持する教育に関する重大な人権侵害にあたるとして,人権侵害を除去し,その被害を回復する適当な処置をとるよう勧告した。

 その後,大学入学資格問題の緩和,インターナショナルスクールに対する税制上の優遇策,各種学校及び学校法人認可基準の緩和(その結果,浜松市卸本町所在のペルー人学校ムンド・デ・アレグリア学校が南米系外国人学校としては全国ではじめて,県から準学校法人認可を得た。)など,外国人学校・民族学校に対する差別的な取扱いを除去するうえで一定の前進はあった。

 しかし,外国人学校・民族学校を学校教育法第1条と同等の,あるいはそれに準じる扱いをするまでには到底いたっていない。

 それどころか,近時の外国人学校・民族学校に対する日本政府の政策は,同じ外国人学校・民族学校のなかにおいて,インターナショナルスクール等と中華学校,朝鮮学校などの一部の外国人学校・民族学校を区別して,二重の基準を用いて,一部の外国人学校・民族学校に対する差別的取扱いを正当化しようとしている。

 以下,1998年2月の日弁連勧告以降に生じた新たな差別的取扱い(あるいは以前からあったが未解決の問題)について詳述する。

 

第2 当事者

1 学校法人横浜山手中華学園は,1898年に創立された横浜大同学校を前身とする中華学校を運営する(準)学校法人であり,現在,横浜山手中華学校を設置・運営している。横浜山手中華学校家長会は,学校法人横浜山手中華学園の運営を支援する保護者・有志の会である。

2 学校法人東京朝鮮学園は,朝鮮解放後に設立された「国語(朝鮮語)講習所」を前身とする東京都所在の朝鮮学校を運営するため,1955年に設立された(準)学校法人であり,現在,東京朝鮮第1幼初中級学校,東京朝鮮第2初級学校,東京朝鮮第3初級学校,東京朝鮮第4初中級学校,東京朝鮮第5初中級学校,東京朝鮮第6幼初級学校,東京朝鮮第9初級学校,西東京朝鮮第1初中級学校,西東京朝鮮第2初中級学校,東京朝鮮中高級学校,朝鮮大学校を設置・運営している。東京朝鮮学校オモニ会連絡会は,学校法人東京朝鮮学園の運営を支援する保護者・有志の会である。

3 学校法人神奈川朝鮮学園は,朝鮮解放後に設立された「国語(朝鮮語)講習所」を前身とする神奈川県所在の朝鮮学校を運営するため,1965年に設立された(準)学校法人であり,現在,神奈川朝鮮中高級学校,横浜朝鮮初級学校,川崎朝鮮初級学校,南武朝鮮初級学校,鶴見朝鮮初級学校を設置・運営している。神奈川朝鮮学園オモニ会連絡会は,学校法人神奈川朝鮮学園の運営を支援する保護者・有志の会である。

4 学校教育法第1条が定める学校においては,在日外国人児童生徒に対し,母()語による学校教育を実施していない。現行法制度の中において,母()語による学校教育を実現し,その法的保護をはかるための唯一の手段は,母()語による学校教育を実施している教育機関が,教育内容の規制を受けない各種学校の資格をとることであった。仮に,外国人学校・民族学校が学校教育法第1条の定める学校になろうとすれば,検定を受けた日本語で書かれた教科書を用いなければならず,教師も日本の教員免許が必要となり,母()語使用は外国語の授業のなかでのみに限られてしまう。なお,1975年に創設された専修学校については,「わが国に居住する外国人を専ら対象とするものは除く」(学校教育法第82条の2)となっているため,外国人学校・民族学校は専修学校にもなれない。

  よって,各中華学校及び各朝鮮学校は,現行法制度の下においては,いまだ「各種学校」(学校教育法83条第1項)という位置づけに甘んじざるを得ない状態にある。

 

第3 民族教育を受ける権利の根拠とその内容

1 教育は,個人の人格の完成及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を志向するものであり,普通教育(憲法第24条)とは,文字どおり,専門教育,職業教育,(障害児教育などの)特殊教育と対比する意味での教育であり,心身の発達に応じて,職業にかかわりなく一般共通に必要な知識を与え,教養を育てる教育(児童に対する基礎的教育)を言う。一般に,日本に居住する外国人・民族的少数者の児童には,以下に述べるように憲法及び国際人権法により,民族教育を受ける権利,すなわち自らの属する民族の言葉によりその文化・歴史を学ぶ権利(母(国)語による普通教育を受ける権利)が保障されている。この権利の保障から論理的に導かれる当然の結論として,外国人・民族的少数者の集団が外国人学校・民族学校を設置・維持することを国家(地方政府を含む)から妨害されず(自由権的側面),また,外国人学校・民族学校の設置・維持のため,政府から私立学校(ここでの学校は,私立学校法第2条第1項にいう学校,すなわち学校教育法第1条に定められた学校を指す)と同程度以上の財政援助(税制上の優遇措置含む)を受けることができる(社会権的側面)。

 以下,自由権的側面及び社会権的側面について論じる。

2 憲法上の保障

(1)日本国憲法は,第13条において個人の幸福追求権を保障しているが,個人が民族的に生きる権利(個人の尊厳の実現)ともいうべき,自らの属する民族の言葉によりその文化・歴史を学ぶ権利を保障しているのかについては,規定の文言上一義的に明らかではないが,外国人・民族的少数者がその民族に属する者として生きること自体は,同条に規定した幸福追求権の行使,すなわち個人の人格の健全な発展という観点から全く正当な営為であり,すくなくとも国家から一切の妨害を受けないという自由権的意味で当然に保障が及ぶものというべきである。   

(2)さらに,憲法第26条において,教育を受ける権利が自由権又は社会権として保障されるが,先に述べたように憲法第13条で民族的に生きる権利(個人の尊厳の実現)が侵害されてはならないこと,これに不合理的な差別を禁じた憲法第14条を合わせて適用すれば,民族的に生きる(個人の尊厳の実現)ということをもってこれを差別することが許されないということになるから,民族的に生きる(個人の尊厳の実現)ということの教育面での表れとして,あるいは民族的に生きる権利(個人の尊厳の実現)の実質的な保障として,民族教育を受ける権利あるいは児童に受けさせる権利が,自由権だけでなく,社会権として保障されていると考えられる。

(3)つまり,学校教育を民族的に行うこと,学校教育を外国人・民族的少数者がその属する民族の言葉により行い,さらに教育の内容についても文化・歴史等の点について外国人・民族的少数者が自己の属する民族に関する教育を受けあるいは児童に受けさせること(母(国)語による普通教育を受ける権利)が,国家によって妨害されてはならないという自由権としての保障と,そのような教育を可能ならしめるために,国家において適切な制度を整備し,少なくとも同程度の教育水準の課程を有する一般の私立学校と同じ程度の財政的援助(税制上の優遇措置含む)を受ける権利が保障されているというべきである。

(4)実際にも,近時,外国人学校・民族学校を学校教育法第1条が規定する「学校」に準じて扱い,同学校の卒業(見込み)生の大学受験資格の緩和,あるいはインターナショナルスクールに対する税制上の優遇策など,外国人学校・民族学校に対する国家における適切な制度を整備する動きがある。

(5)1968年に朝鮮大学校が各種学校として東京都より設立認可された際,当時の東京都知事美濃部亮吉は,当時の文部省からの不認可圧力に抗して「行政ベースに従って判断する」として認可に踏み切っているが,彼の「行政ベース」とは,法の論理そのものであり,「仮に通達と法律とが矛盾しあうならば法律に従うべきであり,法律と憲法が矛盾しているときは,憲法に従うべきだ」ということであり,「憲法を第一のはかりとする」ということであった。そして,この判断は,当時のあらゆる知識人や自治体から支持され,実際,1960年代後半には,朝鮮学校を各種学校として認可する都道府県が著しく増大し,1975年には朝鮮学校があるすべての都道府県が同校を各種学校として認可するに至った。民族教育を受ける権利を保障するということが憲法の理念に叶うことが多くの識者の目には,当時でさえ明らかだったのである。

3 国際人権法上の保障

(1)国際人権法の分野でも,世界人権宣言は,第26条において,全ての人の教育を受ける権利を保障し,国際人権規約社会権規約(以下「社会権規約」という。)第13条,児童の権利に関する条約(以下「児童の権利条約」というう。)第28条も,教育を受ける権利を保障しているが,教育を受ける権利は,世界人権宣言第26条,社会権規約第2条第2項・自由権規約第26条,児童の権利条約第2条第1項・あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(以下「人種差別撤廃条約」という。)第5条(e)(D)により民族や国籍による差別なく保障されているところである。

(2)そして,ここでいう教育を受ける権利の内容としては,いわゆる国民教育として居住国の国民が受けることを予定された内容の教育を受ける権利ということにとどまらず,外国人・民族的少数者の需要にあった教育をうけること,すなわち自らの属する民族の言葉によりその文化・歴史を学ぶということが保障され,このことは,実定法としては世界人権宣言第26条第3項,社会権規約第13条第3項,児童の権利条約第5条において児童の父母又は保護者の教育内容及び教育機関選択の自由という形で一般的に保障され,民族教育という観点からは自由権規約第27条,児童の権利条約第29条第1項(d),同第30条により,特に外国人・民族的少数者の集団に属する児童について自己の属する民族集団の言語によりその文化・歴史を学ぶ権利を保障されているところである。

(3)ここで,民族教育を受ける権利の保障の一環として,外国人・民族的少数者の集団が母(国)語による普通教育を実施するために学校を設立し,その民族集団の言語により学校教育を行いつつその言語・文化・歴史を学ばせるということが保障されているかが問題となるが,この点については,1992年12月18日に「民族的,宗教的,言語的マイノリティに属する人々の権利に関する宣言」(UN Declaration on the Rights of Persons Belonging to National or Ethnic, Religious and Linguistic Minorities いわゆるマイノリティ権利宣言。これは自由権規約第27条の規定を具体化し発展させたものであり,自由権規約第27条の解釈の重要な指針となるもの)が国連総会において採択され,その第4条3項において「国家は,可能な場合には常に,マイノリティに属する人々が自らの母(国)語を学んだり,母(国)語で教育を受ける十分な機会を得られるよう適切な措置をとらなければならない」(States should take appropriate measures so that, wherever possible, persons belonging to minorities may have adequate opportunities to learn their mother tongue or to have instruction in their mother tongue)としている。(ちなみに,日本における民族的少数者の文化に対する権利に認めた先例として,アイヌ民族が少数・先住民として文化を享有する権利が自由権規約前文,第2条第1項,第26条,第27条で保障されているとした判例がある(札幌地判1997年3月27日))。

(4)さらに,1994年には,自由権規約第27条の解釈について,自由権規約委員会は一般的意見23を出し,その第6項で,「第27条では消極的な表現が用いられているが,同条はそれにもかかわらず,『権利』の存在を認め,当該権利が否定されないことを求めている。したがって,締約国は,この権利の存在及び行使を,その否定と侵害から保護することを確保する義務を負う。」としたうえ,「マイノリティのアイデンティティを保護し,またその構成員が,その集団の他の構成員とともに,自己の文化や言語を享受しかつ発展させ,自己の宗教を実践する権利を保護するための,締結国による積極的措置も必要である」としている。事実,1998年11月19日の自由権規約委員会の総括所見において,「委員会は,朝鮮人学校の不認定を含む,日本国民ではない在日コリアン・マイノリティに対する差別の事例に懸念を有する。委員会は,第27条に関する委員会の一般的な性格を有する意見23(1994年)が,第27条による保護は国民に限定されないと述べていることについて,締結国(日本)の注意を喚起する」と述べているのである(13項)。

(5)1998年の社会権規約委員会の一般的討議における合意第4項によると,「少数者は,公的教育の公立制度外の制度で,彼らが望む言語によって学ぶ権利を有する」とされ,明確に私立学校制度の枠組みの下で外国人・民族的少数者が望む言語により学ぶ権利が存在することを認めている。

(6)既に述べたように自由権規約第27条に関連してマイノリティ権利宣言があるところであるが,その前出第4条第3項のコメンタリー(国連マイノリティ作業部会議長アズビヨン・アイデAsbjorn Eideの手による逐条解説)では,「マイノリティに属する人びとは,他の人びとと同様に,マイノリティ言語が教育の主要な言語となる私立学校を設立する権利をもつ」(persons belonging to minorities have a right, like others, to establish their private institutions, where the minority language is the main language of instruction)「国家は,マイノリティ言語の享受を保障できる教育機関の存在を保障し,資金を提供することを要請される」(It would be a requirement that the State does ensure the existence of and fund some institutions which can ensure the teaching of that minority language.)(コメンタリー63項)と明快に解釈論が述べられている。

(7)以上のような実定法規の諸規定によれば,外国人・民族的少数者の集団(又は個人)が(私立学校として)外国人学校・民族学校を設置・維持することを国家から妨害されず,また,外国人学校・民族学校の設置・維持のため,国家から一般の私立学校と差別なく財政援助(税制上の優遇措置を含む)を受けることができることは,疑いようもないところである。

 

第4 税制上の優遇措置における人権侵害

 1 「指定寄付金」の適用における人権侵害について

(1)指定寄付金制度の概要

ア 指定寄付金とは,民法第34条の規定により設立された法人その他公益を目的とする事業を行う法人又は団体に対する寄付金で,広く一般募集され,かつ公益性及び緊急性が高いものとして,財務大臣が指定したものをいう。例えば,校舎の新築や増築をするときに学校に対して支出する寄付金である。

イ 個人が支出した指定寄付金については,次の算式で計算した金額が「寄付金控除」として,所得から控除される(所得税法第78条第2項第二号,所得税法施行令第216条,「寄付金控除の対象となる寄付金又は法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する寄付金を指定する件」1965年4月30日大蔵省告示第154号第2号)

 

  所得金額30%又は

  寄付金の額のいずれか少ない金額  −  1万円  = 寄付金控除額

 

ウ 法人が支出した指定寄付金は,その支払った寄付金の全額が損金に算入される(法人税法第37条第4項第2号,法人税法施行令第76条,「寄付金控除の対象となる寄付金又は法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する寄付金を指定する件」1965年4月30日大蔵省告示第154号第2号)

 

(2)指定寄付金制度の対象から中華学校,朝鮮学校が排除されていること

ア 要件

 

 「寄付金控除の対象となる寄付金又は法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する寄付金を指定する件」(1965年4月30日大蔵省告示154号)

 

第2号

 学校(学校のうち小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,盲学校,ろう学校,養護学校又は幼稚園の行う教育に相当する内容の教育を行う学校教育法第83条第1項に規定する各種学校でその運営が法令等に従って行われ,かつ,その教育を行うことについて相当の理由があるものと所轄庁(私立学校法第4条に規定する所轄庁をいう。)が文部科学大臣と協議して認めるもののうち,その設置後相当な年数を経過しているもの又は学校を設置している学校法人の設置するものを含む。)又は専修学校で学校法人が設置するものの敷地,校舎その他附属設備(専修学校にあっては,高等課程又は専門課程の教育の用に供されるものに限る。)に充てるために当該学校法人に対してされる寄付金(前号に該当する寄付金を除く。)であって,当該学校法人が当該寄付金の募集につき財務大臣の承認を受けた日から1年を越えない範囲内で財務大臣が定めた期間内に支出されたものの全額

      上記告示で規定しているとおり,学校教育法第83条第1項が規定する各種学校でその運営が法令等に従って行われ,かつ,その教育を行うことについて相当の理由があるものと所轄庁が認める学校も指定寄付金制度の対象となる。

 

  イ 指定寄付金制度の対象として認められた外国人学校・民族学校の例 

 

 

   学校名

 告示日

告示番号

  期間

 募金の目的

@

アメリカン・スクール・イン・

ジャパン・フアウンデイション

64.2.26

41

221日〜一年間

施設拡充費用

A

アメリカン・スクール・イン・

ジャパン・フアウンデイション

65.3.8

77

一年間

施設拡充費用

B

アメリカン・スクール・イン・

ジャパン・フアウンデイション

66.3.31

40

一年間

施設拡充費用

C−1

アメリカン・スクール・イン・

ジャパン・フアウンデイション

84.10.31

133

一年間

中学校校舎校舎及び附属設備建設並びに校具取得の費用

C−2

アメリカン・スクール・イン・

ジャパン・フアウンデイション

85.12.7

155

上記の一年間延長

 

C−3

アメリカン・スクール・イン・

ジャパン・フアウンデイション

86.11.15

161

上記の一年間延長

 

C−4

アメリカン・スクール・イン・

ジャパン・フアウンデイション

87.12.24

166

上記の一年間延長

 

D

アメリカン・スクール・イン・

ジャパン・フアウンデイション

04.3.12

130

712

校舎建設及び校具取得の費用

E

清泉インターナショナル学園

74.9.2

102

一年間

校舎建築の費用

F−1

西町インターナショナルスクール

82.3.26

29

一年間

校舎及び体育館並びにプール建築の費用

F−2

西町インターナショナルスクール  

83.3.28

38

上記の一年間延長

 

G−1

西町インターナショナルスクール

86.6.7

93

一年間

校舎建設及び校具取得の費用

G−2

西町インターナショナルスクール

87.6.15

89

上記の一年間延長

 

H−1

西町インターナショナルスクール

97.2.14

39

一年間

校舎建設及び校具取得の費用

H−2

西町インターナショナルスクール

98.2.16

39

上記の一年間延長

 

I−1

横浜インターナショナル

81.11.19

149

1119日〜一年間

体育館建設の費用

I−2

横浜インターナショナル

82.12.17

140

上記の一年間延長

 

J−1

横浜インターナショナル

89.7.21

115

一年間

幼稚部校舎建設の費用

J−2

横浜インターナショナル

90.8.21

139

上記の一年間延長

 

K−1

カネデイアンアカデミイ

82.3.26

28

一年間

小学校校舎増築の費用

K−2

カネデイアンアカデミイ

83.3.28

39

上記の一年間延長

 

L

東京韓国学園

89.12.18

212

一年間

校舎建設及び附属設備並びに校具取得の費用

M−1

東京独逸学園

90.11.29

198

一年間

校舎建設及び附属設備並びに校地及び校具取得の費用

M−2

東京独逸学園    

91.12.10

219

上記の一年間延長

 

N

福岡国際学園

93.7.8

145

一年間

校舎及び寄宿舎建設の費用

  ※期間は特に記載がない場合は告示日から。但し延長の場合は,延長前期日の翌日からである。

 

  ウ 指定寄付金制度の対象から排除された外国人学校・民族学校の例

  (ア)下関朝鮮初中級学校の例

 下関朝鮮初中級学校は,1997年に指定寄付金制度の申請したが,文部省の反対にあって,その適用を否定された。

     1997年8月7日付朝日新聞記事によると,文部省国際教育室長は,「健全な日本人を育てるという立場からすれば,朝鮮人同胞を育てるのが目的の朝鮮学校は日本の公益に資するとは思えない。政府として優遇することには否定的にならざるを得ない」と述べた。これに対して,同校を所管する山口県学事文書課長は,「国の見解は尊重するが,大変残念としか言いようがない。朝鮮学校が日本の学校に相当する内容の教育をしているとの山口県の認識は,今も変わらない」と述べた。文部省の「公益に資せず」という認識と,山口県の「相当する内容の教育」という認識との間には,大きな落差が見られる。

     文部省は,「朝鮮人としての民族性または国民性を涵養することを目的とする朝鮮人学校は,わが国の社会にとって,各種学校の地位を与える積極的意義を有するものと認められないので,これを各種学校として認可すべきではない」とする文部事務次官通達(1965年)を根拠にして,大蔵省告示154号第2号にいう「その教育を行うことについて相当の理由があるものと所轄庁(私立学校法第4条に規定する所轄庁をいう。)が認めるもの」に該当しないとした。文部省の意見を受けて大蔵省は指定寄付金制度の適用を否定したのである。

     しかし,上記の1965年文部事務次官通達は,その後の地方分権一括法(学校の許認可権が地方自治体の自治事務となった)の施行によって,無効となった。その結果,現在,文部科学省は,1965年通達を根拠にして各朝鮮学校を指定寄付金制度の対象から排除することはできないことが明らかである。

 

(イ)横浜山手中華学校の例

 横浜山手中華学校は,近時の定員増加にともない移転(校舎の新築)計画を立てており,それに関連して指定寄付金の申請に関して神奈川県に打診したところ,文部科学省が「寄付金の免税優遇措置は外資を国内に取り入れるための優遇措置なので,短期滞在者以外の子を受け入れている学校は対象にならない」と意見を述べているとして,同県から,指定寄付金制度の適用を認めない方針であるとと伝えられた。

 文部科学省の判断は,外国人のうち短期滞在者が通う学校は公益性があるが,永住権を持っている外国人が通う学校は公益性がないとする不合理極まりない差別であって,平等原則(憲法第14条)に違反することが明らかである

 

2 特定公益増進法人の適用に関する人権侵害

 (1)特定公益増進法人に対する寄付金に関する税制上の優遇措置の内容

ア 特定公益増進法人に対する寄付金とは,公共法人,公益法人等のうち,教育又は科学の振興,文化の向上,社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものと認められる法人に対する寄付金で,その法人の主たる目的である業務に関連するものをいう。

イ 個人が支出した特定公益増進法人に対する寄付金については,次の算式で計算した金額が「寄付金控除」として,所得から控除される(所得税法第78条第2項第2号,所得税法施行規則(1965年大蔵省令第11号)第40条の8第4項,所得税法施行令第216条,「寄付金控除の対象となる寄付金又は法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する寄付金を指定する件」1965年4月30日大蔵省告示154号第2号)

 

      所得金額30%又は

     寄付金の額のいずれか少ない金額  −  1万円  = 寄付金控除額

 

所得税法施行規則(最終改正:2005年9月30日財務省令第73号)

第40条の8(主務大臣の認定を受ける公益の増進に著しく寄与する法人等)

第5項 令第217条第1項第4号に規定する財務省令で定める各種学校は,初等教育又は中等教育を外国語により施すことを目的として設置された学校教育法第83条第1項 に規定する各種学校であつて,文部科学大臣が財務大臣と協議して定める基準に該当するものとする。

 

ウ 法人が支出した特定公益増進法人に対する寄付金については,その寄付金の合計額と寄付金の損金算入限度額のいずれか少ない金額が損金に算入される(法人税法第37条第4項第2号,法人税法施行規則(1965年大蔵省令第12号)第23条の2第5項,法人税法施行令第76条,「寄付金控除の対象となる寄付金又は法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する寄付金を指定する件」1965年4月30日大蔵省告示154号第2号)

 なお,損金算入限度額を超える部分の金額は,一般の寄付金の額に含める。

 

 損金算入限度額=
(資本等の金額×当期の月数/12×2.5/1000+所得の金額×2.5/100)×1/2

           

 

法人税法施行規則(最終改正:平成17年9月30日財務省令第73号)

第23条の2(主務大臣の認定を受ける公益の増進に著しく寄与する法人等)

第5項 令第77条第1項第4号 に規定する財務省令で定める各種学校は,初等教育又は中等教育を外国語により施すことを目的として設置された学校教育法第83条第1項 に規定する各種学校であつて,文部科学大臣が財務大臣と協議して定める基準に該当するものとする。

 

(2)特定公益増進法人の対象から中華学校,朝鮮学校が排除されていること

 財務省は,2003年3月31日,外国人学校・民族学校への税制上の優遇措置として,法人税法及び所得税法の各省令を改正し,「初等教育又は中等教育を外国語により施す各種学校」を「特定公益増進法人」に追加した。

 しかし,それを受けた文部科学省告示第59号(2003年3月31日)では,その対象とする外国人学校・民族学校に二つの要件が設けられた。一つは,その学校が前述の欧米系の三つの国際評価機関(Western Associatoin of Schools&Colleges=WASC , Association of Christian Schools International=ACSI , Europian Council of International Schools=ECIS)及び国際バカロレア事務局により認定された学校であること,二つは,そこに学ぶ児童生徒が「外交」「公用」「家族滞在」の在留資格を有することである。その結果,外国人学校・民族学校のなかでも,極めて限られた学校のみが税制上の優遇措置を受けることになった。中華学校,朝鮮学校等のアジア系の外国人学校・民族学校は合理的な理由がないにもかかわらず「特定公益増進法人」から排除された。

 

 文部科学省告示第59号

 

 所得税法施行規則(昭和40年大蔵省令第11号)第40条の8第4項及び法人税法施行規則(昭和40年大蔵省令第12号)第23条の2第4項の規定に基づき,文部科学大臣が財務大臣と協議して定める基準を次のように定め,平成15年4月1日から適用する。

 

                       平成15年3月31日

                  

                       文部科学大臣 遠山敦子

 

 所得税法施行規則第40条の8第4項及び法人税法施行規則第23条の

第4項の規定に基づき,文部科学大臣が財務大臣と協議して定める基準は,出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)別表第1の1の表の外交若しくは公用の在留資格又は四の表の家族滞在の在留資格をもって在留する子女に対して教育を施すことを目的とし,かつ,その教育活動等について,スイス連邦ジュネーブ州に主たる事務所が所在する団体である国際バカロレア事務局,アメリカ合衆国カリフォルニア州に主たる事務所が所在する団体であるウエスタン・アソシエーション・オブ・スクールズ・アンドカレッジズ,同国コロラド州に主たる事務所が所在する団体であるアソシエーション・オブ・クリスチャン・スクールズ・インターナショナル又はグレートブリテン及び北部アイルランド連合王国ハンプシャー州に主たる事務所が所在する団体であるヨーロピアン・カウンセル・オブ・インターナショナルスクール・スクールズの認定を受けていることとする。

 ※なお,上記告示の所得税法施行規則第48条の8第4項及び法人税施行規則第23条の2第4項は,現在,所得税法施行規則第48条の8第5項及び法人税施行規則第23条の2第5項に該当する。

 

(3)2003年3月31日の財務省令改正及び文科省告示後,既に「特定公益増進法人」として監督庁である都道府県から「所得税法施行令第217条第1項第1号の2乙第3号又は第4号及び法人税法施行令第77条第1項第1号の2乙第3号又は第4号に掲げる特定公益増進法人であることの証明書」の発給を受けたことが確認されているインターナショナルスクールは以下のとおりである。

@ 西町インターナショナルスクール

A 東北インターナショナルスクール

B セント・メリーズ・インターナショナルスクール

C 清泉インターナショナルスクール学園

D 聖心インターナショナルスクール

E 大阪インターナショナルスクール

F 北海道インターナショナルスクール

G アメリカンスクール・イン・ジャパン

H サンモール・インターナショナルスクール

I 横浜インターナショナルスクール

J 名古屋国際学校

K カネディアン・アカデミィ

L 福岡インターナショナルスクール

          ※以上は,文部科学省への問い合わせにより確認したもの。

 

 3 検討

(1)憲法及び国際人権規約は,外国人に対しても民族教育を受ける権利を保障している。そして,民族教育を施す教育の場として外国人学校・民族学校に対し学校教育法第1条に規定する「学校」と同等な法的地位を保障することは不可欠である。

 日本に在住する外国人がその独自の言語,文化,伝統を保持し,日本国民と同等程度の水準の教育を維持するとすれば,その児童生徒一人あたりの経費は日本国民の児童生徒に比して高額とならざるを得ない。

 それにもかかわらず,日本政府は,外国人学校・民族学校に対して教育助成金を一銭も拠出していない。地方自治体の外国人学校・民族学校及びその児童生徒の保護者に対する補助金は,学校教育法第1条の定める私立「学校」と比べても全国平均で3分の1から4分の1のレベルであり,地域によっては10分の1,20分の1にしか満たないところもある。この助成金格差については1998年の2月にこれを「重大な人権侵害である」として,その差別是正を求める日弁連勧告がなされているところであるが,日本政府は,外国人学校・民族学校の運営が維持されるよう,外国人学校・民族学校に通う児童生徒の教育を受ける権利が実質的に保障されるよう,積極的な措置を講ずるべきであり,助成金の差別是正は勿論,少なくとも日本の学校に対する税制上の優遇措置と同等な措置を認めるのは当然である。

 寄付金に関する税制上の優遇措置は,日本社会における公益活動を税制面から援助する措置に他ならない。とすれば,日本社会に現に居住する在日外国人に対する民族教育(外国人学校・民族学校における母()語による普通教育)活動は,日本社会全体にとっても,高い公共性,公益性があることが明らかである。

(2)ある納税者に対して行われた課税処分自体が現行法のもとで適法であるとしても,他の納税者に対して適用されている有利な取扱いを特段の理由がないのに,当該納税者に対して適用しないことは,そのことだけで平等取扱い原則(憲法第14条)に違反し,違法となる(宇都宮地裁1955・11・24判決・行集6巻12号2817頁など。金子宏・「租税法・9版」弘文堂95頁,清永敬次・「税法・6版」ミネルヴァ書房35頁,北野弘久・「税法学原論・5版」青林書院205頁)。

(3)租税法律主義のもとでは執行機関である財務大臣及び文部科学大臣は厳格に法令により覊束されるのであって,所得税法第78条第2項第2号ロ及び法人税法第37条第4項第2号ロに該当する場合には財務大臣は寄付金控除あるいは寄付金を損金算入しなければならないのであって,そのような措置をとらないときは違法となるのである。租税法律主義のもとでは,税法学的には執行機関の自由裁量論が妥当する余地がないのである。

(4)学校教育法第83条第1項に規定する各種学校(外国人学校・民族学校)のうち,中華学校及び朝鮮学校だけを,税制上の優遇措置である指定寄付金制度の対象から排除することは,同じ各種学校である他の外国人学校・民族学校に寄付金を拠出した納税者に対して適用されている有利な取扱いを,特段の理由がないのに,中華学校,朝鮮学校に対し寄付金を拠出した納税者に対して適用しないものであり,そのことだけで平等取扱い原則(憲法第14条)に違反することは,あまりにも明らかである。

(5)文部科学省告示第59号(2003年3月31日)は,「初等教育又は中等教育を外国語により施す」外国人学校・民族学校のうち,@欧米系の3つの国際評価機関(WASC,ECIS,ACIS)及び国際バカロレア事務局により認定された学校であり,かつAそこに学ぶ児童生徒が「外交」「公用」「家族滞在」の在留資格を有する場合のみ,「特定公益増進法人」に該当するとして,税制上の優遇措置を適用している。

 上記の措置は,大学入学資格問題において,アジア系(中華学校,朝鮮学校,韓国学校など)を排除するのは“差別”だとの強い反発を招き,再検討,方針変更を余儀なくされ,アジア系の外国人学校・民族学校を含むかたちで省令等の改正を余儀なくされた後も,何ら是正されておらず,今日に至っている。

 前述したとおり,他の納税者に対して適用されている有利な取扱いを特段の理由がないのに当該納税者に対して適用しないことは,そのことだけで平等取扱い原則(憲法第14条)に違反し,違法となる。そうだとすれば,文部科学省は,初等教育又は中等教育を外国語により施すことを目的として設置された学校教育法第83条第1項に規定する各種学校である中華学校,朝鮮学校を「特定公益増進法人」として認める措置(告示)を施す責務があることは明らかである。

 中華学校,朝鮮学校を「特定公益増進法人」として認めず放置し,同じ各種学校である一部のインターナショナルスクールとは異なった不利な扱いをする上記措置(不作為)は,民族教育を受ける権利に対する侵害であり,また,憲法が保障する平等原則に違反することが明らかである。また,各中華学校,各朝鮮学校に通う児童生徒の民族教育を受ける権利及びその保護者の民族教育を受けさせる権利に対する侵害であり,さらには,執行機関である財務省及び文部科学省に裁量権を逸脱・濫用した違法がある。

 

第5 受配者指定寄付金制度等における人権侵害

 1 はじめに

 日本私立学校振興・共済事業団(以下,「事業団」という。)は,私立学校教職員共済組合及び日本私学振興財団を統合するかたちで1998年1月1日に設立された法人であり,私立学校の教育の充実及び向上並びにその経営の安定並びに私立学校教職員の福利厚生を図るため,補助金の交付,資金の貸付けその他私立学校教育に対する援助に必要な業務を総合的かつ効率的に行うとともに,私立学校教職員共済法の規定による共済制度を運営し,もって私立学校教育の振興に資することを目的とする。

 事業団は,従前日本私学振興財団が行っていた私立学校等に対する助成業務を引き継いで行っているところ,かかる助成業務のうち,受配者指定寄付金制度及び融資制度の対象から中華学校・朝鮮学校が排除されており,人権侵害を生じさせている。以下詳述する。

 

 2 受配者指定寄付金制度について

 (1)受配者指定寄付金制度の概要

   ア 内容

 受配者指定寄付金制度は,私立学校の教育研究の発展に寄与するために,事業団を通じて寄付者(企業等)が指定した学校法人へ寄付する制度であり,寄付者に対して税制上の優遇措置を行うためのものである。 この受配者指定寄付金制度は,1967年3月31日大蔵省告示第38号をもって開始され,旧日本私学振興財団法に規定された業務として行われてきた後,事業団の業務として引き継がれて今日に至っている。

   イ 税制上の優遇措置

 受配者指定寄付金は,寄付者が法人の場合には,法人税法上寄付金の全額を損金として算入することが認められている(法人税法37条4項二号,法人税法施行令76条,「寄付金控除の対象となる寄付金又は法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する寄付金を指定する件」1965年4月30日大蔵省告示第154号第2号の2)。

(なお,寄付者が個人の場合も所得税法上の特定寄付金として寄付金控除の適用を受けることができるが,事業団においては,「特定公益増進法人(学校法人)に対する寄付金と同じ措置になる」ことを理由として,原則として取り扱わないものとしているという。)。

 (2)受配者指定寄付金制度の対象から中華学校,朝鮮学校が排除されていること

   ア 事業団が取り扱う寄付金の要件

 事業団が発行する「受配者指定寄付金『寄付金事務の手引』」6頁には,事業団が取り扱う寄付金の要件が記されているが,要件(2)として下記条項が記載されている。

 

(2)既設学校法人(準学校法人を含む。以下同じ。)が設置する学校及び専修学校の教育若しくは研究に必要な費用又は基金に充てられるものであること。(専修学校にあっては,授業時間数が2000時間以上の高等課程又は授業時間数が1700時間以上の専門課程を設置するものに限る。)

   イ 大蔵省告示

 1965年4月30日大蔵省告示第154号(「寄付金控除の対象となる寄付金又は法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する寄付金を指定する件」)は,法人税法第37条第4項第2号,法人税法施行令第76条を受けて,法人の各事業年度の所得の計算上損金の額に算入する寄付金を指定しているが,同告示第2項の2は受配者指定寄付金の損金算入について下記のとおり規定しており,その対象から各種学校を排除している(なお,同項の「学校」は,学校教育法第1条に規定する学校(いわゆる1条校)に限られている。同告示1項の2参照。)。

 

同告示第2項の2

 日本私立学校振興・共済事業団に対して支出された寄附金で,学校法人が設置する学校若しくは専修学校の教育に必要な費用若しくは基金(専修学校にあっては,高等課程又は専門課程の教育の用に供されるものに限る。)に充てられるものの全額

   ウ 検討

 上記のとおり,受配者指定寄付金制度は,いわゆる1条校のみならず,一定の要件を満たした専修学校にも適用があるものの,各種学校については適用されない。結果,中華学校,朝鮮学校は同制度の対象から排除されているのである。

 

 3 融資制度について

 (1)融資制度の概要

 事業団は,「学校法人又は準学校法人に対し,その設置する私立学校又は職業に必要な技術の教授を目的とする私立の専修学校若しくは各種学校で政令で定めるものの施設の整備その他経営のため必要な資金を貸し付け,及び私立学校教育に関連してその振興上必要と認められる事業を行う者に対し,その事業について必要な資金を貸し付けること。」(日本私立学校振興・共済事業団法第23条第1項第2号)を業務の一つとしている(融資制度)。

 (2)融資制度の対象から中華学校,朝鮮学校が排除されていること

 上記融資制度はいわゆる1条校のみならず,一定の条件を満たした各種学校にも適用がある。しかし,日本私立学校振興・共済事業団法施行令及び同施行規則は,同制度の対象となる各種学校について下記のとおり定めており,中華学校・朝鮮学校を同制度の対象から排除している。

 

施行令第2条

 法第23条第1項第2号の政令で定める私立の専修学校又は各種学校は,機械又は装置の修理,保守又は操作,製造,加工,建設,医療,栄養の指導,保育,経理その他これらに類する職業に必要な技術の教授を目的とするものであって,文部科学省令で定める課程を有するものとする。ただし,医学又は歯学の学部を置く大学を設置する学校法人が開設する病院又は診療所の運営に関し必要な附属施設である専修学校又は各種学校を除く。

 

施行規則第3条

 令第2条の文部科学省令で定める各種学校の課程は,機械,自動車整備,電気,電子,ラジオ,テレビジョン,放送装置,無線装置,造船,応用化学,金属加工,工業化学,写真,服飾,建築,土木,機械設計,建築設計,機械製図,建築製図,測量又は経理に関する各種学校の課程及び診療エックス線技師,衛生検査技師,歯科技工士,歯科衛生士,看護師,准看護師,あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師,柔道整復士,栄養士,調理師,小学校教諭,中学校教諭,養護教諭,幼稚園教諭又は保育士の養成を行う各種学校の課程であって,次の各号に掲げる要件を備えたものとする。(以下略)

 4 検討

 受配者指定寄付金制度は,学校法人が寄付金を受け入れるうえで有用な制度の一つであり,文部科学省自ら,「学生数の減少など私学を取り巻く厳しい環境の中で,各学校法人には経営基盤の強化が喫緊の課題とされているが,寄付金の受入れはそのための有効な手段の一つであり,今回改善がなされた日本私立学校振興・共済事業団を通じた受配者指定寄付金制度をはじめ,特定公益増進法人制度など学校法人への寄付を促進するための様々な税制上の優遇措置を積極的に活用されたい」旨各学校法人理事長宛に通知している(2004年3月29日15文科高第912号文部科学省高等教育局私学部長通知)ことからもその重要性は明らかである。

 にもかかわらず,中華学校・朝鮮学校は,かかる受配者指定寄付金制度の適用対象から排除されている。

 また,融資制度についても,同様に,中華学校・朝鮮学校はその対象から排除されているのである。

 上記の差別的取扱は,何ら根拠のない不合理なものである。中華学校・朝鮮学校の教職員らが,旧私立学校教職員共済組合の時代から私学共済に加入しており(私立学校教職員共済法第14条,私立学校法第64条4項参照),事業団の行う共済事業の対象となっていることにかんがみても,同じ事業団の行う受配者指定寄付金制度及び融資制度に関してのみ差別的取扱をする合理的理由は全く存しない。

 以上のとおり,かかる差別的取扱が,日本国憲法及び国際人権規約に反する重大な人権侵害であることは,明らかである。

 

第6 大学入学資格における人権侵害について

1 省令等の改正

従来,外国人学校・民族学校の高校相当課程の卒業者は,基本的には「大学入学資格検定(大検)」に合格しなければ,大学を受験できなかった。そのような中でも公立,私立の大学では,「その他大学において,相当の年齢に達し,高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者」は大学入学資格を有する,とする学校教育法施行規則における条項(第69条第6号 ※2003年改正の前の文言)を活用して朝鮮高級学校等の卒業(見込)者に大学入学資格を認めるところが増大し,1990年代後半にはすでに過半数に達していた(大学院においても学校教育法施行規則第70条に大学と同様,大学院による認定条項があり,多くの公立,私立の大学院が受験を認めてきた)が,国立大学だけは忠実に文部省の意向に従って「大検」合格を出願の条件としてきた。

 しかし,1998年秋,京都大学大学院が,文部省の意に反して朝鮮大学校(各種学校)卒業者の大学院受験を認めた(合格)。同年,九州大学大学院も同じく門戸を開放した。いずれも,公・私立大学が活用した大学及び大学院認定条項を活用してのことだった。大学院レベルではあるが,国立大学の一角が崩れたことから,文部省もついに方針変更を余儀なくされ,翌1999年7月,各大学院の判断に委ねることにした。具体的には,「大学院において,個別の入学資格審査により,大学卒と同等以上の学力があると認めた者」を加える省令改正が行われた。

   その後,規制緩和の流れもうけて,文部科学省は,2003年3月6日,外国人学校・民族学校(高校レベル)40校のうち,欧米系の三つの国際評価機関(Western Associatoin of Schools&Colleges=WASC , Association of Christian Schools International=ACSI , Europian Council of International Schools=ECIS)の認定をうけた16校の卒業(見込み)者には,大学入学資格を認めると発表した。しかし,アジア系(朝鮮学校,韓国学校,中華学校など)を排除するのは“差別”だとの強い反発を招き,同年3月28日,それを凍結し,再検討すると表明した。文部科学省は,同年9月,ついに学部の入学資格問題についても方針変更を余儀なくされ,省令等を改正した(学校教育法施行規則第69条等)それは,@3つの国際評価機関(前述)の認定をうけたインターナショナル・スクールの卒業(見込み)者,A本国の高校と同等の課程を有すると位置づけられた学校(韓国学校,中華学校,など)の卒業(見込み)者,B各大学の個別審査により認定された者は,いずれも大学入学資格を有するとされたのである。その結果,中華学校,韓国学校の卒業(見込み)者は,Aに該当するとして,大学入学資格が認められた。しかしながら朝鮮学校(高級部)の卒業者に対しては,合理的な理由なしに,@及びAには該当しないとされたため,B各大学の個別審査による判断に委ねられた。

 2 朝鮮高級学校卒業(見込み)者に対する不当な差別

朝鮮高級学校の卒業(見込み)者は,日本と朝鮮民主主義人民共和国との間に国交がないことから,「外国において当該外国の正規の課程と同等として位置づけられている」ことが「公的に確認」できないとして,Aから排除された。

 しかし,他方で,中華学校の卒業者については,台湾系の中華学校についても,「外国において当該外国の正規の課程と同等として位置づけられている」ことが「公的に確認」できるとして,Aの適用を認めた。

 つまり,文部科学省は,国交の有無とは別の「公的確認」という曖昧な根拠に基づいて,合理的な理由がないにもかかわらず,恣意的に,朝鮮高級学校卒業(見込み)者のみをAの対象から排除したのである。

 同じ各種学校である外国人学校・民族学校のうち,朝鮮学校のみを不当に差別するものであり,憲法が保障する平等原則に反することはあまりにも明らかである。

 現在,朝鮮高級学校卒業(見込み)者の大学入学資格の有無は,B各大学の個別審査の結果如何にかかっており,その結果,個々人が受験する可能性のある全大学における入学資格審査を受け,その結果を待たなければならないという過重な負担が課されたままである。

  また,大学によっては2003年9月の省令等改正後も,個別審査するための体制が整っていないといった理由で個別審査すらしようとしない大学も一部には存在している(明らかになっている具体例として,2005年度入学試験における玉川大学,2006年度入学試験における淑徳短期大学)。

 さらに,2005年11月,大阪市立大学が大阪朝鮮高級学校卒業見込生について,「高校在学生」に該当しないとして,推薦入試出願を拒否した事実も判明している。

 3 看護専門学校等,専門学校における個別審査による弊害

   専門学校(専門課程の専修学校)への入学資格についても2003年9月19日の省令改正及び告示で,大学入学資格とともに緩和された(学校教育法施行規則第77条の5)。またこの学校教育法関連の省令等改正を受ける形で,看護師や栄養士,歯科衛生士,保健師,はり師,きゅう師といった保健医療分野及び福祉分野における各資格の養成所の入所資格等を見直し,朝鮮学校高級部卒業(見込み)生にも養成所が一般の高卒者と同等と判断するなら入所させて良いとする厚生労働省3局長(医政局長,健康局長,社会・援護局長)通知が同年10月7日,都道府県知事宛に出された。

  大学入学資格と同様に,外国人学校・民族学校については英米系の学校評価機関や本国承認(公的確認)という形で入学資格を認めるとする一方,朝鮮学校についてだけは各専門学校においての個別審査の結果次第という形になったことにより,受験者はじめ朝鮮学校関係者が過重な負担を負わされている。

 とりわけ看護学校等については大学等とは違う部署(例えば,埼玉県の場合は医療整備課)が管轄しており,「個別審査」の方法に関する指導も,個別審査のための試験制度の設置を求める(例えば,埼玉県の場合は個別審査のための試験制度の設置を求める指導をしていたが,2005年12月に朝鮮学校関係者の抗議を受け,現在は指導内容を変更している。)など,不合理かつ過度な負担を課しており,専門学校の監督庁である都道府県の指導においても一定の混乱が見受けられる。その為,ある朝鮮学校高級部3年の生徒が2006年度入試に際して,看護専門学校への入学を希望し,埼玉県,東京都,神奈川県下の20以上の看護専門学校に入学資格の有無を打診したところ,半数以上が個別審査すらしないとして,入学試験の資格を否定する対応をしたことが判明している。

 

※東京朝鮮中高級学校高級部3年(申立日現在)のXさんが2006年度入試の応募を考え入学資格の存否について打診したところ,入学(受験)資格を認めないとした学校及び認めるとした看護専門学校は次の通りである。

  ア 認めないと回答した看護学校

(東京)

・河北総合病院看護専門学校

・校成看護専門学校

・聖和看護専門学校

・東京都済生会看護専門学校

・博慈会高等看護専門学校

(神奈川)

・聖マリアンナ医科大学看護専門学校

・横須賀共済病院看護専門学校

・横浜市医師会保土谷看護専門学校

(埼玉)

・浦和学院専門学校

・済生会川口看護専門学校

・戸田中央看護専門学校

  イ 認めると回答した看護学校

   (東京)

     ・板橋中央看護専門学校

     ・立川市立看護専門学校

     ・西新井看護専門学校

   (神奈川)

     ・神奈川県立平塚看護専門学校

     ・藤沢市立看護専門学校

     ・横須賀市立看護専門学校

     ・横浜市病院協会看護専門学校

   (埼玉)

     ・川口市立看護専門学校

     ・(上尾市医師会)上尾看護専門学校

     ・平和学院看護専門学院

 このように2003年の省令の改正後も依然として,朝鮮学校卒業(見込み)生の入学資格を認めていない専門学校が少なからず存在し,同生徒らに対する人権侵害が解消されていない。

 4 検討

 前述したとおり,憲法及び国際人権規約等が外国人に対しても,自己の文化・歴史を享受し,自己の言語を学び,アイデンティティを保持するための教育を受ける権利を保障していること,外国人児童生徒の母()語,自己の文化・歴史にほとんど配慮されない日本の「学校」の現状に鑑みれば,自由に,かつ,いかなる形態の差別もなしに,外国人児童生徒の母()語教育,自己の文化,歴史を保障する教育の場として,民族教育を施す外国人学校・民族学校に対し,学校教育法第1条に規定する「学校」と同等な法的地位を保障することは不可欠である。 

 このようなことから,朝鮮高級学校卒業(見込み)者も学校教育法第1条に規定する「学校」及び他の各種学校である外国人学校・民族学校の卒業(見込み)者と同様に,各大学及び各専門学校(専門課程の専修学校)の入学資格審査の有無にかかわらず,「高級学校」卒業(見込み)者として,当然に大学及び専門学校の入学資格が認められなければならない。

 朝鮮高級学校卒業(見込み)者の各大学及び各専門学校(専門課程の専修学校)の入学資格について,2003年9月の省令改正後である2004年1月に行われた児童の権利(条約)委員会は,日本政府の対応の上記対応を問題視し,同月30日に発表した総括所見にて懸念事項として,「日本にある外国人学校を卒業して大学進学を希望する者の資格基準が拡大されたとはいえ,依然として高等教育へのアクセスを否定されている者が存在すること」(パラグラフ49〔d〕)とし,マイノリティ・グループの子どもが自己の文化を享受し,自己の宗教を表明しまたは実践し,かつ自己の言語を使用する機会を拡大すること」を勧告している(パラグラフ50〔d〕)

 

※ 教育内容が多様であり,「1条校」のように学習指導要領に従うことも求められていない専修学校については,その高等課程の卒業生に対し,1985年の法改正により,既に一定の要件をその専修学校が充たしていることを条件に,大検なしで大学への受験が認められている。その要件とは当該専門学校の修業年限が3年以上で卒業に必要な総授業時数が2590単位時間以上,普通科目の総授業時数は420単位授業時数以上などの形式的・外形的なものである。朝鮮学校はこの要件を充たしているが,専修学校の規定は「我が国に居住する外国人を専ら対象とするものを除く」(学校教育法第82条の2)とされているため,この要件の適用による大学入学資格の道は認められていない。

 しかしこのような規定の存在は,文部科学省がその気になりさえすれば,同じくこの形式的・外形的尺度による専修学校高等課程方式を適用して朝鮮学校の卒業生の入学資格を認めることも可能であることを示している。

なお,既に述べたようにこの専修学校は1975年の学校教育法改正によりできた制度であるが,政府においてはこの専修学校制度創設と並行して検討された外国人学校制度の創設が検討されていた。しかしそれを定める外国人学校法案(1968年国会上程,それを前後して数回にわたり国会に上程された。ただし1968年以外は学校教育法の一部改正という形での上程であった)の内容は権利保障規定は一切ない反面,管理規制強化の規定のみが並ぶといったものであったがため,世論の強い反対を受け,廃案となっている。学校教育法第82条の二においてわざわざ括弧書きされている「我が国に居住する外国人を専ら対象とするものを除く」という文言は本来,外国人学校制度の創設を前提として書かれていたものとも受け取れるが,この文言により外国人学校を無権利状態のまま放置する結果を招いてしまっているのが現状である。

 

 以上から,外国人学校・民族学校のうち朝鮮学校のみ,各大学や各専門学校がその卒業生を個別審査してその入学資格の有無を決するとする上記省令改正は,憲法第14条が保障する平等原則に違反することが明らかであり,憲法及び国際人権規約に違反する人権侵害であると言わざるを得ない。各大学及び各専門学校の入学試験に関して,同校卒業(見込み)者に対してのみ過度な負担を課した文部科学省の上記措置は,各朝鮮学校に通う児童生徒の民族教育を受ける権利及びその保護者の民族教育を受けさせる権利に対する侵害であることが明らかである。

以 上

 

 

             証  拠  方  法

1 甲第1号証 学校案内(横浜山手中華学園ホームページから抜粋)

2 甲第2号証 入学案内(東京朝鮮各級学校)

3 甲第3号証 学校案内(神奈川東京朝鮮中高級学校ホームページから抜粋)

4 甲第4号証 第47回人権擁護大会シンポジウム第1分科会基調報告書(本編)        「多民族・多文化の共生する社会をめざして」(抜粋)

5 甲第5号証 国連条約委員会による勧告(抜粋)

6 甲第6号証 日弁連勧告書及び要望書

7 甲第7号証 朝日新聞1997年8月7日付記事 

8 甲第8号証 朝日新聞2004年5月25日(夕刊)付記事

9 甲第9号証 「プレジデント」2005年10月3日号記事

10 甲第10号証 神奈川新聞2006年2月19日付記事

11 甲第11号証 神奈川新聞2006年2月23日付記事(社説)

12 甲第12号証 神戸新聞2003年3月9日付記事

13 甲第13号証 朝日新聞2005年11月5日付記事

14 甲第14号証 1996年9月30日付「同法たちの人権と生活」(在日本朝鮮人人権協会)

15 甲第15号証 「各種学校に設置する準学校法人等の特定公益増進法人への追加に関する関連法令の改正等について」(2003年5月26日付文部科学省大臣官房長通知)

16 甲第16号証 「受配者指定寄付金−寄付金事務の手引」(日本私立学校振興・共済事業団)

17 甲第17号証 大島令子衆議院議員の三つの質問主意書とそれへの政府回答

18 甲第18号証 1965年4月30日付大蔵省告示第154号

19 甲第19号証 2003年3月31日付文部科学省告示第59号

20 甲第20号証 2003年9月19日付文部科学省告示第151号

21 甲第21号証 2003年10月29日付文部科学省告示第164号

22 甲第22号証 2004年1月19日付文部科学省告示第4号

23 甲第23号証 2004年3月31日付文部科学省告示第62号

 

 

            添  付  書  類

1 甲号証の写し   各1通

2 資格証明書     3通

3 訴訟委任状      6通

 

 

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